ビルの省エネ指南書」カテゴリーアーカイブ

ビルの省エネ指南書(15)

ビルの省エネ指南書(15)

ファンコイルのチューニングポイント〔其の1

機械室(2 

5、系統毎の流量制御

冷温水温度だけではなく流量も制御できればさらに効果がある。


図-1 同一のポンプで送水

図-1のように空調機系統と同一のポンプで送水されているのならば空調機も含めた全体としての流量調整を行いながら、ファンコイル系統のバルブや各階のバルブで、空調機だけでは室温を維持できない場合の不足分を補うだけの最小限の流量に調整すればよい。

6、ポンプでの流量調整


図-2 個別のポンプで送水

図-2のように空調機とファンコイルの二次ポンプが個別にあるのならば、ファンコイル系統のみの流量を簡単に調整することができる。ファンコイル系統のポンプがインバーター制御ならばバルブで調整するよりもインバーターの最高周波数を部屋の冷房状況をみながら少しずつ下げていけばよい。

図-2のような設備構成では、一次ポンプ1台よりも二次ポンプ3台のほうが、流量が多くなるだろう。この場合は還ヘッダから往還ヘッダバイパスを通って直接往ヘッダに冷水が廻り込むために、往ヘッダの冷水温度は吸収式冷凍機からの冷水と往還ヘッダバイパスを通った還水が混合されて、少し高めの冷水温度になる。往水温度は還水温度の変化と同様に変化することになるため、一定温度の冷水が送れないという問題がある。

7、バイパスバルブでの流量調整


図-3 ファンコイル用ポンプを停止

図-3のようにファンコイル系統の循環ポンプを停止させて、一次ポンプの圧力で送水してみるのもよい。一次ポンプのほうが二次ポンプ1台よりも流量が多いだろうから、往還ヘッダバイパスには図-2とは逆方向に冷水が流れることになり、往ヘッダの冷水温度は吸収式冷凍機の出口温度と同一の温度となるため、安定した温度の冷水が送れることになる。ファンコイル系統への流量調整はヘッダのバイパス弁でおこなうのだ。バイパス弁を閉じていけば還ヘッダへの廻り込みが減るのでファンコイルへの流量が増え、開ければ廻り込みが増えて流量が減るのだ。ポンプを停めて流量調整するので、ポンプ電力が不要となる効果がある。

ビルの省エネ指南書(14)

ビルの省エネ指南書(14)

ファンコイルのチューニングポイント〔其の1

機械室(1

1、ファンコイルのあるビル

ファンコイルのあるビルでは空調機だけで空調をおこなっている部屋と空調機とファンコイを併用している部屋とファンコイルだけで冷暖房をおこなっている部屋のいずれかが考えられる。

ファンコイルは各室で自由にON・OFFや風量の調整ができる場合が多いため、どうしても過剰な冷暖房となってしまい、無駄なエネルギーを使う結果となっている。このファンコイルで使われている無駄なエネルギーを減らすだけでも大きな省エネ効果が期待できるだろう。

2、空調機の二方弁

ファンコイルには空調機に流れる冷温水と同じ温度の水が、流量制御もなく流れている場合が殆どだろう。このようなファンコイルのある部屋ではファンのON・OFF操作と風量切換だけで過冷房も過暖房も自由自在である。

電動弁による流量制御と温度センサーによる風量調整が行えるファンコイルもあるが、各室が自由に設定できるようでは、自動制御の無いファンコイルと同じことである。

この結果、空調機とファンコイルを併用している部屋ではファンコイルだけで室温の維持ができてしまうため、空調機の二方弁が閉まってしまい、ファンコイルが主で空調機が副という空調的には本末転倒なってしまうビルも数多くあるはずだ。このように主と副が逆転した場合の弊害は冬になると顕著に現れる。

ファンコイルの暖房だけで空調設定温度になると、空調機の二方弁が閉まり空調機から導入される外気が加熱されないまま還気と混ざって、室内給気口から吹き出すことになる。この場合の給気温度は室内温度以下となるために、給気口の真下にいる人は冷気を直接浴びて、非常に寒い思いをすることになる。このためにクレームがきたというビルもあるだろう。

それでは給気口からこのような冷気が出ることを無くすにはどうすればよいだろうか。

それにはファンコイルだけでは十分な暖房ができないようにすればよい。空調機の二方弁が開くように調整すれば空調機が主でファンコイルが副となる本来の姿に戻るだろう。

3、冷温水温度

冷房の場合は冷水温度を上げていったらどうなるだろうか。ファンコイルからの給気温度が上がり、ファンコイルだけでは室内冷房温度を維持することができなくなれば、空調機の二方弁が開いてくるだろう。そしてファンコイルの冷房能力が低下するに従い、空調機の二方弁が徐々に開き、最後には全開となる。二方弁が全開まで開くということは外気を十分に冷やして導入していることになる。

暖房の場合ならば温水温度を下げていけばよい。そうすれば冷房と同じように空調機の二方弁が開き、導入した外気を暖めるので、室内給気口からは必ず室温以上の暖かい空気が出るようになる。これで給気口の真下にいる人が寒いということもなくなるだろう。

このように冷温水温度に余裕を無くし、空調機だけで冷暖房できない時だけファンコイルを運転するようにしたい。

空調機とファンコイルを併用している部屋ならば、冷暖房ピーク時には空調機と併用しなければ室温を維持できない冷温水温度と流量に調整しておけば、ファンコイルだけで室温を維持できないので、空調機の二方弁が閉まることはない。これで空調機が主でファンコイルが副となる冷暖房になるだろう。

4、ファンコイル運転時間

空調機だけで冷暖房ができるのならばファンコイルを運転する必要はないので、夏季は日射の入る時間だけ運転するとか、できるだけ運転時間が短くなるようにしたい。ファンコイルの運転は必要最小限の時間にして、空調機で室温が維持できない場合だけ運転すればよい。

運転を各室任せにせず、裏で上手くコントロールするのも、設備員の腕の見せ所だ。

ビルの省エネ指南書(13)

ビルの省エネ指南書(13)

空調機のチューニングポイント〔其の3〕

中間期(2)

