ビルの省エネ指南書(59)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室  
室長 中村 聡

 不快指数冷房(8

33、温度と湿度の省エネ効果比較

 今度はエンタルピと絶対湿度で比較してみよう。
室温は28℃で絶対湿度が違う場合だ。
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 外気の温湿度が3570%の時に、室内を2870%で冷房すると、温度が20%下がり、エンタルピが29.1%下がり、絶対湿度が33.7%下がる。
 
室内を2845%で冷房するとエンタルピが44.6%下がり、絶対湿度が57.9%下がる。エンタルピは44.6%-29.1%=15.5%の差で、絶対湿度は57.9%-33.7%=24.2%の差だ。エネルギーを15.5%多く使うと、絶対湿度が24.2%多く下がるということになる。
 
次に室内の絶対湿度が同じで、室温が違う場合を比較してみる。
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 室内を2457%で冷房すると、温度が31.4%下がり、エンタルピが48.7%下がる。エンタルピは48.7%-44.6%=4.1%の差で、温度は31.4%-20.0%=11.4%の差だ。エネルギーを4.1%多く使うと、温度が11.4%多く下がるということになる。率的には湿度を下げるよりも温度を下げるほうにエネルギーを使った方が効率的である。

34、外気温度と湿度
 
 
外気温度のほうが室内よりも高くて、湿度が低い場合はどうなるだろうか。
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 外気温湿度2850%は、夏季前後の中間期に見受けられる温度と湿度である。冷房中のビル内温湿度2670%は、人からの水蒸気発生があるので、外気よりもビル内の方が絶対湿度が高くなることもあるだろう。温度は外気の方が2℃高いので、屋外からビル内へ熱伝導するが、絶対湿度はビル内の方が高いので、逆にビル内から屋外へ湿度の伝導があるはずだ。わざわざ除湿をしなくても伝導で自然に除湿ができるのだから、不快指数冷房で温度を下げることだけにエネルギーを使えばよい。
 
エンタルピは外気の方が低いので、外気導入量を増やせば外気冷房になるが、外気温度は高いので、不快指数冷房で温度だけを下げるのだ。

35、外気の冷房負荷

 外気が冷房負荷となるには温度と湿度がある。どちらもビル内よりも高いほど冷房負荷となるので、外気冷房として利用する以外はビル内への影響を減らす工夫が必要だ。
 
外気の導入や侵入があれば外気のエンタルピがビル内へ直接入ってくるのだが、窓も無く換気もせず人も居ない密室の場合はどうなるであろうか。外気の熱が壁から伝わって室内へ伝導するのと、外気の水蒸気が壁を通して伝導するのとでは、エネルギー的にどちらが多く入って来て、冷房負荷になるのかを考えなければ、エンタルピの比較だけで、湿度が高い方が省エネになり快適になるとは言い切れないはずだ。
 
外気の導入や侵入や伝導。室内での人や電気機器の冷房負荷。これらを総合的に判断した時の最も効率的な冷房方法を求めて、温度と湿度のどちらを下げてどちらを下げないようにすればよいのかを実践的に探し出す必要がある。

36、温度と湿度の侵入

 室内の換気をおこなえば、外気が直接入って来るので、これを外気の導入と云うならば、侵入は自然に入って来る外気である。ビル内が負圧であればあるほど外気が多く侵入して来る。これも外気導入と同様に冷房負荷になる。
 
外気導入量を増やしてビル内が正圧になれば、侵入口から逆にビル内の空気を押し出すことになるので外気侵入はなくなるが、必要以上の外気導入は冷房負荷が増える原因ともなる。
 
丁度、外気侵入が無くなるように導入量を調整するのが、外気負荷が少なくなるポイントだ。この導入や侵入以外にも間接的に入って来るものに熱伝導がある。水蒸気も壁に伝わり、壁から室内に伝わって来るという意味では熱と同じく水蒸気も伝導である。伝導はビル内の気圧に左右されずに、正圧でも負圧でも、壁や天井、窓から伝わって入って来るのが特徴である。
 
侵入は気圧差の影響を受けるが、伝導は気圧差ではなく、温度差と湿度差の影響を受けてビル内へ入って来るという違いがあるのだ。
 
熱の場合は日射が窓ガラスに当たればガラス自体が熱くなり、その熱が室内に伝導すると同時に、ガラスを透過した日射が室内に直接熱を与える。これが伝導と透過である。
 
外気と室内のエンタルピを比較するだけでは、温度を下げて湿度を下げない冷房をおこなったほうが省エネになるが、数値の比較だけではなく、外気の温度と湿度、つまり外気の熱と水蒸気のどちらがビル内への伝導量が多いのかで、不快指数冷房の調整方法も違って来るはずだ。
 
温度の方が湿度よりも伝導しやすいのであれば、室内温度を下げれば下げるほど外気の熱が伝導して冷房負荷が増える。逆に温度の高い冷房をおこなえば、熱は伝導し難くなる。
 
湿度の方が温度よりも伝導しやすいのであれば、室内湿度を下げれば下げるほど外気の水蒸気が伝導して冷房負荷が増える。逆に湿度の高い冷房をおこなえば、水蒸気は伝導し難くなる。
 
室内温度と湿度の伝導しやすいほうを下げないようにしながら、伝導し難いほうを下げたほうが、エンタルピとしての伝導量が少なくなるので、それだけ冷房負荷も減るだろう。

37、保存室の保温

 1850%の保存室での例である。エアコンで除湿を行なっていたが、除湿をすれば室温が下がり過ぎて、真夏でも再熱を行わなければならなかったので、除湿器1台を追加してエアコンでの除湿負荷を減らすことにした。
 
エアコンと除湿器の併用で、室温が設定以下にならないような除湿ができれば、再熱で無駄な電力を使う必要もなくなるだろう。
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  この保存室は窓も無く、人の出入りも殆どない密室である。ドアはパッキンで密封されており、ドアの室内側にもう一枚のドアがある風除室的な二重のドアである。保存室に入るには外側のドアを開けて入り、閉めてから内側の開けるというようになっている。この外側ドアの手前スペースも外気が入らない狭いエレベーターホールなので、給排気ファンを運転しない限りは、直接保存室に外気が入ることはない。
 
壁と床はコンクリートで囲われており、室内側の壁と天井は石膏ボード覆われている。ここまでは窓やドアを別とすれば通常の部屋と同じだが、さらに室内側全面が木材で覆われている、室内に木製の部屋がある二重構造の保存室だ。
 
天井裏だけは石膏ボードと木材による二重天井の上が、広い空間となっている。ほぼ完全密閉状態のこの保存室が周囲から温度・湿度の影響を受けるとすれば、この天井裏からの可能性が高いだろう。そこでこの天井裏に片面アルミのグラスウールを敷き詰めることにした。これならば保温にもなり天井裏からの湿気の侵入や伝導も減少すると考えたからだ。