ビルの省エネ指南書(70)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(7

23、夜間の蓄熱効果

【6、外気温度と消費電力】の項で『冷水を循環させて冷房しているビルならば、外気温度の低い夜間のうちに冷水温度を下げて、配管へ蓄熱することも有効である』とある。
蓄熱には配管に冷水・温水を蓄熱する方法と蓄熱槽に氷や冷水・温水を蓄熱する方法がある。蓄熱槽があるならば深夜電力を使っての空冷チラー等の電動冷凍機による蓄熱だろう。
夏季は外気温度が低くて日射の無い夜間に蓄熱するほうが効率は良いので合理的である。夏季は午後に電力デマンドピークが来るため、このピーク時間帯で、蓄熱した冷熱を使えるならば、電力基本料金低減にも効果的である。
夏季の蓄熱はデマンド対策としておこなうことが重要であり午前中で蓄熱を使い切ってしまうようでは蓄熱効果も半減となる。しかし午後から蓄熱を使うまでの間にどれだけ放熱するのかも考えなければならない。せっかく蓄熱した熱が放熱で失われたのでは蓄熱する意味がない。
CO2削減という意味では、電力会社の原発が数多く稼働して、夜間の発電にCO2排出がないならば、放熱量が多くて無駄な蓄熱になったとしても、CO2削減に寄与することにはなる。
原発が充分に稼働していなければ、深夜であっても火力発電で蓄熱することになるので、CO2の排出を伴う発電では、蓄熱は無駄なCO2を排出させることになってしまう。
深夜電力で電気料金が半分であったとしても、蓄熱時に使う搬送動力や放熱での損失があるために、電気料金が半分になる訳ではなく、料金的には殆どメリットがない場合もある。
夏季の電力ピーク対策となる蓄熱ならばよいのだが、電力デマンドを抑制できないような蓄熱の使い方をしているのならば、原発の稼働が少ない時期での蓄熱はやめて、CO2削減に協力したほうが良いのではないだろうか。

24、冷却塔
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 空冷チラーの場合は、雨が降って冷却塔に雨がかかるようならば、雨水の蒸発による気化熱で放熱器の温度が下がり、空冷チラー周囲も雨水の蒸発により温度が下がるので、湿度が高くても冷却効率が良くなる。
空冷は湿度の上昇に関係なく、雨が蒸発する気化熱で温度が下がることが冷却には効果的で、ここが水冷と空冷の大きな違いとなる。
雨天の場合は蓄熱槽への蓄熱にしても、配管への蓄熱にしても、蓄熱効率は良くなるだろう。
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水冷の冷却塔を使っている冷凍機で蓄熱槽に蓄熱する場合はどうなるだろうか。
水冷の冷却塔は主に水が蒸発する気化熱で冷却水温度を下げるので、冷却塔周囲の湿度が低いと蒸発効率が上がって、冷却水温度が下がりやすくなるが、湿度が高いと蒸発効率が悪くなるので、冷却水温度が下がり難くなる。
外気温度と湿度の両方が低ければベストではあるが、湿度が高くなり水の蒸発効率が低下すると冷却水温度が下がり難くなって冷凍機の効率も悪くなるので、外気温度が低くても夜間の蓄熱が効果的だとは云えなくなる。
梅雨時は外気湿度が高く、電力ピーク時期でもないので、無理に蓄熱する必要はないだろう。梅雨時は冷房負荷も少ないために蓄熱槽容量にもよるが、蓄熱した冷熱が使い切れずに余るようでは放熱ロスが多くなってしまう。蓄熱を全て使い切ることができるようになる梅雨明けから蓄熱をおこなえばよいだろう。
空調の立ち上がりを良くする配管蓄熱は、冷房の場合は余程ビル内に熱気がこもっていなければ必要ないだろう。早朝は窓を開けるか空調機の空運転で換気をすれば十分である。
空調立ち上がり前のビル内温度が高いならば、配管蓄熱は効果的だ。空調機運転開始の30分前から冷凍機を運転して、配管に蓄熱すればよい。そして配管内の冷水温度が下がったタイミングに合わせて空調機を始動させるのだ。
冷凍機と空調機を同時に運転すると、中々下がらない冷水温度が、配管蓄熱で低い冷水温度にしてから空調機を運転すれば、低い冷水温度を維持できるはずなので試してほしい。

25、暖房時の温水蓄熱

ヒートポンプチラーで夜間に温水を蓄熱している場合であるが、深夜電力で電気代が半額になる場合であったとしても、蓄熱槽への蓄熱はおこなわない方がよいだろう。日中よりも外気温度が低くなることの方が多い冬季の夜間に外気熱を汲み上げて蓄熱するのであるから、夏季とは逆に蓄熱効率が悪くなって当然だ。
深夜電力で温水を蓄熱しているビルが、蓄熱を停止させたら電気料金が安くなった例もある
冬季は蓄熱に要したエネルギーの半分以上は放熱等で捨てられているということなのだ。冬季に蓄熱を停止させた方が、電気代が安くなるようなビルで、デマンドにも関係がない蓄熱ならば無駄である。温水は外気温度が高いほうがチラーの効率は良くなるので、わざわざ外気温度の低い夜間にヒートポンプチラーを運転して蓄熱するほど効率の悪いことはない。冬季に電力デマンドがピークになるビルならば、ピークは早朝の空調立ち上がり時であろう。
配管蓄熱ならば暖房の立ち上がりを良くしながらデマンド対策としても有効であり、放熱も少ないので、深夜電力でなくても効果的だ。

26、蓄熱と放熱

蓄熱槽は屋外に設置されていることが多いので、外気温度が放熱対象になるが、配管への蓄熱は屋内配管への蓄熱のため、放熱対象がビル内温度になり、屋外設置の蓄熱槽ほどの温度差がないため、無駄な放熱も少なくなる。
夏季の屋外設置の蓄熱槽は日射の影響も大きく、日射により温度の上がった蓄熱槽の表面温度が放熱対象となるから放熱も多くなる。
蓄熱の場合は日射防止対策をおこなうことが大切である。蓄熱槽に日射を当てないようにするか、遮熱塗料や反射塗料を塗って、蓄熱槽の表面温度を上げないように工夫するのだ。
配管蓄熱が有効になるのは、冬季の早朝にデマンドピークが来る場合である。そのようなビルならば配管に蓄熱することで空調の立ち上がりが早くなり、空調運転開始時の電力デマンドや地域冷暖房では温熱デマンドを抑えられる。
暖房開始前の短時間で温水蓄熱をおこない、暖房開始と同時に蓄熱した温熱を使いながら暖房をおこなえば、無駄な放熱は最小限で済む。デマンドを抑えるための蓄熱とともに、暖房の立ち上がりを良くすることにも有効である。
蓄熱槽と比べて配管への蓄熱は蓄熱量が少ないので、あまり早く蓄熱をおこなうと暖房開始時には放熱して温熱が殆どなかったということになるので注意したい。
放熱量を減らすためにも蓄熱後直ぐに使うことが配管蓄熱には大切である。配管蓄熱は蓄熱量が少なくても効果的であり、蓄熱槽が無いビルでも実施できる。