5、加湿冷房

総合図書館では中間期の省エネ対策として加湿を冷房に利用していた。

空気が乾燥している中間期にスプレー式の加湿をおこなうと水の蒸発効率が高く、給気温度が5℃近く下がる日もあったほどだ。

窓を開けることが出来ないビルなので外気だけでは冷房できず、空調機にも外気冷房用のバイパスがないため、冷熱も併用して冷房をおこなっていたが、加湿冷房を行うようになってからは中間期での冷熱の使用量を大幅に減らすことができた。

暖房時の加湿ならば湿度の設定が可能で、図書館内が40%以上の湿度になるよう設定しておけばよいが、冷房時は制御的に加湿ができないため、手動で加湿用の加圧ポンプを運転していた。中間期のように外気が乾燥しているのに加湿ができなければ、建物内の湿度を40%以上に維持することはできないが、水の気化熱を利用した冷房ならば湿度維持も同時にできるのだから一石二鳥である。

6、加圧ポンプ

総合図書館の加湿制御は加湿制御用のリレーがONになり、加圧ポンプのスイッチが入になっていなければ加圧ポンプが動かない構造である。中間期にも加湿するには、加湿制御用のリレーを強制的にON状態にすればよい、あとは加圧ポンプのスイッチを手動で入り切りすればよいのだ。しかし手動ではスイッチの切り忘れの可能性があるので十分に注意しなければならない。加湿冷房のつもりが、空調機が停止している時に水の垂れ流しとなっていては意味がない。このためにも加湿の自動制御は暖房時だけではなく冷房時もできるようにするべきであろう。

7、外気量

加湿冷房の調整ポイントは外気導入量の調整である。外気だけでの冷房ならばあまり考えなくてもよいが、冷熱との併用となればいろいろな条件も考慮しなければならない。

①       外気だけで冷房

②       外気と加湿を併用

③       外気と加湿と冷熱を併用

①の外気だけで冷房が可能ならば、外気導入量が多くなるようにダンパーを調整しておけばよいので簡単だ。

②の加湿も併用するとなれば外気湿度とスプレー量を考えなければならない。外気湿度が高いのにスプレー量が多くては、蒸発効率が低下して水の無駄となる。

スプレー量の調整は複数台の加圧ポンプがあれば運転台数で調整が可能だが、1台ならばノズルを減らして調整しなければならない。この方法については何れ冬季の加湿で詳しく述べるつもりである。

難しいのは③である。冷熱も併用するということは空調機の設定は外気冷房ではなく冷房になっているはずだ。当然に還気もあるが、還気は外気よりも温度も絶対湿度も高いはずであり、このような還気ではスプレーの蒸発効率が悪くなる。還気が多くて外気冷房効果や加湿冷房効果も悪くなるのならば、還気ダンパーを絞りぎみにして外気量を増やしたほうがよいが、これだけでは建物内の気圧が高くなりすぎるので、それに見合った自然排気も考えなければならない。

8、風除室

自然排気が簡単に行える場所は出入口であり、ドアが開けば必ず排気する場所である。外気侵入防止の風除室があれば二重ドアであるが、この内側のドアを開放停止状態にしておけば、これだけでも空気が流出しやすくなるだろう。

中間期に二重ドアの必要はなく、むしろ空気を積極的に逃がす場所として利用したい。

ビルの省エネ指南書(12)

ビルの省エネ指南書(12)

空調機のチューニングポイント〔其の3〕

中間期(1)

1、 外気冷房

中間期は外気をどれだけ冷房に利用できるかが決め手である。

外気冷房用のバイパスがある空調機ならば、空調機の各ダンパーは出来るだけ全開にしたい。バイパスがない空調機ならばSA、OAダンパーは全開、RAダンパーは出来るだけ閉める方向で調整が必要だろう。1年中同じダンパー開度のビルもあるが、それでは効率的な外気利用ができるはずもない。

排気に関しては熱気のこもった場所からビル内の気圧を利用して排気したほうがよいだろう。負圧のビルでは逆に熱気が下りてきて暖房になってしまう可能性もあるのでビル内の気圧を保つダンパーの調整は重要である。

空調機からの排気だけを考えるのではなく、ビル全体のバランスを考えた排気の調整が大切なのだ。

2、中性能フイルター

空調機内に中性能フイルターがある空調機はフイルターの目詰まりにも注意したい。排気にはフイルターがないためスムーズに排気ができるが、中性能フイルターの目詰まりにより給気がスムーズにできないということは、この部分だけをみれば負圧になるということでもあるので注意したい。

フイルターの清掃方法だが、フイルター表面に付着している粉塵ならば吸気側を下にして、フイルター枠の周囲をゴムハンマーで軽く叩けば取れるだろう。しかし何年も使っている中性能フイルターならば粉塵が濾材の中に入り込んで叩くだけでは取ることはできない。こうなれば洗浄か交換しかないだろうが、もうひとつ方法がある。それは応急的に中性能フイルターを取外してしまうのだ。

3、プレフィルター

中性能フイルターを取外すとプレフィルターだけになるので、最低でも月に1回はプレフィルターの洗浄をおこないたい。清掃ではなく洗浄するのだ。この場合は上水の水栓から直接洗浄するのではなく、出来れば高圧洗浄機を使いたい。上水の圧力では取れない汚れも高圧洗浄機ならば見違えるように奇麗になるだろう。

上水の使用量も少なくて済み、洗浄時間も大幅に短縮できるので、節水にもなり洗浄作業の負担軽減にもなる。

4、給気量の調整

目詰まりした中性能フイルターを取外すとそれだけ空気抵抗がなくなり空調機からの給気量が増えるはずだ。その結果、室内の給気口で風切音がするようならば給気量の調整もしなければならない。

給気ファンがインバーターによる回転数制御ならば、インバーターの最高周波数を中性能フイルター取外し以前と同程度の給気量になるように調整すればよい。確実に給気ファンの回転数が下がるので省エネ効果は大きいだろう。

回転数が下がればファンの摩擦熱も減り、それだけ外気冷房効果も高くなる。

中性能フイルターを取外すだけで電力と熱の省エネが簡単にできるのだ。これは中間期に限らずに夏季や冬季に行っても構わない。

インバーターの最高周波数だけではなく最低周波数も見直せば空調機運転時間全てにおいて省エネができる。20%回転を落とすことが可能ならばファンの消費電力は50%近くも下がるため大きな省エネ効果が期待できるのだ。

