ビルの省エネ指南書(53)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

電気室の熱

1、夏季と冬季
 
ビル内が負圧では外気が侵入して、エントランス近辺は外気温度の影響を受けやすくなる。    夏季は28℃のビル内に35℃の外気が侵入しても、温度差は7℃にしかならないが、冬季は20℃のビル内に5℃の外気が侵入すると、温度差は15℃になり、0℃の外気侵入ならば温度差20℃だ。寒冷地ほど温度差が大きくなるだろう。
 
このように外気侵入における、人への影響は冬季の方が大きいので、ビル内の気圧を高めて、出入り口からの外気侵入防止が効果的だ。
 
しかし空調機等からの外気導入量を増やしてビル内の気圧を高めても、外気負荷が増えることには変わりがない。そこで、冬季に外気負荷を増やさずに外気導入量を増やして、ビル内の気圧を高めるアイデアが必要となる。

2、電気室の熱
 
電気室は変圧器の発熱で冬季でも室温が高くなり、給排気ファンを運転して室温を下げているビルも多いだろう。つまり冬季なのに屋外に排気=排熱しているのだ。
 
電気室のあるビルならば、この熱を屋外ではなくビル内に排熱する方法を考えたい。
 
電気室は臭いのする場所ではないので、居室でも問題なく使うことができるだろう。
 
電気室の温度が20℃以上であれば、ビル内への排熱量がいくら多くても空調の外気負荷にはならず、逆に暖房効果さえ期待できるはずだ。
 
そして、電気室からビル内への排熱量が多くなればなるほどビルの気圧が上がり、出入り口からの外気侵入量が少なくなるだろう。
 
もしビル内の気圧が正圧になれば外気侵入は無くなり、エントランス近辺の人が寒く感じることもなくなるはずだ。
 
電気室の熱を、排気ファンを使って屋外へ排熱するぐらいならば、ビル内へ排熱したほうがどれだけメリットがあるかが分かるだろう。

3、搬送経路
 
外気をどのような経路で電気室から給気場所まで搬送するかを考えなければならない。
 ○空調機の還気で引っ張って給気
 ○電気室から直接給気
 
○ダクトを給気場所まで新設して給気
 
どのような方法を選ぶかは、電気室から給気場所までの距離と工事費用によるだろう。
 
給気場所が居室であれば直接的な暖房効果があってよいのだが、廊下や階段であっても、ビル内の気圧を上げる効果はあるので、居室にこだわる必要はない。
 
写真は空調機の還気で電気室内の空気を引っ張って給気する方法である。
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上下の写真を対比してみていただきたい。
 
電気室排気ファンの排気チャンバーと、1階ロビー用空調機の還気ダクトとを、ダクトで繋いだところだ。これで電気室からの排熱は1階ロビーの暖房とビル内の気圧上昇のために使える。
2014-10-08_1723_001

 ダクト長は水平距離3m、垂直距離2m程度なので、それほど工事費もかからない。 
 
冬季は電気室の排気ファンを運転せず、空調機はOAダンパー全閉で運転して、電気室で暖めた外気を、RAダクトから引っ張ってロビーに24時間供給するようにしている。
 
排熱利用と通常排気を切り換えるためのダンパーも設けている。冬季以外は排気ファンを運転して屋外に排気するためである。

4、温度効果
 
平成24年1月3日の温度を24時間計測したグラフである。上から電気室温度、空調機給気温度、外気温度を表している。
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1
3日の温度推移グラフ(上)と表(表)
2014-10-08_1725

 年末の御用納めから、御用始め前日の1月3日までは最も電気を使わない期間である。変圧器の発熱を考えれば、13日の電気室内は1年中で最も温度条件の悪い日でもある。
 
グラフ一番上の、のこぎり刃のような電気室温度グラフは室温が上がれば給気ファンを運転、下がれば停止と間欠運転しているためである。


 
電力使用の多い平日ならば常時運転しているので、もっと直線的なグラフになるだろう。
 
直ぐ下の25℃ラインと重なっているグラフは空調機の給気温度である。熱源は運転していないので、この温度は電気室の排熱温度になるが、電気室から空調機までのダクトが長いので、ダクトからの放熱分だけ低い温度になっている。
 
電気室温度の上下動に従って、給気温度も若干は上下しているが、外気温度の影響も受けずに、24時間25℃前後を保っている。
 
電気室の温度センサー取付け位置は人の目線よりも下だが、排気ダクトは天井にあるため、電気室温度と給気温度は同じにはならず、給気温度はある程度一定の温度を保っているようだ。
 
ビルは夜間に外気が侵入して、ビル内が冷え込むことが多いのだが、このグラフによると夜間も25℃を給気場所に排熱しながら、ビル内の気圧低下防止に役立っていることになる。
 
排熱なので費用もかからず、休日明けなどは空調の立ち上がりが早くなるはずである。
 
空調の立ち上がりが早くなるならば、その分の時間、空調運転開始を遅らせることもできるので、それだけ省エネにもなるだろう。
 
一番下は外気温度だ。平均6.3℃と福岡市にしては寒い1日であった。外気の最低温度が4.3℃で、この時の給気温度が25.2℃なので、電気室を経由して外気を導入すれば、最低でも21℃も外気を暖める効果があることが分かる。
 
外気温度は最高と最低では大きな違いがあるが、給気温度には殆ど変化がないのは、電気室の天井高が高いので、暖気が上部にこもって蓄熱状態になり、温度を保っているからだろう。

5、排熱利用
 
大規模ビルになればなるほど、煙突効果による自然排気が多くなり、電気室が数カ所に分散していることもある。このようなビルではメインの電気室の排熱利用だけでは、ビル全体の気圧を外気圧以上に上げるのは難しいかもしれないが、ビル内が冷え込む時間帯である深夜に、熱源なしで排熱を供給できる効果は大きいだろう。
 
電気室を暖房の熱源として利用できるビルは限られるかもしれないが、排熱の搬送経路を見付け出し、排熱利用を実現できるかどうかは、ビルの設備管理員の努力次第である。