ビルの省エネ指南書(21)

空調機のチューニングポイント〔其の3〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

加湿(2)

3、蒸発する水、しない水

加湿は主にスプレー式と滴下式と蒸気式の三方式であるが、殆どのビルはスプレー式と滴下式だろう。この方式は水が蒸発することにより気化熱が温熱を奪うので暖房負荷になるが、暖房負荷になるのは気化熱だけではないのだ。確かに水の蒸発だけを考えれば気化熱だけかもしれないが、蒸発していない水のことも考慮しなければならない。加湿をおこなっている水には蒸発する水と蒸発しない水があり、その両方が暖房負荷になっているのだから、蒸発しない水での省エネをおこなえば、湿度を維持しながらでも節水と省エネが可能なのだ。

4、暖房時の加湿

空調機内部でスプレー式加湿をおこなっている場合、このスプレーされた水がどれだけ蒸発しているか考えたことがあるだろうか。

殆ど蒸発していないのが実情である。

暖房時の熱コイルに60℃の温水を流しているビルもあるが、この60℃の熱コイルにかかった水が蒸発せずに排水されているとしたら、その排水量と排水温度がどのくらいなのかを想像してほしい。これが無駄に捨てられている水と熱エネルギーなのだ。

5、排水温度

総合図書館で暖房時の加湿をおこなっていた日のことであったが、スプレーされた水が蒸発せずに排水されていたのを見て温度を測ってみると給水温度以上に高くなっていることに気が付いた。蒸発しなかった水が熱コイルから熱を奪って排水されることは当然のことであるが、これに今まで気が付かなかった。簡単すぎるが故に盲点となっていたのだ。

総合図書館では暖房時の熱コイルに流れる温水温度は30℃以下と非常に低い温度のために、排水される水の温度もそれほど高くはないが、温水温度が高くなればなるほど排水温度が高くなるので、それだけ捨てる熱も増えるだろう。低い温水温度で暖房が可能ならば、それだけ捨てる熱も減るだろう。

6、噴霧ヘッド

スプレーが熱コイルにかかると、温熱を奪うだけではなく、水のシリカ分が熱コイルのフィンに付着して熱交換効率が落ちてしまうため、噴霧ヘッドの角度を調整してスプレーが熱コイルにかからないようにすればよい。シリカの付着がなくなりフィンの清掃も楽になる。

ヘッドの間隔も隣接したヘッドが近過ぎると、スプレー同士がぶつかり合った結果、スプレーの粒子が大きくなり、蒸発効率が落ちるので、スプレー間の距離を開けるためにヘッドを取り外したり、ヘッドを塞いだりしながらスプレー同士がぶつからないようにしたい。スプレーしているヘッドの数が減れば、ヘッド1個当たりの水圧が上がり、水の粒子が細かくなって蒸発効率がさらに良くなるだろう。

写真―1 空調機内部の噴霧ヘッド

総合図書館では写真―1のように14個も噴霧ヘッドがあった空調機を、僅か4個のヘッドに減らしてスプレーしてみたが、暖房時の加湿の立ち上がりも室内湿度も以前と変わっていない。加湿は給水量ではなく蒸発量であり、効率的に蒸発させれば、より少ない給水量で加湿ができることを実証できた。実際におこなえば節水効果も非常に大きく、無駄に捨てている水がどれだけ多いかが実感できるだろう。