給気ファンがインバーター制御でなければダンパーで調整するしかないが、この場合も給気ファンに対して吐き出し側のダンパーは全開で、吸い込み側のダンパーで調整したほうがよいのは「空調機のチューニングポイント〔其の1〕ダンパー」で説明しているとおりだ。

ビルの省エネ指南書(11)

空調機のチューニングポイント〔其の2〕

インバーター

1、 ダンパー調整

インバーターが導入されている空調機のダンパー調整も基本的には同様だ。ただ風量調整はインバーターの周波数でおこなうために、SAダンパーは全開、OA・RAダンパーは両者の混合率を考慮しながらの外気量調整用として使えばよい。中間期に外気冷房効果を高めるのならばOAダンパーは全開でRAダンパーを閉めて調整すればよく、冷暖房時ならば逆にOAダンパーを閉めてCO2濃度を考慮した開度調整をおこなえばよい。両方を閉めて調整すると変風量の空調機の場合はインバーターの周波数が上がる可能性があるので、どちらか片方のダンパーは全開としたい。

2、インバーター周波数調整

SAファンとRAファンがインバーターで回転数制御されているにもかかわらずSAダンパーが閉まっている空調機をよく見かけるが、このような場合はダンパーを全開にするだけでは室内への給気量が増え過ぎるので、冷暖房ピーク時でも室内への給気量が今までと変わらない程度にインバーター最高周波数の設定を下げればよい。

風量を変えずにインバーターの周波数を下げることができるのだから、空調的には何等問題はなく、電力の省エネ効果は非常に大きなものとなる。ダンパーを開けることで給気ファンによる圧損も減り、ファンの回転数が低いほどファンと空気間の摩擦熱も減るので、冷熱の省エネともなる。

3、RAファン

RAファンのある空調機の場合は、RAファンは還気のためだけではなく、排気のためにあると考えたい。RAファンのインバーター最高周波数をSAファンよりも低く設定すれば排気量が減り、ビル内の気圧を高めることができる。5Hz程度下げて実験してみればよい。

RAファンを完全に停止させてもよいだろう。

EAダンパーを閉じてOAとRAだけで空調をおこなうのだ。この場合、EAがなければ全熱交換機を運転する意味はないので、全熱交換機がある空調機は全熱交換機を停止させたい。

回転型の全熱交換機であればローターとRAファンのモーターを停止できるので電力の省エネとなる。負圧のビルならば全熱交換機からの排気を停止させても増エネにならないことは指南書の「全熱交換気」で説明している。

RAファンを停止させたときにEAダンパーを閉じなければ、排気ダクトから空気が逆流して空調機に入ってくる。フィルターを通らずに入ってくるので、粉塵が増えることになり、全熱交換器のある空調機ならば、ローターの汚れの原因ともなるので注意したい。

4、SAファン

下の写真は空調機制御盤である。

電流計は左がSAファン、右がRAファン。

下段にあるRA運転の表示ランプが消えて、RA停止のランプが点灯している。RAファンを停止させて、SAファンだけで空調をおこなっているのが、電流計の指針で確認できる。

今まではSAファンとRAファンの2台で還気と給気をおこなっていたのに、SAファン1台にして大丈夫だろうかと思うかもしれないが、外気冷房中はSAファン1台で屋外から吸気して室内へ給気をおこなっているのであるから問題はない。若干インバーター周波数は上がるかもしれないが、ダンパーが閉まっていたときよりも低いはずであり、RAファンが停止しているのであるから、電力の省エネ効果は大きい。 

電流計は左がSAファン、右がRAファン。

下段にあるRA運転の表示ランプが消えて、RA停止のランプが点灯している。RAファンを停止させて、SAファンだけで空調をおこなっているのが、電流計の指針で確認できる。

今まではSAファンとRAファンの2台で還気と給気をおこなっていたのに、SAファン1台にして大丈夫だろうかと思うかもしれないが、外気冷房中はSAファン1台で屋外から吸気して室内へ給気をおこなっているのであるから問題はない。若干インバーター周波数は上がるかもしれないが、ダンパーが閉まっていたときよりも低いはずであり、RAファンが停止しているのであるから、電力の省エネ効果は大きい。

ビルの省エネ指南書(10)

空調機のチューニングポイント〔其の1〕

ダンパー

1、 空調機での気圧調整

空調機のあるビルならば、厨房等は別としてビル内への外気導入は空調機でおこなっているのが一般的であり、排気も空調機からが主である。つまり空調機で換気をおこないながらビル内の気圧バランスを調整しているのだ。

空調機本体とその周囲には外気(OA)ダンパー、給気(SA)ダンパー、還気(RA)ダンパー、排気(EA)ダンパーがあり、これらのダンパーで空調区画内の給気・排気を調整しているが、ビル全体としての気圧も積極的に調整したい。空調区画毎に気圧を調整しながら、ビル内全体の気圧バランスを最も省エネになるように調整するのだ。冷暖房時にビル内の気圧バランスがとれてこそ全熱交換機等も有効な省エネ設備となり、正圧となってこそこもった熱気を押し出すことができる。

ビル内でも気圧の変化をつければCO2濃度の低い空気を、濃度の高い空調区画へ導きながら、その区画から気圧を利用した自然排気をおこなうこともできる。冷暖房条件のよい区画の空調機からのOA量を増やすことで、そのOAを空調負荷が多い区画へ導き、外気負荷をバランスよく分散させることもできる。これら全ては空調機のチューニング次第である。

2、 総合図書館の空調機

総合図書館の主要な空調機にはインバーターが導入されておらず、小型の空調機においてはインバーターがあっても一定周波数で利用されている。主な空調機には外気冷房用のバイパスも全熱交換機もなく、SAファンが1台あるだけだ。空調機用のEAファンは余剰ファンとして空調機械室内に別途設置されているが運転していない。本来ならばこの余剰ファンで還気の一部を排出するのだが、還気は室内温度の空気であるため電力を使ってまで捨てるのは勿体ない。排気はトイレに導くか自然排気だけで十分だ。

