ビルの省エネ指南書(63)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

不快指数冷房(12

53、給気温度と風量
給気温度は「微風」運転よりも「強風」運転のほうが高くなるので、「強風」運転で冷気を上手く拡散させれば、風が直接当たっても、「微風」運転ほどは冷たくは感じないはずだ。
しかし、給気風量が多くなれば、給気口正面の人に冷気が当たり、寒く感じるかもしれない。最初は気持ちの良い冷風であっても、長時間同じ風に当たっていると寒くなるからだ。
風向きが下になると、直接人に当たり易くなるので、できるだけ横向きの給気にして、冷気が拡散するようにしたい。
冷気を拡散させる製品もあるので、いろいろと試してみて、仕事に支障のない冷房環境を創りながら、不快指数冷房をおこなえばよい。

54、エアコンによる不快指数冷房
 同じ室内の冷房負荷に対して、エアコンの冷房能力が大きいほうが、余裕のある冷房が出来るので、冷却器での結露が少なくなり、結露しても「強風」運転による風で蒸発しやすくなる。
1室に室内機が2台あるとすれば、1台運転するよりも2台運転して、1台当たりの冷房負荷を軽くすることでも同様の効果がある。
ON/OFF制御のエアコンだとすれば、冷房能力が大きいほうがONの時間が短くなり、OFFの時間が長くなると思えばよい。冷却時間が短くなれば除湿時間も短くなるだけではなく、ONの時間に冷却器で結露しても、OFFの時間で蒸発して室内に湿気が戻ってくるからだ。
インバーター制御の場合は、設定温度になれば周波数を下げて冷房能力を下げるので給気温度が上がり、それだけ除湿量も少なくなる。
1台の室内機にかかる冷房負荷が多いと、コンプレッサーが休みなく動き続け、インバーター制御のコンプレッサーならば運転周波数も上がり、冷房能力の小さなエアコンでは定格周波数以上で運転しなければならなくなるだろう。
コンプレッサーが最大周波数で運転をしていたのでは、除湿が増えるのは避けられない。
これではいくら「強風」運転にしても、結露が多くなり、結露が蒸発せずに排水されてしまえば、不快指数冷房効果が少なくなってしまう。
不快指数冷房は、余裕をもって冷房できる能力のエアコンほど節電効果が高くなり、部屋の冷房に必要な能力以下の余裕のないエアコンになるほど節電効果が期待できなくなるので、全く節電にならない場合もあるかもしれない。

55、ドレン
 ビルの場合はエアコン室内機のドレン配管が露出しておらず、目視できない場合が殆どなので、排水を直接確認することはできないが、家庭ならば室内機のドレンホースを辿っていけばホース先端からの排水量を簡単に確認できる。
「微風」と「強風」に切り替えてドレンホースからの排水を比較すると、「強風」時のほうが、排水が少ないのが分かるので、除湿が少ない冷房ができているのを実感できるだろう。
このように排水が少なくなる冷房をおこなえば、室内の湿度は必ず上昇するはずだ。室内の冷房負荷を減らすことも大切だ。
窓からは熱の侵入が多いので、ブラインドは必ず使用するようにしたい。必要以上の換気も冷房負荷を増やす原因となる。
不快指数冷房は室内湿度が高くなるのだが、換気量が多い室内は通常の冷房でも湿度が高くなることがある。エアコンで除湿をおこないながら屋外から湿気が次々と侵入して室内湿度が高くなる場合だ。室内湿度だけを見て不快指数冷房と混同しないように注意したい。

56、風量と露点温度
 「微風」運転では冷却器を通過する風速が遅くなり、空気が冷やされる時間が長くなる。 給気温度の露点温度は、「強風」運転時よりも低くなるので、給気中に含む水蒸気量が少なくなり、それだけ除湿量が多くなる。給気温度が下がれば下がるほど露点温度も下がり、給気中に含む水蒸気がさらに除湿されて、室内は乾燥状態になる。
「強風」運転にすると冷却器を通過する風速が速くなり、空気が冷やされる時間が短くなる。給気温度の露点温度は、「微風」運転時よりも高くなるので、給気中に含む水蒸気量が多くなり、それだけ除湿量が少ない冷房となる。
夏でも室内が乾燥するので加湿器を運転しているのならば、湿度70%の冷房も可能になるので、無駄な加湿をする必要はなくなるだろう。
「強風」運転で給気温度が高くなっても、給気風量が増えるので室内温度に変化はないが、除湿量が少なくなるので室内湿度だけが上がる。室内に湿度計を置いて「強風」運転にすると、湿度が上がっていくのを確認できるだろう。

57、吸気温度と給気温度
冷却器が冷えないと湿度の測定ができないため、冷却器の温度が下がる、エアコン始動10分後と「強風」運転で2時間経過後に、エアコン吸い込み口の温湿度と給気温度を測定した。ondo
全ての給気湿度は測定時に湿度表示が上がっていき、100%になる寸前にデジタル式温湿度計の湿度表示が「OL」になった。100%がオーバーレベルなのだろう。給気は湿度が100%になるまで除湿をしているようである。同じ相対湿度100%であっても15.2℃100%と11.1℃100%では絶対湿度に大きな差がある。この差が通常冷房と不快指数冷房の湿度の差になるのだ。
「強風」は給気温度が高くても風量が多いので、顕熱を下げるための冷熱量は「微風」と同じだが、給気の絶対湿度を高くできれば、潜熱を下げるための冷熱量は少なくて済む。
潜熱低下分を顕熱低下のために使うことができれば、温度的にはエアコンの冷房能力にそれだけ余裕ができ、室温が下げやすくなる。

58、エアコンの冷房能力
 エアコンの冷房能力はエンタルピを下げる能力でもある。エンタルピは空気のもつエネルギーであり、温度と湿度である。
温度を下げるエネルギーと湿度を下げるエネルギーが50:50だと仮定して、不快指数冷房をおこなって湿度を全く下げないで済むとすれば、除湿分の冷房能力を、温度を下げることに使えるようになるので、温度を下げる能力が2倍に増えることと同じなのだ。
室内の冷房負荷に対して相対的ではあっても、エアコンの冷房能力に余裕がでるのならば、インバーターエアコンは周波数を下げて冷房能力を落とす運転となるので、さらに除湿量が減るだけではなく消費電力量も減るだろう。
不快指数冷房は省エネ的にもこのような好循環を生み出していくことが可能となる。冷熱使用量の低減効果以上にエアコンの消費電力量が減るのはこのためである。

59、ファンコイルによる不快指数冷房
 ファンコイルでもエアコンと同じ要領で不快指数冷房をおこなうことができるが、風量を最大にして不快指数冷房をおこなうのは、電動弁で温度による流量制御をおこなっているファンコイルに限られる。風量の切り替えのみで、室温による流量制御をおこなっていないファンコイルでは、熱交換量が増えるだけで不快指数冷房にはならず、増エネになるだけなので注意したい。そのような場合は空調機でおこなう不快指数冷房のように、冷水温度を上げて熱交換量を減らすことで除湿も減らすことができる。
冷水温度を上げることができないのならば、ファンコイル系統への循環流量を減らせばよい。冷水温度を上げられるだけ上げて、あとは流量を調整して、ファンコイルを「強風」で運転しても室内が冷え過ぎないようにするのだ。
冷水温度制御と流量制御と「強風」運転を効率よく組み合わせて、最適に調整したファンコイルでの冷房ができれば、エアコンでおこなう以上の不快指数冷房効果が期待できるだろう。