ビルの省エネ指南書(62)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

不快指数冷房(11

49、扇風機の風速
 扇風機は首の上下角度によっても風速が変わって来るが、水平に近い状態で使用することが多いだろう。扇風機の背面に壁等があるよりも、部屋の中央に置いたほうが風速は早くなるが、扇風機を部屋の中央に置いて使うこともあまりないだろうから、襖を背にした位置で測定した。 image001

測定箇所によっても風速が変わってくるが、この測定箇所での「強」の風速は5.6㎧であった。 image002

「弱」の風速は2.2㎧で、「強」の約40%の風速であった。

50、エアコンの風速
 冷房能力の大きなエアコンになると風量やファンの音も大きくなるだろうが、ビルではその他の音も発生している。日中ならば外から聞こえる音も大きいはずだ。エアコンの風量や音が気になることは無いだろう。 image003
エアコン吹出し口中央で測定した「強風」での風速は3.8㎧であった。6畳用エアコンの使用であるが、深夜であっても風量や音が気になることはなかった。
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「微風」の風速は2.4㎧で、「強」の63%の風速である。扇風機よりもエアコンのほうが「強」と「微風」の差が小さいことが分かる。

51、消費電力と風量
 この家庭用エアコンの送風時の消費電力は「強風」と「微風」の差が僅か4Wなので、冷房時の消費電力全体から見れば、気になるような電力ではない。「微風」から「強風」にすると風量は1.58倍になるが、消費電力は1.22倍にしかならない。
ベース電力である制御電力は風量にかかわらず一定であり、多分10W程度の電力を消費しているのだろう。 風量は風速×面積で計算する。面積はエアコンでは吹出し口の面積であるが、扇風機では送風面積とするべきだろう。
よって両方とも送風面積と表現する。扇風機は羽根の直径が30㎝なので、送風面積は中央のパネル部分の面積を差し引いても600㎠以上の送風面積があるのに対して、エアコンは60㎝×5㎝=300㎠なので、扇風機の半分の送風面積しかない。
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表の数値でエアコン「強風」と扇       風機「弱」の風速に各々の送風面積をかけて風量として比較すれば、 エアコンの「強風」は、扇風機の「弱」よりも少ない風量となるので、エアコンを「強風」にしても、風が気になることはないだろう。エアコン「強風」の風が気になるのならば、扇風機「弱」の風のほうが気になるはずだ。 家庭の室内では人との距離も扇風機の方がエアコンよりも近いはずなので、体感的な風量は扇風機のほうがさらに大きくなる。 ビルでは、広い室内にある業務用エアコンの位置関係で体感風量が大きく変わって来る。ビルの室内は天井も高く、室内機は壁掛け式よりも天井埋め込み式が多いので、床面までの距離も大きくなり、人との距離も大きくなる。 家庭の場合以上に、エアコンを「強風」運転にしても風量が気になることはないだろう。

52、業務用マルチエアコン
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業務用エアコンの室内機は、天井埋込形では写真のような4方向吹出し形以外にも、2方向吹出し形、1方向吹出し形、床置形、壁掛形など種類が多い。 ビルは天井高の低い事務室でも家庭の天井より高く、扇風機を併用している部屋もすくないので、人の側で使用する扇風機と人から離れた位置にある業務用エアコンの風量を比較する意味はない。
「強風」時の音もビル外からの音の方が大きいはずなので気にはならないだろう。「強風」運転を試してみることだ。 マルチエアコンを使っているビルでは、それほど暑くない日や、在室人数の少ない時などは、冷房負荷が少ないので、室内機の運転台数を減らしていないだろうか。
例えば1部屋に2台の室内機があり、節電になると思って室内機を1台停止させて1台で「自動」運転や「微風」運転している場合は、たとえ1台運転で充分に冷房できるとしても、2台共「強風」で運転するほうが節電になる。 室内機1台運転よりも2台運転のほうが、冷房負荷が分散されるので、室内機1台当たりの冷却量が半分になり、給気温度がそれだけ上がり、除湿量も減るからだ。
室内機の運転台数が多いと、室内機の消費電力は多くなるが、たいした電力ではないので、「不快指数冷房」でそれ以上の節電が出来るのならば、室内機運転台数は多くても良いのだ。
しかし、室内機を2台運転したとしても、片方だけ温度を低く設定すると、その1台に冷房負荷が集中して給気温度が下がり除湿量も増えるので、1台運転と同じ結果になってしまう。
室内の温度分布もあるだろうが、できるだけ室内機2台の冷房負荷が均等になるように、設定温度も同じぐらいの温度にしたほうがよい。 室内機が複数台ある室内の場合は、「強風」にするだけで「不快指数冷房」ができる訳ではないので注意が必要である。
外気が乾燥する時期になると加湿が必要になる。 人の多いビルならば5月や10月でも冷房しているが、外気が乾燥しているので、「通常冷房」では室内湿度が40%以下になることもある。このような時期には、人が出す湿気を除湿しない冷房で、室内湿度を上げる効果がある。