3、 ダンパー調整

写真―1 空調機ダンパー

給気量は空調機のダンパーで調整するが、SAファンの吐出側ダンパーは全ての空調機において全開にして、給気量調整は吸込側のRAダンパーとOAダンパーで調整している。

吐出側のダンパーを閉めて給気量を調整するよりも、吸込側のダンパーを閉めて調整したほうが、同じ風量ならばSAファンモーターの電流が20%近く下がったからだ。

ダンパーを調整する前には写真―1のように現在の開度に印を付けておき、いつでも元に戻せるようにすることを忘れてはならない。

昔の話になるが外気冷房中にSAがOAよりも温度が1℃上がっていたのをみて不思議に思い原因を調べたことがある。空調機内部の温度をフイルター⇒熱コイル⇒エリミネーター⇒SAファン入口⇒SAファン出口と調べていったところ、SAファン出口で上がっていた。

吐出側のダンパーを閉めると圧損が生じ、ファンと空気の間で摩擦熱が発生しやすくなるためSA温度が上がるのだ。ファンの吐出側は塞がずに吸込側で給気量を調整したほうがSA温度も上がらず電力と熱の省エネになる。

このようにダンパー操作を行うだけで、SA温度を1℃下げることができた空調機もあったが、正確には1℃上がらなかったというべきであろう。冷房には貴重な1℃であった 

写真―1 空調機ダンパー

 

給気量は空調機のダンパーで調整するが、SAファンの吐出側ダンパーは全ての空調機において全開にして、給気量調整は吸込側のRAダンパーとOAダンパーで調整している。

吐出側のダンパーを閉めて給気量を調整するよりも、吸込側のダンパーを閉めて調整したほうが、同じ風量ならばSAファンモーターの電流が20%近く下がったからだ。

ダンパーを調整する前には写真―1のように現在の開度に印を付けておき、いつでも元に戻せるようにすることを忘れてはならない。

昔の話になるが外気冷房中にSAOAよりも温度が1℃上がっていたのをみて不思議に思い原因を調べたことがある。空調機内部の温度をフイルター⇒熱コイル⇒エリミネーター⇒SAファン入口⇒SAファン出口と調べていったところ、SAファン出口で上がっていた。

吐出側のダンパーを閉めると圧損が生じ、ファンと空気の間で摩擦熱が発生しやすくなるためSA温度が上がるのだ。ファンの吐出側は塞がずに吸込側で給気量を調整したほうがSA温度も上がらず電力と熱の省エネになる。

このようにダンパー操作を行うだけで、SA温度を1℃下げることができた空調機もあったが、正確には1℃上がらなかったというべきであろう。冷房には貴重な1℃であった

ビルの省エネ指南書(9)

ビル内気圧のチューニングポイント〔其の3〕
排気ファン(3)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

8、 冷暖房時の排気
冷房時に熱気を排出するならば、該当場所の上部に排気口があれば少し開けておくだけでも自然排気はできる。吹き抜けや天井の高いホールや講堂などが該当するだろう。このような場所の天井付近は熱気がこもっているために、気圧と煙突効果を利用した自然排気をおこなうには最適だ。外気の導入量を増やして建物内の気圧を高めておけば、空気は開口部から自然に排出されるものであり、排気ファンを運転せずにこもった熱気を排出できるのだから電気的にも熱的にも省エネになる。しかし、建物内が負圧では逆に外気が侵入して熱気も共に下りてくる能性があるので注意が必要だ。

9、自然排気ができない映像ホール
熱気がこもっているが、自然排気ができない場所は排気ファンの運転を考えたい。
福岡市総合図書館では映像ホールを使用する日の早朝に数時間だけ映像ホール最上部にあるスポット室の排気ファンを運転して、上部にこもった熱気を排出している。
映像ホールは自然排気ができないので、排気ファンを運転するしか排気ができないからだ。

総合図書館 映像ホール

排気ファン運転中は映像ホール内が負圧となるが、正圧である映像ホール前の廊下から館内の冷房した空気が映像ホール内に流入するため、結果的に映像ホール上部の熱気を排出しながら冷房することにもなっている。館内の冷えた空気を直接排出するよりは、映像ホールの冷房に利用してから排気したほうが省エネになるという考えからである。勿論、僅かな冷房効果ではあるが、映像ホールの冷房運転開始を30分程度は遅らせることができる。
暖房時は建物内で利用できる熱ならば排出しないほうがよい。せっかく暖めた空気を排出してビル内が負圧となれば侵入外気で室内を冷やし、暖房負荷を増やしてしまうことになる。
何度も述べてきたことだが、暖房時にビル内のCO2濃度が低いにもかかわらず、電力を使ってまで排気ファンを運転して、暖房中の空気を排出する必要はない。
不必要な排気ファンの運転を停止させるだけで冷暖房の効きがよくなり、電力と熱の省エネが可能となるので、あとはCO2濃度が1000PPM弱となるように空調機で外気導入量を調整すればよいだけだ。

10、 排気ファンの運用改善
厨房やトイレからは当然に排気しているが、その他の排気ファンも含めてCO2濃度を考えながら排気量を調整して、無駄な排気は極力減らしたい。夏の場合は早朝の排気が冷房負荷にならないならば排気ファンの運転時間を早めて外気導入量も増やせばよい。冬の場合は確実に暖房負荷になるので、運転時間を遅くするなどして外気負荷に応じた運転時間の調整をしたい。正圧のビルならば排気ファンが運転していなくても、圧力差で少しは排気できるので、トイレのような場所であってもそれほど臭気が周囲に漏れることはないものである。
排気ファンの運転時間と排気量を季節に合わせて見直し、部屋毎の給排気量バランスを考えた調整をおこないたい

ビルの省エネ指南書(8)

ビル内気圧のチューニングポイント〔其の3〕
排気ファン(2)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
      室長 中村 聡

4、福祉プラザの排気ファン
 福岡市社会福祉協議会の福岡市市民福祉プラザには個室等に20台以上の排気ファンが備えられており、その多くが運転状態であった。
 各階中央にあるホールの排気ファンも運転していたが、直ぐ近くにはトイレがあり、当然にトイレの排気ファンも運転している。
 このホールは多くの人が常時滞在する場所でもないのでCO2濃度が上がるとも思えない。つまりトイレからの排気だけでも十分に換気が可能なのだ。このような場所も含めてトイレ以外の排気ファンを試しに全部停止させて様子をみることにした。勿論、承諾を得たうえである。
 その後、やはり匂いがするからとか、熱気がこもるからということで数台の排気ファンを運転することになったが、殆どの排気ファンは今も停止したままである。これで外気負荷はかなり減少したはずであり、電力も削減できた。

