ビルの省エネ指南書(60)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

 不快指数冷房(9

38、保温工事
 天井裏全面に湿度侵入防止も兼ねて、片面にアルミ箔を貼ったグラスウールを敷き詰めたので、除湿器に溜まる水がかなり減ると予測した。
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 翌朝、保存室の除湿器を見に行くと、タンクに溜まった水は工事前と同じ量であり、夏季になると除湿量は保温工事前と同じく、タンク満水の5L×2回の除湿量であった。
片面アルミのグラスウールで湿度の侵入を防げなかったということは、天井から侵入しているのではないのだろう。毎日これだけの湿度が何処からどのような経路で保存室へ侵入するのかという疑問は残るが、外壁からの伝導か小さな隙間からの侵入と思うしかない。
湿度のコントロールが難しく、侵入を防ぐことも難しいのならば、いくら除湿をおこなっても際限のない無駄の繰り返しになってしまう。
湿度的には全く効果のなかった天井裏の保温工事であったが、温度的には非常に効果があった。温度は天井から侵入していたのだろう。
保存室の保温工事後はビルの消費電力量が3%減ったのは、この保存室のエアコン電力削減効果だと思われる。

39、保温工事の結果

 湿度の侵入は防ぐことができなかったが、温度の侵入は防ぐことができたので、エンタルピと不快指数の数値的な比較だけではなく、実践的にも温度を下げて湿度を下げない不快指数冷房の省エネ性が確認できた。
温度も湿度も高いところから低いところへ伝わり、その差が大きくなればなるほど伝わりやすくなり、それだけ伝導量も増える。
冷房温度を下げて外気温度と室内温度の差が大きくなっても、保温により外気温度の室内への侵入や伝導を防ぐことができる。
室内を除湿しないようにすれば、外気湿度と室内湿度の差が大きくならないので、外気湿度の室内への侵入や伝導が最小限に抑えられる。
不快指数冷房をビルや家庭のエアコンでおこなうと、どれだけの節電効果があるのか、実際におこなってみることにした。

40、ワットチェッカー

 小規模ビルや家庭ならば、エアコンで冷房をおこなっているだろう。不快指数冷房をビルの空調機ではなく、エアコンでおこなうことができれば、ビルでおこなえるだけではなく、家庭でもおこなうことが出来るので、全国的な節電効果は非常に大きなものになる。
ビルのエアコンで不快指数冷房の節電効果実験をしたかったが、ビルの場合は数部屋掛け持ちのマルチエアコンも多く、人の出入りが多ければ室内冷房負荷も一定ではなくなる。天候によっては日射の影響も違って来る。これでは正確な比較ができるはずもない。
室外機1台と室内機が複数台で、電源も室外機は三相の場合などもあり、エアコン1台の消費電力量を計測するのも簡単ではない。
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 その点、家庭ならば壁のコンセントにワットチェッカーを取り付けるだけでよいので、1部屋1台のエアコン消費電力量の計測が容易である。
ビルのエアコンでも家庭のエアコンでも不快指数冷房効果は同じなので、家庭のエアコンで計測して、消費電力量を比較することにした。

41、消費電力量の比較

 グラフは家庭の6畳間にあるコンセントにワットチェッカーを取り付けて、エアコンの温度設定は28℃のまま、今日は「通常冷房」、翌日は「不快指数冷房」というように1日置きに切り替えて、毎日の消費電力量を計測したものだ。前年同月の消費電力量と比較するよりも、この方が正確な比較ができるだろう。
 エアコン運転時間は2300~翌700までの8時間で、夜間なので室内にも室外機にも日射の影響は全くない。外気温度の影響はあっても、1日置きに切り替えての計測なので、外気負荷が平準化されて、計測期間中を合計した消費電力量の比較にはそれほど影響はないだろう。室内はテレビも無いし照明も点灯していない。人は私一人だけなので、室内での冷房負荷は8時間一定に保つことができる。
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単位:kWh 通常冷房日(ピンク色) 不快指数冷房日(緑色)

 グラフを見ると、結果は一目瞭然である。

 平成26727日から918日までの54日間の計測合計では、通常冷房日が34.62kwh不快指数冷房日が24.52kwhで、不快指数冷房にすると約30%の節電効果があった。
日毎の消費電力量が違うのは、外気温度の影響である。9月に向けて徐々に外気温度が下がると共に、消費電力量も減っているのが分かる。
グラフの消費電力量は、外気湿度の影響を受けているのか、「通常冷房日」は全体的に上下にバラツキの多いグラフだが、外気湿度の影響を受け難い「不快指数冷房日」は上下のバラツキが少ないグラフなのが特徴的である。

42、冷房負荷と節電率

 グラフでは消費電力量が減るに連れて節電率も減っている。外気温度だけではなく、湿度も7月をピークとして徐々に低くなっているのだろう。湿度が低ければ不快指数冷房の節電効果も低くなるから節電率も低くなるのだ。
家庭の場合は人の出入りが少なく、換気もおこなっていない場合が多いので、外気が入って来る機会が少なく、除湿に使うエネルギーはそれ程多くはないだろう。ビルの場合は人が多くて、換気と外気侵入が多いほど除湿に使うエネルギーが多くなるので、家庭よりもビルのほうが、除湿に使うエネルギーを少なくする不快指数冷房の節電効果は高くなるはずだ。
冷房だけの節電効果なので、年間での節電量は5%程度かもしれないが、夏季はエネルギー使用量の50%前後を冷房で使っているビルが多いので、冷房電力の30%が節電できれば、電力デマンドが15%下がる計算になる。これだけの節電効果があれば、電力会社の電力供給力にも余裕が出ることだろう。

433秒でできる不快指数冷房

 エアコンで不快指数冷房をおこなうのは、空調機でおこなうよりも簡単だ。3秒もあればビルや家庭のエアコンでできるからだ。
3秒で費用もかけずに簡単に実施でき、冷房電力の30%が節電できて、デマンドが15%下がるのならば、文句の付け様がないはずだ。試してみる価値と時間はあるだろう。もし駄目でも3秒で元に戻せるのだ。
次に不快指数冷房をおこなう方法を説明する。