ビルの省エネ指南書(1)

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
    室長 中 村  聡

 一般的なビルならば、最もエネルギー使用量が多い設備は照明であり、次が空調だろう。照明の省エネとなると、無駄な点灯を減らすか、あるいは高効率の器具に交換するしか方法がないが、これらは設備管理員だけで行うことはできず、ビルのオーナーや利用者全員の協力も必要となる。
 しかし、空調の省エネならば設備管理員だけでも行うことが可能である。空調の省エネにおいても設備投資が必要な省エネを行うことはできないが、お金をかけない省エネを行い、成果を出すことができれば、設備管理員の技術力が大きな経費削減効果となることを実証でき、ビルメンテナンス会社への信頼度も大きく変わってくるであろう。
 空調で熱を供給する熱源設備を一次側、空調設備となる空調機や排気ファンを二次側とすると、冷温水出口温度などで一次側を管理しているビルは多いが、二次側を温度・湿度・CO2濃度等のように空気環境として管理ができていても、気圧まで管理ができているビルは少ないだろう。
 ビル内の気圧を測定すると、窓が開いているビルの1階と8階では3hPaの気圧差があっても、窓が閉まっている正圧のビルでは、1階出入口の内側と外側の気圧差は測定できない程度の差である。しかしその僅かな気圧差であっても、ドアが開けば中から外へと空気が勢いよく流出するのだ。
 ビル内が正圧・負圧といっても気圧差とはその程度の違いであるが、空気の流出・侵入量は大きな差となって表れてくる。ビルは必ず換気が必要なため機械換気が行われている。機械換気には給気ファンと排気ファンを使用する第一種機械換気、給気ファンだけを使用する第二種機械換気、排気ファンだけを使用する第三種機械換気があるが、これら機械換気も二次側の一部であり、ビル内の空気環境と気圧を左右する重要な要素となる。
 排気ファンを運転中のビルは、空調を行っていない時は第三種機械換気となり、空調を行うと第一種機械換気となるが、機械換気だけではなく自然排気もあるため、ビル全体で見ると圧倒的に排気量が多くなり、第三種機械換気状態となってしまう。
 ドアが開くたびに外気が中へ吹き込んで来るビルが多いのはこのためである。
冷暖房時に外気導入量よりも排気量が多ければ、第三種機械換気のようにビル内は大気圧よりも負圧となり、その分は外気が侵入して空調負荷となる。逆に排気量のほうが少なければ第二種機械換気のようにビル内は正圧となり冷暖房空気を流出させることになる。
 冷暖房時にビル内の気圧が高過ぎても低過ぎても空調負荷となるのならば、排気ファンと自然排気と空調機による換気量を季節毎にバランスよく調整して、CO2濃度を適正に維持しながら、ビル内の気圧を最も省エネになるようにコントロールすることが大切だということが理解できるはずだ。
 この中でも自然排気は電力を使わない排気であり、冷房時に吹き抜け上部にこもった熱気を気圧と煙突効果を利用して押し出せば、電力と熱の省エネにもなる。
次号ではこのビル内気圧のチューニングポイントを紹介する。