5、地階駐車場の排気ファン
 地下の駐車場ならば必ず排気ファンがあるだろう。CO2等の自動制御をおこなっていれば不必要な排気ファンの運転はしないだろうが、ビルによっては全ての排気ファンを常時運転しているところもあるようだ。このようなファンをスケジュール運転により交互運転や間欠運転をして省エネをおこなっているビルも数多くある。
 地下駐車場への車進入路から排気口までの経路に応じた、効果的な換気経路を考えた排気が行えるようにしたい。 排気ダクトの煙突効果で自然排気ができる可能性もあるので、排気ファン停止中に吸気口の気流を確認することも忘れてはならない。排気ファンを運転しなくても排気できるならば、これほど効率的な排気はない。

6、バッテリー室の排気
 排気ファンでCO2を排出するのか、COや水素ガスなのかで排気の調整も違ってくる。
バッテリー室のように冷房と給気と排気を24時間おこなっているような部屋の排気量は給気量よりも若干多くして、僅かな負圧状態に保っておけばよい。バッテリーを冷やすための空気は排出せず、熱気と水素ガスが溜まる天井面だけで給排気をおこなう程度の排気でよい。
 必要以上の排気をおこなえばせっかく冷やした空気を無駄に捨てることになるので、排気量が多過ぎてはならないのだ。
冬季は外気冷房が可能となるが、それでも必要以上の排気は無駄である。給気量より若干多目の排気量が基本である。

7、厨房の排気
 食堂や飲食店があれば厨房があり、厨房には必ず給排気ファンがあるだろう。
厨房内は若干の負圧であればよいが、給排気ファンのバランスが悪く、排気量の方が極端に多ければどうなるだろうか。空気は気圧の高いところから低いところに流れるのだから、ビル全体の空気を引っ張ることも考えられる。
 福岡市総合図書館もレストラン厨房の排気量が多過ぎて、レストラン入口から客席を通ってかなりの量の空気が厨房へ流れ込んでいた。図書館内の空気を引っ張っているのだ。そこでレストラン入口の気流をみながら、厨房の給気ファンのダンパーを開いて給気量を増やし、入口からの流入が少なくなるように調整した。厨房自体は冷房効果が少なくなるかもしれないが、客席は逆に冷房効果が高くなり、図書館全体としても外気負荷が減るので省エネになる。
 排気ダンパーの調整はしなかったが、排気量が多過ぎると判断できれば、給気量だけではなく排気量を調整してもよいだろう。勿論、酸欠にならないように注意しての話である。
食堂のあるビルは、厨房の給排気バランスには十分に注意をしていただきたい。

ビルの省エネ指南書(7)

ビル内気圧のチューニングポイント〔其の3〕

排気ファン(1)

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
    室長 中 村  聡

1、排気の必要性と省エネ性
 排気はビル内が負圧となり、冷暖房時ならば外気負荷が増える最大の要因だ。冷房時に温度の低い空気を排出すれば、同量の外気が侵入してくるために外気負荷となるが、冷房中であっても、こもった熱気を排出する場合ならば省エネになる。
 中間期の外気冷房中ならばビル内の空気を積極的に排出して外気導入量を増やしたほうが、外気冷房効果が高くなり省エネになる。
 排気の必要性と省エネ性を考えながら、不必要な排気ファンを運転していないか、必要な排気をおこなっているかを確認してみることがビルの省エネには大切だ。

2、必要な排気
 何故、排気が必要なのかを考えてみると。
 ・臭気
 ・熱気
 ・CO2
 一般的なビルならばこの3つが主因である。
トイレは臭気を排出しなければならないので排気ファンは必要である。しかし、人のいない時間まで運転する必要はない、運転時間をどこまで短縮できるかを考えたい。
 食堂のあるビルならば厨房では臭気と熱気とCO2の全てを排気しなければならないが、火を使っていない時は排気する必要がないので、厨房の給排気ファンは停止させてもよい。
 ガスを使う湯沸し室ならば熱気とCO2、電気を使う湯沸し室ならば熱気だけが排気の対象となる。このような湯沸し室は湯沸し中だけ排気すればよく、湯沸し時間も朝・昼の就業時間外だけに限定することもできるだろう。電気給湯器ならば電気デマンド対策ともなる。
 在室者が多く通常の空調だけではCO2濃度が高くなる部屋ならば排気が必要となる。
 満室の会議室などが該当するだろうが、いつも満室とは限らないので排気ファンの運転は必要に応じておこなえるようにしたい。
 熱源機械室も排気は必要だが、空調区画とは完全に隔離されているので問題はないだろう。
 エレベーター機械室は空調区画と繋がっており熱気を排出しているので、7・8月号で説明したように、状況に応じた対応をすればよい。
 地下駐車場は空調区画とも繋がっているが、臭気、熱気、CO2の全てに関係しているため、排気ファンを停止させることは難しい場所だ。CO2制御があればよいが、無ければ間欠運転、複数台の排気ファンがあるのならば交互運転などをおこなって排気量を少なくし、空調区画内の空気を引っ張らないようにしたい。
 問題はこれらのどれにも当てはまらない場所の排気ファンだ。例えば臭いも熱気も無い倉庫、人のいない部屋や在室者が少なくCO2濃度が低い部屋。廊下やホール等の共用部分。
 このような、排気ファンを運転しなくても問題のない場所であるにもかかわらず、排気ファンを運転していないだろうか。外気冷房効果を高めることが目的ならばよいのだが、冷暖房中の空気を、電気を使ってまで排気する必要はない場所であり、このためにビル内が負圧となれば外気が侵入して外気負荷となる。外気負荷を減らすにはOAを少なくするのではなく、EAを少なくするということを忘れてはならない。

3、排気ファンの停止
 現在運転中の排気ファンがビル内に何台あるのかを確認して、臭気、熱気、CO2に問題がないと思われる排気ファンを一度停止させて様子を見ることを勧める。その結果、どうしても臭気や熱気がこもるという場所の排気ファンだけを運転させればよい。多分、殆どの排気ファンは停止させたままでも何ら支障はないはずだ。

