ビルの省エネ指南書(54)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
 室長 中村 聡

暖房と蓄熱

1、冬の空調運転

冬の空調立ち上げで、温水温度が上がらなくて苦労した経験があるだろう。特に休み明けともなるとビル内が冷え切っているため、かなり早めに熱源の運転を開始しなければならない。

地域冷暖房の場合では温熱デマンドがあるので、温熱を使いたくても使えず、早めに空調機の運転を開始して、時間をかけて少しずつ温水温度と室内温度を上げていくしかない。

しかしこれでは、温水温度が上がって、空調機から暖かい給気が出るまでの間は冷風が出て来るため、冷房しているようなものだ。

このような時に、暖房の立ち上がりを早くしながら、温熱のデマンドを下げる方法があれば、暖房立ち上げ時の苦労もなくなるはずだ。暖房の立ち上がりが早ければ、空調運転開始を早くする必要はなく、暖房が必要になるぎりぎりまで遅くすることができる。理想的には空調機運転と同時に温風が出て来ればベストである。

温熱の使用量を増やさずに、暖房の立ち上がりを早くするということは、正反対のことを行うことになるが、ある日アイデアがひらめいた。

蓄熱すればよいのだ。しかし蓄熱槽はない。

ここで、さらにもう一つアイデアが必要だ。

2、配管蓄熱

蓄熱には蓄熱槽が必要だと思うかもしれないが、蓄熱槽が無くても蓄熱は可能である。

ビル内全ての温水配管内に蓄熱するのだ。

冬季は早朝の空調運転立ち上がり時に暖房ピークが来るので、配管蓄熱は効果的である。

空調機運転開始前に、温水配管内に温水を流して蓄熱しておけば、空調機運転開始と同時に空調機から温風を出すことができるようになる。

配管蓄熱は温水を循環させながら、空調機で暖房をおこなっているビル用の対策であり、地域冷暖房でなくても実施することができる。

温水循環の往還配管内に温水を蓄えるということは、配管の鋼管自体にも熱を蓄えることができるので、暖房立ち上げ時に必要な熱量は蓄熱で賄える。この熱を使いながら空調運転を開始すれば、温熱デマンドを心配することなく暖房の立ち上がりを早くできるのだ。

3、蓄熱方法

蓄熱をおこなう方法は簡単だ。空調機二方弁のバイパス弁を僅かに開けた状態で、熱源と二次ポンプを運転すればよい。空調機は運転していないので、蓄熱中の熱源運転は最低限でよい。
2014-11-18_1830

 例えばバイパス弁のハンドルを全閉から180度開いて、蓄熱に1時間かかるのならば、空調機運転開始1時間前に熱源を運転すればよい。

二次ポンプの流量に合わせてバイパス弁の開度を調整すれば、蓄熱完了までの時間を変えることができるので、空調機と熱源の運転開始時間をできるだけ遅らせ、蓄熱にも無駄な搬送動力を使わないように調整できれば効率的だ。

バイパス弁を開け過ぎると、二方弁全閉時も温水が流れて過剰暖房になるので注意したい。
2014-11-18_1830_001

 通常の暖房運転ならば還配管内の温水は温度が下がっているが、蓄熱では還配管の温度も往配管と同じ温水温度になるので、循環方式がリバースリターンならばダイレクトリターンよりも還配管が長い分、蓄熱量が多くなる。
2014-11-18_1831

 各系統の往還主配管への蓄熱と、主配管から分岐して空調機までの往還配管に蓄熱をする。
2014-11-18_1831_001

空調機往還配管の温度計を比べてみれば、温度差で熱コイルが温まっているかどうかは分かる。
2014-11-18_1831_002

 バイパス弁を開けた空調機は、空調機出入口配管から空調機内部の熱コイルにも温水が流れるので蓄熱効果が高くなる。

各系統の主配管末端にある空調機のバイパス弁を開けておけば、その途中にある暖房負荷が少ない空調機はバイパス弁を開けなくてもよい。

主配管までは温水が来ているのだから、空調機の熱コイルまで暖めていなくても、暖房の立ち上がりは、蓄熱前よりは早くなるだろう。

4、暖房負荷

通常の空調運転は熱源運転と同時に空調機を1台ずつ、時間差を設けて運転していると思うが、それでも中々温水温度が上がらないものだ。

配管蓄熱をしても、空調機運転後に蓄熱を使い切ると温水温度が下がる気がするが、実際はそれ程温水温度が下がらずに温度を維持できる。

暖房負荷には温水温度を上げる温水負荷と室内温度を上げる室内負荷があり、空調立ち上がり時にはこの両方が暖房負荷となる。配管内の温水と空調機熱コイルは、空調立ち上がり時だけの温水負荷なので、これに蓄熱しておけば、温水負荷だったものが逆に熱源となり、空調機運転開始直後の暖房負荷は室内負荷だけとなるので、温水温度がそれ程下がらないのだ。

5、蓄熱効果

配管蓄熱を行う前には、地域冷暖房の温熱最大負荷が3,770MJだったビルが、配管蓄熱を行うと1,300MJにまで下がったので、温熱デマンド契約も下げることができた。

約1/3の温熱量しか使っていなくても暖房の立ち上がりが早くなったので、空調機の運転開始と熱源の運転開始を遅らせることができ、その時間の電力と温熱の使用量も節約できる。

空調機を運転しながら温水温度を上げるには、温水負荷と室内負荷の両方が同時にかかるが、温水温度が上がってから空調機を運転すれば、室内負荷だけとなるのが蓄熱の効果である。

配管蓄熱は空調運転立ち上がり時のピーク抑制のためなので、夏季のように冷房ピークが12時から18時までのような、長時間のピーク抑制はできないが、冷房運転開始時に熱がこもっているようなビルならば、暖房と同様に空調機運転開始時の蓄熱効果が期待できるだろう。