ビルの省エネ指南書(51)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

水冷冷却塔

1、冷却水ポンプ

冷却水温度によって流量を変えることができれば冷却水ポンプの省エネになるだろう。

ファンのON・OFF制御で水温を調整している冷却塔は多いが、冷却水ポンプでの変流量制御をおこなっている冷却塔はまだ少数である。

冷却水ポンプの吐出バルブを絞っている場合も多いので、冷却水温度に応じた変流量制御をおこなっても支障はないはずだ。

ポンプの回転数を制御して冷却水流量を減らす省エネ効果は大きいが、夏季だけしか運転しない冷却水ポンプの運転時間が短いため、設備投資回収までに時間がかかるだろう。

電力デマンド低減効果も考えたうえで、インバーターの導入を検討したい。

冷却水ポンプは一次ポンプ等よりも大容量であり、温度制御まで含めると、インバーター導入にはかなりの費用が必要となる。

そこで設備管理員だけでできる、費用のかからない冷却塔の省エネ対策を紹介する。

2、冷却塔

冷却塔には、循環する冷却水を冷却塔内に直接散布して冷却する開放式冷却塔と、冷却水が密閉配管内を循環して、冷却塔内の散布水で間接的に冷却する密閉式冷却塔がある。どちらの冷却塔の場合でも、節水のために電気伝導率を高く設定していると、冷却塔内の水が濃縮して、汚れと共に濁ってくるのが分かるはずだ。

冷却水が濃縮すると水の蒸発効率が悪くなり、冷却水温度が上がれば、吸収式冷温水機やターボ冷凍機等の冷凍機の効率が悪くなる。冷房ピーク時には冷水出口温度が思うように下がらないことを経験した設備管理員もいるだろう。

冷却水温度を下げるために、電気伝導率を低く設定してブロア量を増やしたほうが、蒸発効率の向上と水温の低い上水の給水量増加とで冷却水温度が下がり、冷凍機の効率も良くなるはずだ。このほうが省エネになることが分かっていても、水道料金を考えると電気伝導率を上げざるを得ないのが現状であろう。

3、雨水利用のビル

ブロア量を増やしても水道料金が上がらないビルがある。それは雨水を中水として、トイレ等で再利用しているビルだ。

オフィスビルや商業ビルでは、トイレで使う中水は、梅雨時以外は雨量が足りないために上水や中水を補給しているはずだ。中水として使用する水の90%以上が補給水だというビルも多いのではないだろうか。せっかく浄化設備があるのに、上水や中水を中水槽へ補給して使用するのは勿体無い話である。中水槽に補給するぐらいならば上水を冷却塔のブロア水として一度使い、冷却塔からオーバーフローした水を雨水槽に回収して中水として使えば、同じ水を二度使うのだから効率的であり、水道料金を増やさずに冷却水の電気伝導率を下げることができる。

試しに冷却水の電気伝導率設定を下げて、中水槽への補給水が無くなるぐらいにブロア量を増やしてみればよいだろう。冷却水温度が下がり、冷却塔下部水槽の水が綺麗に澄んで来るのが実感できるはずだ。

無駄なブロアは避けたい。特に雨天時は雨量、雨水貯水量、電気伝導率を考慮して、ブロア量を調整したい。雨水槽が満杯で放流するようになってまでブロアを続ける必要はないからだ。

4、オーバーフロー

冷却塔からオーバーフローする水は、冷却塔で冷却された冷却水とブロア水である。このように温度の下がった冷却水をオーバーフローさせるよりも、冷却塔上部から温度の高い冷却水を抜く方が、冷却水温度を低下させるという意味では効率的だ。冷却した水を排水するよりも、水温が高いままで排水させ、その量の上水をブロアさせたほうが、冷却水温度が下がるからだ。

写真の矢印のような上部水槽に入る手前の位置にドレン管を設ければ、運転中のみ屋上に排水できる。ドレン管にバルブを設けて開度を調整できれば、電気伝導率で制御していない冷却塔であってもブロア量の調整が可能となる。
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オーバーフローさせる方が簡単ではあるが、下部水槽の水位が高いので、冷却塔停止時に冷却塔上部水槽の水が下部水槽に落ちて来ると全てがオーバーフローしてしまう。

冷却塔上部から抜く方法ならば、冷却塔下部水槽の水位はボールタップの水位なので、オーバーフローすることはないだろう。

オーバーフローさせるのは運転中だけでよい。

5、開放式冷却塔

雨水を利用していないビルでも、ビル内の排水を浄化した後、中水として再利用しているビルであれば、排水した冷却水を処理水槽まで導くことができるならば再利用は可能である。

処理水槽は地下にあることが多いだろう。冷凍機もその近くにあるならば回収経路を調べたい。

冷却水が冷凍機を出た後にドレン管があればそこから抜けばよいが、処理水槽に繋がっていて水を回収できなければ再利用はできない。

このように冷却水配管のドレンから直接水を抜くことができるのは開放式冷却塔の場合だ。

ドレンを利用する場合の注意点は、ドレンのバルブを冷凍機運転の都度手動で開閉しなければならないことだ。冷却塔の上部から抜くのならば、冷却水ポンプの吐出圧力を利用して、運転中だけ抜くことが出来ても、冷却水配管の最下部から抜くとなると、停止時にも抜けてしまうので、冷凍機運転中だけバルブを開けて、停止させるときにはバルブを閉め忘れないようにしなければならない。閉め忘れると不必要な水道料金が増えるだけである。

最下部から水を抜くメリットは冷却水配管下部に沈殿した粉塵等の汚れを除去できることだ。

開放式冷却塔と冷凍機の設置位置に高低差があれば、冷却塔下部水槽の底に沈殿しているような粉塵的な汚れが、冷却水配管の最下部にも沈殿していて当然だ。このような汚れをドレンから抜くことができるのだ。

5、密閉式冷却塔

密閉式冷却塔は、冷却塔から直接水を抜いて回収しなければならない。屋上の冷却塔から地下の処理水槽までとなると冷却水を回収するのは難しいので、雨水槽へ回収できなければ冷却水の再利用はできないかもしれない。

冷却水の回収の可否等を調査してほしい。

意外な回収経路が見つかるかもしれない。

若干のドレン工事費が掛かるが、冷却塔上部の温度の高い水を抜いたほうがよいのは、開放式冷却塔の場合と同じである。

6、薬剤注入

冷却塔に薬剤を注入しているだろうか。

ブロア水量を多くした結果、冷却塔下部水槽の水が澄んで来るということは、薬剤の濃度も薄くなっているということでもある。

薬剤の注入量を増やして薬剤濃度を維持するべきか、薬剤の注入を止めるべきかの判断が必要となる。電気伝導率の下がった冷却水の水質検査等を行ってから検討するのも良いだろう。

冷凍機が停止する1時間程前にブロアを停止させてから薬剤注入を開始するという方法もある。翌日運転を開始するまでの間は、薬剤の入った冷却水になっているので、レジオネラ菌対策にもなるだろう。これならば薬剤注入時間が短いので、高価な薬剤の節約にもなる。

安全面、メンテナンス、経費、省エネ等を考えて、最も適切と思われる方法を選べばよい。