ビルの省エネ指南書(6)

ビル内気圧のチューニングポイント〔其の2〕
全熱交換機(3)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中 村  聡

5、給排気バランス
 全熱交換機が省エネ設備となるには、ビル全体としての全熱交換機ならばビル全体の給排気バランスがとれている場合であり、空調区画毎の全熱交換機ならば、その空調区画の給排気バランスがとれている場合であり、1室としての全熱交換機ならば、その1室の給排気バランスがとれている場合である。このような場合ならば全熱交換機を運転しても給排気バランスを崩すこともなく、効果的な省エネ換気となる熱交換ができるだろう。
 例えば、局所式空調により冷暖房中の個室ならばセントラル的な給気も排気もないのであるから、この個室のみで考えれば気圧バランスのとれている室内だと言える。しかし、人がいれば換気をしなければならない。このような室内ならば、給気ファンや排気ファンのどちらかだけの運転よりも、給排気を同時におこない室内の気圧バランスを保ちながら換気ができる全熱交換型換気扇のほうが、省エネ換気ができるだろう。

6、省エネ設備の全熱交換機
 全熱交換機を有効な省エネ設備とするには、ビル内にある全ての全熱交換機を区画毎に気圧バランスをチューニングして、導入外気と排気量が等しくなるようにすることが必要なのだ。導入外気+侵入外気=機械排気+自然排気となっているビルが大半ではあるが、導入外気=全排気量となるように給排気量をチューニングすることの大切さを理解していただきたい。
 全熱交換機だから省エネになるという固定概念を捨て去ることが、全熱交換機が省エネ設備となる第一歩となるだろう。

7、外気負荷の計算
 では、どのような場合に全熱交換機が有効になるのかを数字を使って説明する。
 全熱交換機からの導入外気を100m3
 全熱交換機からの排気を100 m3
 機械排気+自然排気を100 m3
 全熱交換機の効率70%
単位時間を無視して空気量だけを上記のように仮定。全熱交換機運転中のビル全体としての外気量と排気量は、カッコ内を全熱交換機として(100 m3-100 m3)-100m3=-100 m3
ビル内は-100m3の負圧となり100m3の外気が侵入してくる。全熱交換機の効率が70%なので外気負荷が30m3、侵入外気負荷が100m3、外気負荷は合計で30m3+100m3=130m3となる。
 次に、全熱交換機の排気ファンを停止させると全熱交換機からの排気が0 m3となるため、(100 m3-0 m3)-100 m3=0m3
侵入外気が0m3で外気負荷は100m3となり、このほうが熱だけではなく電気の省エネともなる。
 機械排気+自然排気が50m3と少ない場合では、全熱交換機の排気ファンを停止させると、
(100m3-0m3)-50m3=50m3となり、50m3の空気が流出するので、これを全熱交換機から排気量を調節して排気すれば(100m3-50m3)-50m3=0m3
50m3×70%=35m3の熱回収ができるので、外気負荷は合計で65m3となる。
 この結果をみると、全熱交換器からの排気量を調節して外気侵入を無くすことが、最も省エネになることが分かる。外気負荷を軽減するにはOAを減らすのではなく、EAを調節することが大切だ。

8、CO2濃度
 ビル全体や空調区画毎の全熱交換機の場合はどこか1室のCO2濃度を考慮しなければならない。
 外気導入だけでCO2濃度が下がらないのであれば、排気量を増やしてCO2濃度を下げなければならない場合もあるだろうが、一般的なビルならば適度な外気導入と自然排気の調整だけでCO2濃度は1000PPM以下を保てるはずだ。
 外気導入量を増やしてビル内を正圧にし、気圧を利用して排気するのは勿体ないと思うかもしれないが、冷暖房期間中は僅かな正圧であり、若干の熱ならば捨てるくらいで丁度よいのだ。

ビルの省エネ指南書(5)

ビル内気圧のチューニングポイント〔其の2〕
全熱交換機(2)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中 村  聡

3、ビル全体での全熱交換機
 最初にビル全体を1台の全熱交換機で賄っている場合を考えてみたい。このようなビルの場合は外気導入をこの全熱交換機だけでおこなっていることが多いため、給気量と排気量が等しい全熱交換機では、建物内が負圧になり外気が侵入してくるはずだ。ビルには排気ファンが数多く設置されており、ビルに排気がある以上はその排気量と同量の外気が必ずビル内に入ってくるためだ。
 この時に全熱交換機の排気ファンを止めて給気ファンだけを運転すればどうなるだろうか。つまり熱交換せずに外気だけを導入するのである。
 これで建物内の負圧が解消されて、ビル全体としての給排気バランスがとれるのならば、この方が排気ファンを停止できるだけ省エネになるのだ。
 全熱交換機単体で給排気バランスがとれていても、侵入した外気による空調負荷が熱交換量以上になるのならば熱交換する意味はない。ビルに入ってくる外気負荷が、排気ファンを止めた全熱交換機の給気ファンによるものか、外気侵入によるものかの違いだけである。

写真13 出入口からの外気侵入 

ビルは1階が最も負圧になりやすく、このようなビルならば、(写真―13)のように開口部面積の広い1階出入口からの外気侵入が最も多く、ドアが開けば外気が勢いよくビル内へ入ってくる。 外気侵入とは窓の隙間や出入口から入ってくる外気のことであり、粉塵的には好ましい空気ではない。それよりも全熱交換機のフィルターを通して入ってくる空気のほうが綺麗だと考えるべきである。空調用の外気取入口はビルの上層部にあることが多いため、1階ほどは粉塵を含んだ外気で
はないはずだ。
 普段は省エネ設備として意識せずに運転している全熱交換機も、省エネ面での使い方と空気環境面での使い方を考えなければならない。動いていれば省エネになり、空気環境が良くなると思うのは早計なのだ。全熱交換機があるビルは、この有効な省エネ設備が増エネ設備となっていないか、一度調べてみてはどうだろうか。

