ビルの省エネ指南書(57)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
 室長 中村 聡

コンピューター室

無停電電源装置

1、UPSの直列接続

 コンピューター室内の機器も更新される度に小型化されて小電力になっている。
以前は大容量UPSを使用していたが、現在は機器毎に小容量UPSを備えるようになっているのに、大容量UPSもそのまま使用しているため、結果的にUPSが直列接続になり、小容量UPSが大容量UPSの負荷になっていることがある。このように直列にUPSを使用しているようならば、大容量UPSを停止出来ないかを検討してみてはどうだろうか。
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 UPSが直列に接続されていても、緊急性が要求される用途で使われている大容量UPSを停止させることは難しいかもしれないが、停止できるのであれば、バッテリー交換等の高額なメンテ費用も節約でき、36524時間運転なので節電効果も大きいはずだ。

2、UPSの必要性

 瞬間的な停電や電圧低下は時々あるが、瞬停よりも瞬低の場合が殆どだろう。瞬低があったとしても、デスクトップパソコンを使用中に気付くことは無いだろうし、家庭でテレビを見ていても気付いたことは無いはずだ。
 
このような電子機器は安定化電源で作動しているため、瞬間的な電圧変動は吸収してしまうので気付くことは無いが、照明ならばチラつきがあり、水銀灯であれば消灯することがあるので、瞬低があれば気付くこともあるだろう。大容量UPSがあるならば発電機もあるはずだ。
 
大容量UPSは瞬低にも対応できるが、停電時に非常用発電機が起動するまでの1分間程度の給電に用いられるのが主な用途である。
 
この程度の停電ならば小容量UPSでもバックアップでき、それ以上の停電になるようならば、この小容量UPSでコンピューターの電源を落とすこともできる。それなのに直列接続してまで大容量UPSを使う必要があるのだろうか。
 
停電になって非常用発電機が起動しても、発電機で全ての照明が点灯する訳ではなく、ビル内の空調も停止したままだろう。夏季ならば30分もすればビル内の温度が上がってしまう。
 
長時間の停電に対応できるビルは、発電機の容量が大きくて燃料の備蓄が豊富なビルであるが、それでも燃料タンク容量の半分程度まで減らないと燃料の補給はしないだろうから、燃料タンクが常に満タンである訳ではない。燃料タンク内の底部の燃料までは使用できないので、実質的には燃料タンク容量の40%以下しか使用できる燃料がないということもあるだろう。これでは非常用発電機があっても、最悪の場合は半日程度給電ができればよいほうである。
 
そうなれば復電の目途が立っていなければ営業続行は困難であり、発電機が起動した時点でコンピューターの電源を落として、復電後に立ち上げることを考えるしかないだろう。

 3、大容量UPSを停止

 11年間運転してきたコンピューター室用の大容量UPSを停止させた例がある。バッテリーの交換期限は過ぎているのだが、1,000万円以上もかかる交換費用の工面が困難であることも停止させた理由のひとつだ。
 
コンピューター室の機器が更新されてからは、各機器が小容量UPSを持つようになっており、UPSが直列接続の状態であったので、この大容量UPSを停止させ、バッテリーも取外し、コンピューター室への配線は直結した。
 
商用電源も安定しておりCVCFとしての用途も必要はなく、小容量UPSへの入力電圧が規定値に収まるように調整しているだけだ。
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 このUPS室は年間冷房が必要である。エアコンは電気室と共用であったため、冬季は冷やす必要の無い電気室まで冷房していたが、UPS停止後は冬季の冷房を停止できた。
 
もしUPS室専用のエアコンならば年間の冷房停止による節電効果があるだろう。

 4、UPSの消費電力

  36524時間運転していたこの1台の大容量UPSが、どれだけの電力を消費していたのか、停止前と停止後のデータを比較してみる。
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 この表はUPS停止前1年間と停止後1年間のビル全体の消費電力量(千kWh)である。ビルの休業日が1日違えば3%程度の違いがあるため、UPS停止後の方が増えている月もあるが、1年間で比較すれば7.0%の削減となった。しかしUPS停止以外の節電対策も行っており、前年比だけではUPSの節電効果が分からない。
  UPS停止前後5日間を比較すると4.2%の節電であった。デマンドは約14㎾の低減である。これは電気室の冷房を行なっている9月の比較であり、このビルに関しては冬季になると冷房停止による節電量がさらに上積みされるので、4.2%以上の節電となるはずだ。55

 5、UPS停止の効果

  これだけの節電量、デマンド低減、メンテナンス費用の一石鳥の経費節減効果が得られるのであるから、UPSの直列接続が必要なのかをよく考えてみたい。
 
大容量UPSを使っていた11年余、この間にUPSが必要となった停電は一度もなく、停止後8年余も停電は無かった。停電があったとしても発電機が起動して給電を開始するまでの1分間程度を小容量UPSで対応するかコンピューターの電源を落とせばよいだけだ。
 
直列で使えば、どちらかが故障しても給電ができるかもしれないが、20年間も停電がなく、10年間以上も故障のなかったUPSである。UPSの故障と停電が同時に発生する確率は非常に小さく、むしろコンピューター等のシステム機器が故障する確率の方がはるかに大きいはずなので、こちらの心配をしたほうが現実的だろう。
 
このような大容量UPSを停止することは、簡単なことだと思うかもしれないが、停止後に何らかのトラブルがあった場合に管理責任問題になるよりも、現状を維持して責任を回避したほうが良いと考えるのが、ビル管理権原者としては普通かもしれない。それにもかかわらず大容量UPSを停止させて節電をおこない、経費も大幅に削減したのであるから、このビルの管理権原者の英断は評価されるべきであろう。