ビルの省エネ指南書(44)

熱源機械室のチューニング〔其の8〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(8)

⑤    往還ヘッダ自動バイパス弁

1、往還ヘッダ自動バイパス弁の位置

往還ヘッダ自動バイパス弁は、往還ヘッダ間上の高い位置にあることが多い。そして見難い位置にあったり、指針が確認し難い型式であったりと、開度を確認するのが大変な場合も多い。
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 この写真の場合はポンプ上部の前後に設置されている往還ヘッダの間隔が狭く、さらに上部の非常に確認し難い位置に、指針が確認し難いバイパス弁がある。二次ポンプ№1と二次ポンプ№2の吸込側縦配管の間にある、矢印で示す狭い隙間から体を中に入れて、2台のポンプ間に立って上を見なければ開度が確認できない。天井灯もないのでライトも必要だ。あまり褒められた位置にある往還ヘッダ自動バイパス弁とはいえない。

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その点、上の写真にある往還ヘッダ自動バイパス弁は非常に見やすい位置にある。

高い位置ではあるが機械室内の通路からも確認でき、指針も赤色なので一目で確認できる。

配管の下まで行けば次の写真のようにはっきりと目視で開度まで確認ができる。

このバイパス弁の位置は褒めてもよいだろう。

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皆さんが管理しておられるビルでも、このように指針が確認できるだろうか。往還ヘッダ自動バイパス弁がどこにあり、開度がどのようになっているのかを確認してほしい。

全開の位置と全閉の位置に印を付けたり、指針の先端の色を黄色などの明るい色に塗り替えて一目で開度が分かるようにするのも良いだろう。

簡単に確認ができない位置だと省エネチューニングが完了するまでは大変であるが、自動バイパス弁が常時閉まるようになれば、その後はそれほど見る必要もなくなるので、チューニングが終わるまでの辛抱と思って頑張ってほしい。

2、開度のチューニング

往還ヘッダ自動バイパス弁が開くのは、空調負荷が減って空調機の二方弁が閉まり、往ヘッダの圧力が高くなる時である。圧力を逃がすためにバイパス弁が開くのだが、インバーターがあるのならば最低周波数を低く設定して台数制御と回転数制御によりヘッダ圧力を下げたほうが省エネになる。

何度も説明するが、バイパス弁が開くと冷水が二次ポンプ⇒往ヘッダ⇒バイパス弁⇒還ヘッダ⇒二次ポンプというように二次ポンプ廻りを無意味に循環するだけとなり、その都度、二次ポンプとの摩擦により冷水が温められてしまうということを常に頭に入れておきたい。電力を使って冷水に熱を与えるほど無駄なことはないため、チューニングをおこないながら、往還ヘッダ自動バイパス弁ができるだけ開かないようにしてほしい。

冷暖房ピーク時は簡単かもしれないが、中間期やビルの営業時間外で空調負荷が少ない時のチューニングが難しい。空調負荷が少なくなれば流量も少なくなり、ポンプ1台運転時に運転周波数を下げてもヘッダの圧力が上がってしまう。

しかし、このような空調負荷が少ない時こそがチューニングのチャンスでもあり、このような時でないとチューニングはできない。

空調負荷の多い時に、往還ヘッダ自動バイパス弁が全閉になるようにチューニングするのは簡単であるが、空調負荷が少なくなった時に全開になるようでは、上手くチューニングできているとは云えないので、空調負荷が少ない時でも、できるだけ開度が小さくなるようにチューニングするのだ。

どこまで開度を小さくできるかは、チューニングをおこなう設備管理員の努力次第である。

3、定回転ポンプでのチューニング

最大流量的には定回転ポンプは回転数制御の場合よりもポンプ1台当たりの容量が小さく、その代わりに設置されている台数が多いはずだ。台数が多ければ回転数制御で流量を可変できない代わりに、台数制御で若干の流量制御ができる。

容量の小さい二次ポンプが1台しか運転していない時であっても、空調負荷が少なければ、往還ヘッダ自動バイパス弁が、ある程度開くことは仕方がないが、開いているのならば、冷温水出口温度を変えて、自動バイパス弁ができるだけ閉まるように調整することはできるはずだ。

ポンプが2台運転している場合などに、往還ヘッダ自動バイパス弁がかなり開いていれば、全閉になるようにチューニングできれば、ポンプは1台運転でも十分だろう。

台数制御を上手く駆使してほしい。

4、往還ヘッダ手動バイパス弁

手動バイパス弁の場合も考えてみよう。

空調機への流量を三方弁で制御する場合や、流量制御ではないファンコイルは定流量となるので、ヘッダ圧力を自動制御する必要がなく、往還ヘッダバイパス弁は手動となっているだろう。

次の写真は吸収式冷温水発生器の一次側往還ヘッダの間にある手動バイパス弁である。

非常に見やすく分かりやすいレイアウトであり、手が届く高さなので脚立に昇らなくても調整できる点など、設備管理員にとってはチューニングがおこない易いバイパス弁である。この往還ヘッダ手動バイパス弁の位置も褒めてよいだろう。

往ヘッダに直接、空調機系統やファンコイル系統への二次ポンプが繋がっているので、二次側の往ヘッダは無い。この場合は熱源チューニングとはまた別のバイパス弁チューニングとなる。

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5、手動でヘッダ圧を調整

写真を見ても分かるようにバイパス弁がかなり絞られている。バイパス弁を閉めれば、一次ポンプの吐出圧が往ヘッダから還ヘッダ側に逃げる量が少なくなるので、ファンコイル系統のポンプを停止させて、バイパス弁で往ヘッダの圧力を調整しながら、一次ポンプの吐出圧を利用してファンコイル系統に冷温水を流すことができる。

少ない流量でよい時はバイパス弁を開いて圧力を下げ、多めの流量が必要な時はバイパス弁を閉じて圧力を上げるのだ。

定流量のファンコイルは各室が自由に熱を使うことができるので、必要以上の冷暖房になることが多いが、このようにしてファンコイル系統へ送る冷温水の流量を、部屋の温度を見ながら手動で調整すれば、無駄な冷暖房を防止できるだろう。

冷温水が定流量のファンコイルに流れるのならば、バイパス弁がかなり閉まっていても、吸収式冷温水発生器が流量低下になることは無いが、変流量の場合は閉め過ぎないように注意が必要である。

自動であっても手動であっても、バイパス弁は重要なチューニングポイントなのである。