4、増エネ設備の全熱交換機
 全熱交換機の排気ファンは、停止させたほうがよい場合があるということを説明したい。
 全熱交換機の効率は100%ではないために、全熱交換機の効率が70%ならば、全熱交換機を運転した場合の外気負荷は30%となる。侵入外気の外気負荷が100%ならば、全熱交換機運転時の外気負荷は合わせて130%になる。
 全熱交換機の排気ファンだけを停止させれば、熱交換しない外気が入ってくるが、その結果、ビル内が正圧になり侵入外気が無くなるのならば、全熱交換機からの外気導入負荷が100%となっても、侵入外気による30%の外気負荷が減ることに
なり、外気負荷は100%だけで済む。
 排気ファンとローターの電力も不要になるので電気の省エネにもなるのであるから、全熱交換機は電力と熱の増エネ設備だったことになる。
このように全熱交換機の省エネ効果はビル全体の気圧で考えるべきであり、外気と排気のバランス次第では省エネ設備ではなく増エネ設備となる場合もあるということに注意したい。

ビルの省エネ指南書(4)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中 村  聡

ビル内気圧のチューニングポイント〔其の2〕
全熱交換機(1)

 全熱交換機は排気と導入外気とを熱交換することによって空調負荷を減らしながら換気ができる、多くのビルで使用されている省エネ設備である

1.省エネ設備か増エネ設備か?
 設備単体としてみれば有効な省エネ設備であるが、運転すれば必ず省エネになる訳ではない。適切な使い方をしなければ省エネにならないばかりか、増エネになる可能性があることを認識したい。
 全熱交換機のあるビルとしては、ビル全体を1台の全熱交換機で賄っている場合や空調機に内蔵されている全熱交換機で、その空調区画だけの熱交換をおこなっている場合が一般的であるが、エアコンで冷暖房している部屋では全熱交換型の換気扇が設置されている場合も最近は数多く見受けられるようになってきた。
 しかし、この何れの場合においても、中間期における冷房運転時の全熱交換機は外気冷房効果がなくなるために、電力を使って冷熱負荷を増やしているようなものなので、状況を判断して運転することが大切である。
 特に部屋毎に設置されている全熱交換型換気扇の場合は、各部屋の利用者が利用方法を知っているかが問題となる。
 熱交換をしたほうが省エネになるのか、しないほうがよいのかの判断を利用者に期待することは難しいため、スイッチ部分に分りやすい表示をするか、管理者側で設定をおこない、こまめに見て回る努力が必要だ。

  (株)西部技研製の全熱交換機

  

(株)西部技研提供図

2.夏季と冬季の場合
 冷房中であっても外気が室温よりも低ければ、全熱交換機を停止させて外気冷房と併用した冷房を行うべきだろう。
 全熱交換機が効力を最大限に発揮するのは、外気を冷房に利用できない夏季と冬季の冷暖房時だ。しかしこのような時であっても、全熱交換機が常に省エネ設備になる訳ではない。
 ビルは排気ファンが多く、何もしなければ結果的にビル内は大気圧に対して負圧になるものだ。負圧のビルは必ず外気の侵入があり、最終的にはビルにおける外気導入量と排気量は必ず等しくなるのだから、EA=OAという式が成り立つ。
 排気量よりも外気導入量のほうが多くてビル内が正圧であれば空気は自然に流出し、外気導入量よりも排気量のほうが多ければビル内が負圧となり、外気が自然に侵入してくる。その点を考慮したうえで全熱交換機の有効性を考えてみたい。

ビルの省エネ指南書(3)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中 村  聡

ビル内気圧のチューニングポイント〔其の1〕
エレベーター機械室(2)

1.福岡市市民福祉プラザ
福岡市市民福祉プラザのエレベーター機械室は排気ファンが無く、年間を通してエアコンで冷房をおこなっている。
写真-1 ダンパー全開の排気口

写真-1のような手動ダンパーで開閉ができる排気口が2か所あり、ダンパーが全開であるため、エレベーターシャフトを通ってエレベーター機械室へ侵入した暖かい空気は、エレベーター機械室で冷房され、そのまま写真‒2のように気圧により自然排気されていた。まさに暖かい空気を冷やしては排気していたのである。
写真2-気圧による自然排気
これは夏季の冷房時でのことであり、無駄にエネルギーを捨てているという意味が分かるだろう。
2.負圧の建物
福岡市市民福祉プラザは建物内が負圧で1階出入口からはドアが開く度に外気が侵入してくるのだが、エレベーター機械室は煙突効果により気圧が上がり、このようなことになるのである。
冬は暖房により暖められた空気をエアコンで冷やしては排気し、建物内にはその分の外気が侵入して暖房負荷となる。煙突効果は空調機停止中も自然発生するため、夜のうちに暖かい空気が排気されてビル内の温度が下がり、朝の暖房負荷が増えることにもなる。
3.ダンパーを閉じる
このようなエネルギーの無駄を失くすために、2ケ所の排気口ダンパーを冷暖房期間中は全閉することにした。ビル最上部には外気に面した開口部は無いほうがよいのだ。煙突効果が発生する最上部を閉じることにより1階の空気が6階に上がることはあるかもしれないが、同じビル内であるから負圧の原因にはならない。
この方が夏季には冷やした空気を捨てることもなく、冬季は建物内の暖かい空気を逃がさなくてすみ、エレベーター機械室の温度を一定に保ちながら、ビル内の負圧を減少させ、結果的にはエアコンの電力消費も減らすことができる。
4.気圧コントロール
中間期の場合は冷房を止めた状態で排気口を全開として、エレベーター機械室の温度が冷房設定温度以下を保てるならば、排気口全開のままでもよいが、保てないのならば全閉のままがよい。
この煙突効果はビル内の温度差が大きくなる冷暖房期間中は大きな効果となり、中間期は小さくなるために、煙突効果だけの気圧上昇による自然排気では機械室の温度を低く保つことは難しいだろう。空調機により外気導入量を増やして気圧を高めることも必要だ。ビル内の気圧と煙突効果をどこまでコントロールできるか次第である。空調機からの給排気量を考えながら、季節毎の最適な調整ができるまで試行錯誤を繰り返す努力が必要となる。写真‒2にあるような道具を作り、エレベーターのドアが開いた瞬間の気流をみれば、その階の煙突効果の有無を見ることができるので、自作してはいかがだろうか。リボン1本の長さ30㎝、幅15㎜を推奨する。

ビルの省エネ指南書(2)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
   室長 中 村  聡

エレベーター機械室(1)

