ビルの省エネ指南書(52)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

ポンプの搬送動力

1、冷却水大温度差運転
 冷温水の往還温度差を大きくすれば、ポンプ搬送動力の省エネになるといわれるが、果たしてそうであろうか。ビル空調における大温度差運転の意味と可能性を考えてみよう。
 
ビル空調には主に一次ポンプ、二次ポンプ、冷却水ポンプがあるが、現状のままで大温度差運転ができるとすれば二次ポンプだろう。できれば台数制御だけの二次ポンプよりも、インバーターによる回転数制御をおこなっているポンプのほうが、大温度差運転の省エネ効果は大きい。大温度差にするには、冷水ならば往水温度を下げるか、還水温度を上げなければならない。
 
冷房時の冷水往温度が10℃で、還温度が13℃であれば往還温度差は3℃となるが、往温度を7℃にして還温度が13℃のままであれば往還温度差が6℃となり、流量が半分となる。冷凍機の冷水出口温度を3℃下げるだけで流量が半分になるならば、インバーターによる回転数制御では1/8の搬送動力になるはずだが、実際はそう簡単にはいかない。冷水出口温度を3℃下げることは簡単であっても、二方弁が閉まり易くなるので、還温度を13℃のまま維持することが難しいのだ。

2、空調機還水温度
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 この写真は12月中旬に撮った暖房時での空調機の往還冷温水配管の温度計である。
 冷温水(還)の温度計が20℃になっている。時期的には暖房負荷がそれほど多くはない時なので二方弁はかなり閉まった状態だ。
 
二方弁が閉まって来ると温水還温度が、空調機のSA温度近くになるので、このように低い還温度となる。冷房の場合ならばほぼ室温と同じ、冷水還温度28℃といったところであろうか。 

3、空調機往水温度
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 空調機は違うが、同じビルの冷温水(往)の温度だ。48℃になっている。熱源は同じなので、往水温度はどの空調機も殆ど同じはずだ。このくらいの温水温度のビルも多いだろう。
 
空調機の往還温度差は48℃-20℃=28℃になる。これが、二方弁が閉まりかけた状態での温度差である。このように暖房負荷よりも熱供給量が多ければ二方弁が閉まりやすくなるので、簡単に大温度差運転となってしまうが、これを大温度差運転と思ってはいけない。温度差が大きければよいというものではないからだ。

4、空調機二方弁
 
空調機二方弁が徐々に閉まるのは、熱供給量に対して空調負荷が減っているからである。熱使用量が減れば往還温度差が小さくなるような気がするのだが、実際は二方弁が全閉になる瞬間が最大の往還温度差となる。
 
二方弁が全閉に近くなっている空調機の還温度を温度計で確認すれば、冷房時ならば室温以上に、暖房時ならば室温以下になっているだろう。冷房時ならば、冷水出口温度を下げれば、二方弁が閉まりやすくなり還温度が上がるので、結果的には大温度差運転になってしまうのだ。
 
このような意味のない大温度差であっても、温度差しか見ていなければ、大温度差運転だと勘違いしてしまうかもしれない。
 
空調負荷は多い時もあれば、少ない時もある。空調負荷と熱供給量の増減によって、空調機二方弁の開度が違って来るのならば、温度差は成り行き次第となってしまい、大温度差運転をおこなっているとは云えなくなる。
 
同じ流量であっても、往ヘッダ圧力が高くて二方弁が絞られた状態と往ヘッダ圧力を下げて二方弁が全開の状態とでは搬送動力が違って来る。往還ヘッダ差圧が高ければ空調機二方弁が閉まりやすくなり、二方弁が閉まれば大温度差になる。このような大温度差では、逆に搬送動力が増える大温度差運転になる可能性もある。

5、空調機内部の温度
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 これは空調機の伝熱フィン出口部分である。空調機内を流れる伝熱フィン手前の気流は還気+外気である。暖房時に空調機二方弁が殆ど閉まった状態で、少量の温水が熱コイルに流れているとすれば、還気+外気により熱コイルの温水温度は熱コイル入口で一気に下がってしまい、48℃の温水が熱コイル出口ではSA温度近くになるだろう。外気量が多ければ、20℃以下のSA温度になることもある。
 
往ヘッダの圧力が上がれば往還ヘッダ自動バイパス弁が開いて圧力を逃がすだろう。インバーターによる回転数制御であっても最低周波数を下げるには限度があるので、結局は圧力を逃がすことになる。大温度差であっても最低限の搬送動力は必要となるのならば、その搬送動力を無駄に逃がすよりも使ったほうが良いはずだ。

6大温度差運転の基準
 
大温度差運転をおこなうには何を基準とするのかを示す必要がある。基準を決めずに大温度差で搬送動力を削減するといっても、温度差が大きければよいのかと誤解をすることになる。
 
二次側の冷温水循環経路で考えれば、空調機の二方弁開度100%が基準として分かりやすい。100%ならば無意味な大温度差になることは無い。この基準を示さずに、成り行き次第の開度で大温度差運転といっても意味はないのだ。
 
大温度差運転とは空調機二方弁が閉まっての小流量大温度差ではなく、二方弁全開での小流量大温度差で搬送動力の低減を目指すことだ。
 
二方弁全開で冷温水がゆっくりと循環する状態を想像してほしい。二方弁が全開となるように、冷温水温度を調整しながら往還ヘッダ差圧を下げて、台数制御ならばできるだけ少ない運転台数で、回転数制御ならばできるだけ低い周波数で運転するのだ。このほうが、二方弁が閉まる大温度差運転よりも、熱コイルでの流量は増えて、温度差も小さくなるだろうが、往還ヘッダ差圧を下げて送水圧力を低くしているので、二方弁の影響による圧損はなくなり、バイパス弁での無駄な逃げもなくなる。
 
空調機熱コイルでの熱使用量が同じだとすれば、余裕のある冷温水出口温度と往還ヘッダ差圧により二方弁が閉まった状態での28℃の大温度差運転よりも、余裕のない冷温水出口温度と往還ヘッダ差圧により、二方弁が全開となった運転のほうが、流量が増えたとしても搬送動力が少なくて済み、熱の省エネにもなるのだ。
 
大温度差という言葉と水温に惑わされずに、供給熱量と使用熱量のバランスを考えて、省エネに繋がる大温度差運転をおこなってほしい。