ビルの省エネ指南書(73)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

稼働電力と待機電力(1

1、待機電力
 ビルの待機電力量が消費電力量の数%もあると云われているがどうなのであろうか。
消費電力量=稼働電力量+待機電力量
普通はこのようになる訳だが、稼働電力と待機電力の区別が難しい機器もある。
ビルの待機電力で主なものは、エアコン、OA機器、変圧器であろう。
エアコンやOA機器ならば、スイッチON時は稼働中、スイッチOFF時は待機中なので分かりやすいが、変圧器は各自がスイッチをON・OFFするものではないので、変圧器の無負荷損を待機電力といえるのか疑問ではある。
いろいろと迷うところはあるが、できるだけ待機電力だと考えるようにして、その待機電力を減らす対策を考えるようにしたい。

2、家庭用エアコン
 ビルであっても小さな部屋であれば家庭用エアコンと同じものを使っているだろう。
ブレーカーを切るか、プラグを抜けば待機電力をなくすこともできるが、毎日これをおこなうのは面倒であり問題でもある。
エアコンはテレビやパソコンのように節電タップを使うことはお勧め出来ないが、家庭用エアコンの待機電力は1W以下なので、無理に待機電力節約を考える必要はないだろう。
冷暖房時期はそのままでもよいので、中間期のようにエアコンを使わない時期だけ、エアコン専用のブレーカーを切るようにすればよい。
専用ブレーカーでなければコンセントのプラグを抜くしかないが、冷房と暖房時期前後の年4回抜き差しするくらいはできるだろう。
待機電力節約と思って、毎日のようにプラグを抜き差しするとコンセントが緩くなり、接触不良をおこす原因となる。
プラグ付け根部分は断線しやすく、頻繁に抜き差しすることで、この部分の心線が少しずつ断線していくと発熱が増えていき、場合によってはコードが焼けて穴が開くこともある。
この接触不良による発熱が原因でコンセントが焦げ付いて、熱で変形することもあるが、このような発熱による電力消費が増えては、僅かな待機電力を節約する以上の無駄となる。
エアコン運転中にプラグ部分を手で握って、少し温かい程度ならばよいが、熱いようなら接触不良や断線の問題があるはずなので、発熱箇所を中心に調べてみたほうが良いだろう。
発熱は電力消費であり電気抵抗にもなるので、エアコン運転中の損失になる。僅かな待機電力の節電を考えるよりも、接触不良を無くして電気の流れを良くしたほうが節電になるはずだ。
接触不良によりエアコンの効きが悪くなることもあるので、発熱に気を配ることは運転電力の節電にも効果的なのである。
エアコンのコードがエアコン用コンセントに届かなくて、延長コードを使うと接触箇所がそれだけ増えることになる。
1.25㎟×2芯の電源延長コードの定格電流が15Aで、エアコンの運転電流が15A以下であったとしてもコードが発熱するはずなので、そのような延長コードは使わないほうがよい。
冷房ピーク時に延長コードを使うと、エアコンの効きが悪くなるのが分かるはずだ。延長コードを使わずに、エアコン専用のコンセントに直接差し込むようにすれば、エアコンの効きが良くなることが実感できるだろう。どうしても延長コードが必要ならば、エアコン用の延長コードを使うようにしたい。
コードやコンセントの発熱に注意して、発熱が減るようにすれば節電になるのだから、コンセントや電源コードはエアコン運転中の節電ポイントといってもいいだろう。

3、業務用エアコン
 業務用エアコンは電源ケーブルをブレーカーに直接結線しているため、コンセントやケーブルが発熱する心配はないが、クランクケースヒーターという発熱体がある。
この写真はインターネットからの引用である。下部に巻き付けられているのがクランクケースヒーターだ。他にも検索してみて欲しい。
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冷媒が潤滑油に溶け込まないようにクランクケース内の潤滑油を温めて、何時エアコンを運転してもよいようにしているヒーターだ。
エアコン運転時はヒーターがOFFになるが、停止時は通電された状態になるので電力を消費する。手で触れば暖かいのが分かるだろう。
機種によっては電源側に直結されて、運転時も通電状態のヒーターもある。消費電力の大きさから、ビルではこれが最も無駄な待機電力といってもいいだろう。
パッケージエアコンには圧縮機が室内機側にあり、室外機は放熱器だけの機種もあるので、室内機と室外機の両方のブレーカーを切るようにしたい。
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表はエアコンメーカーの空冷チラーモジュールの仕様書だ。仕様書の一番下にクランクケースヒーター(W)という項目がある。「75×4」となっているのが分かるだろう。つまり、モジュール1台あたり300Wである。
チラー自体は運転時だけ電力を消費するが、クランクケースヒーターはチラー停止時に常時通電しているので、チラーを運転しない日であっても、24時間電力を消費している。
全く冷暖房をおこなっていないにもかかわらず、常時無駄に待機電力を消費しているのが、このクランクケースヒーターなのである。
ビルならばこのモジュールが何台も使われているのだから、ビル全体で何Wになるだろうか。
冷暖房をおこなわない時期を決めることができれば、その期間はブレーカーを切っておくだけでW数×台数×24h×日数の節電ができる。
ホテルでは難しいかもしれないが、オフィスビルや庁舎では冷暖房時期を決めている場合が多いので、ブレーカーを切ることは容易だろう。商業ビルや病院でもできないことはない。
このモジュールが20台あるビルが、チラーの不使用期間180日として、その間ブレーカーを切っておくだけでも
300W×20×24h×180=25,920kWh
年間にこれだけの待機電力を節約できる。同時に、クランクケースヒーター以外のエアコン本体の待機電力も節約できるのだから節電効果は大きい。
間違ってクランクケースが冷えた状態のままエアコンを運転しないために、運転開始前日にはブレーカーをONにするように、注意書き等の工夫をしておきたい。
小型のチラーやマルチエアコンの室外機の場合はクランクケースヒーターのW数は小さくなるが、W数は小さくても、同じ規模のビルならば、台数が多くなるので、トータルではかなりのW数になるはずだ。
管理しているビルのクランクケースヒーター電力が合計で何Wになるのかを調べてみるのもよいだろう。