1、捨てられるエネルギー
 エレベーター機械室はビル内気圧のチューニングポイントだ。しかし、エレベーターそのものがポイントではなく、エレベーターシャフトと機械室がポイントなのだ。調整次第では省エネにもなるが、現実は無意識のうちに無駄にエネルギーを捨てている場所となっている。必要のないエネルギーは捨てたほうが省エネになるが、必要なエネルギーまで捨てていたのでは省エネはできない。

2、エレベーターシャフト
 エレベーターシャフトはビル内では最も煙突効果が発生する場所だ。このエレベーターシャフトが地階から屋上まであるというビルが多いだろう。この煙突効果により暖かい空気が上に押し上げられた結果どのようなことになるのかを考えてみたい。
 エレベーターシャフトは密閉されているから空気の流れがなく、煙突効果はそれほど発生しないと思っておられるかもしれないが、それは間違いである。実際は、ドアの隙間からシャフト内に常時空気を吸い込んでは暖かい空気を押し上げてい
るのだ。休業日のビルで、排気ファンも空調機も停止している時であっても煙突効果が発生しているため、ビル内の空気は自然排気されて、休日明けのビル内は外気と入れ替わっている可能性もある。これは特に冬季において暖房開始時の大きな空調負荷となっている。

3、エレベーター機械室
 エレベーター機械室の下はエレベーターシャフトであり、機械室の床にはワイーヤーが通っている開口部があるため、煙突効果により押し上げられたシャフト内の暖かい空気が、この開口部より機械室に侵入してくる。冷房設備があるエレベーター機械室ならば排気口がない場合もあるが、冷房設備のないエレベーター機械室ならば排気ファンか排気口があるだろう。この排気口が常時開いていれば、ビル内の空気⇒エレベーターシャフト⇒エレベーター機械室⇒排気口、というように自然排気の流れができて、ビル内には外気が常時侵入して空調負荷となる。

4、総合図書館
 総合図書館には冷房設備のないエレベーター機械室が4か所ある。各エレベーター機械室には排気ファンがあり、温度設定により運転するようになっているが、35℃に設定しているため運転しているのは夏季の日中だけだ。しかし、冬季で電源
を切っている排気ファンが勢いよく回転していた。エレベーターシャフト内の暖かい空気は当然に煙突効果により上昇するのだが、その空気はエレベーター機械室に入り、機械室の気圧が大気圧より高くなるために、この圧力による排気で排気
ファンが自然に回ることになる。高層ビルになるほどこの煙突効果が大きくなるため、ビル内が負圧で外気が侵入しているような状態であっても、エレベーター機械室は正圧となり、年間を通した1日24時間の自然排気をすることとなる。
 最上部に位置するエレベーター機械室から排気される空気は温度の高い空気であり、中間期ならば排気したほうがビル内の外気冷房効果を高めるためにも有功のため、このような場合は積極的に自然排気を利用している。しかし、冬季に暖かい空気を排出することは必要な熱を捨てていることになるため、冬季になると排気ファンをビニールで覆って、暖房に利用できる暖かい空気を逃がさないようにした。そして外気冷房が有効な時期になると、この覆ったビニールを取り外すのだ。

ビルの省エネ指南書(1)

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
    室長 中 村  聡

 一般的なビルならば、最もエネルギー使用量が多い設備は照明であり、次が空調だろう。照明の省エネとなると、無駄な点灯を減らすか、あるいは高効率の器具に交換するしか方法がないが、これらは設備管理員だけで行うことはできず、ビルのオーナーや利用者全員の協力も必要となる。
 しかし、空調の省エネならば設備管理員だけでも行うことが可能である。空調の省エネにおいても設備投資が必要な省エネを行うことはできないが、お金をかけない省エネを行い、成果を出すことができれば、設備管理員の技術力が大きな経費削減効果となることを実証でき、ビルメンテナンス会社への信頼度も大きく変わってくるであろう。
 空調で熱を供給する熱源設備を一次側、空調設備となる空調機や排気ファンを二次側とすると、冷温水出口温度などで一次側を管理しているビルは多いが、二次側を温度・湿度・CO2濃度等のように空気環境として管理ができていても、気圧まで管理ができているビルは少ないだろう。
 ビル内の気圧を測定すると、窓が開いているビルの1階と8階では3hPaの気圧差があっても、窓が閉まっている正圧のビルでは、1階出入口の内側と外側の気圧差は測定できない程度の差である。しかしその僅かな気圧差であっても、ドアが開けば中から外へと空気が勢いよく流出するのだ。
 ビル内が正圧・負圧といっても気圧差とはその程度の違いであるが、空気の流出・侵入量は大きな差となって表れてくる。ビルは必ず換気が必要なため機械換気が行われている。機械換気には給気ファンと排気ファンを使用する第一種機械換気、給気ファンだけを使用する第二種機械換気、排気ファンだけを使用する第三種機械換気があるが、これら機械換気も二次側の一部であり、ビル内の空気環境と気圧を左右する重要な要素となる。
 排気ファンを運転中のビルは、空調を行っていない時は第三種機械換気となり、空調を行うと第一種機械換気となるが、機械換気だけではなく自然排気もあるため、ビル全体で見ると圧倒的に排気量が多くなり、第三種機械換気状態となってしまう。
 ドアが開くたびに外気が中へ吹き込んで来るビルが多いのはこのためである。
冷暖房時に外気導入量よりも排気量が多ければ、第三種機械換気のようにビル内は大気圧よりも負圧となり、その分は外気が侵入して空調負荷となる。逆に排気量のほうが少なければ第二種機械換気のようにビル内は正圧となり冷暖房空気を流出させることになる。
 冷暖房時にビル内の気圧が高過ぎても低過ぎても空調負荷となるのならば、排気ファンと自然排気と空調機による換気量を季節毎にバランスよく調整して、CO2濃度を適正に維持しながら、ビル内の気圧を最も省エネになるようにコントロールすることが大切だということが理解できるはずだ。
 この中でも自然排気は電力を使わない排気であり、冷房時に吹き抜け上部にこもった熱気を気圧と煙突効果を利用して押し出せば、電力と熱の省エネにもなる。
次号ではこのビル内気圧のチューニングポイントを紹介する。