ビルの省エネ指南書(61)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

不快指数冷房(10

44、エアコンでおこなう不快指数冷房

「不快指数冷房(5)」に、除湿量を減らすポイントは「送風ファンの風量が多い」とある。
まずは室内機ファンの風量を増やしてみよう。 エアコンの室内機風量は「自動」か「微風」に設定しているビルや家庭が多いだろう。
風量の「自動」は、室温とエアコン設定温度との差が大きい時は「強風」になり、温度差が小さくなるにつれて「弱風」「微風」と風量を自動調整するので、「微風」運転の時間が長くなる。
「強風」運転よりは「自動」運転のほうが、風量が少なく、ファン電力も減るので、節電になると思って「自動」にしているのではないか。 もしここで、風量は「自動」や「微風」よりも「強風」にしたほうが節電になると云われたら、それを信じられるだろうか。 室内機の消費電力量がファン電力分は増えるのだが、実際にエアコンの室内機+室外機の合計消費電力量を計測すると、「自動」や「微風」よりも「強風」運転のほうが、消費電力量が少なくなるのは実験結果の通りである。 「強風」にするとエアコンの給気温度が上がるので露点温度も上がり、湿度の高い給気となる。もし冷房時に室内が乾燥するので加湿しているのならば、加湿の必要はなくなるだろう。 室内温度が同じで湿度が上がれば不快指数も高くなるが、気流は増えるので、PMVとして考えた方がよい場合も出て来るだろう。 風量を増やす不快指数冷房は、温度設定は同じままで、風量設定を「強風」に切換えるだけなのでお金もいらず、3秒もあれば誰でも簡単にできるので手間がかからず、リスクもない。 この節電対策はエアコンでの冷房であれば、ビルでも家庭でも実施可能なので、ぜひ試していただきたい。

45、風量設定
冷房時に冷風を「強風」運転で室内全体へ循環できれば、温度ムラのない室内となるだろう。 我が家のエアコンでは、風量を「自動」にすると、沈み込んだ冷気によって足元が冷えるので、扇風機を「微風・首振り」で併用していたが、エアコン風量を「強風」にすると、扇風機が無くても足元が冷えることがなかった。「強風」運転で床面の冷気が掻き混ぜられているのだろう。 室内機ファン「自動」+扇風機「微風」よりも、室内機ファン「強風」だけのほうが、ファン電力が少なくて済むので、扇風機を併用するよりも節電になる。エアコンと扇風機を併用したほうがよいとよく耳にするが、「強風」運転を体験してから扇風機の必要性を決めればよい。 ただし、フィルターが埃で詰まっているようでは、いくらファンが「強風」でも、実質的な風量は減少する。「微風」や「弱風」の風量にまでなると、「強風」運転による「不快指数冷房」効果が少なくなってしまうので、フィルターの清掃は早めにおこなうように心がけたい。 フィルターが目詰まりすれば、除湿にエネルギーを使うことになるが、ある程度目詰まりさせて除湿器として使う考えならば、除湿器よりもエアコンの方がはるかに除湿能力は高い。

46
、床面温度
54日間の消費電力量計測と同時に、床面から40㎝の位置に温湿度計を2台設置した。 これは毎日7:00時点での平均温度をグラフにしたものである。image001
単位:℃  ●通常冷房 ○不快指数冷房

設定温度が28℃でも、床面は沈んだ冷気で、さらに温度が低くなっていることが分かる。 「●通常冷房」は温度のバラツキが若干あるが25℃のライン上が多い。「○不快指数冷房」は温度のバラツキが少なく、26℃のライン上が殆どだ。「●通常冷房」と「○不快指数冷房」の床面温度は1℃の差になっていると云えるだろう。 エアコンは吸い込み口で温度を測定しているため、天井付近の温度が28℃でも、「●通常冷房」の「微風」では床面の冷気が循環せずに沈み込んだままになり、床面付近の温度が25℃にまで下がるのだろう。 「○不快指数冷房」の「強風」では床面の冷気も循環しているのだろうか、床面付近の温度が若干上がって26℃になっている。 「○不快指数冷房」の方が、温度ムラが少なくなっているはずなので、「●通常冷房」よりも床面から1mならば涼しく感じるはずだ。 暑いようならば目標とする不快指数になるように温度設定を下げてもよい。 室温28℃に設定した場合、「○不快指数冷房」で温度が26℃ならば、湿度70%の時は不快指数75.4である。75以上の不快指数ならば無駄のない冷房だと云えるだろう。

47、床面湿度
同じく毎日7:00に、2台の温湿度計で測定した平均の温度と相対湿度を使って、絶対湿度に換算したグラフである。室内空気の湿度は、温度によって変化する相対湿度ではなく、絶対湿度の水蒸気量で比較する。 image002
単位:g/gD.A. ●通常冷房 ○不快指数冷房

温度とは類似性のないグラフとなっている。 「●通常冷房」は比較的上下のバラツキが少ないグラフである。外気湿度に関係なく、一定のレベルまでは除湿しているようだ。 「○不快指数冷房」は上下のバラツキが多いグラフである。除湿量が少ないために、外気湿度の変化がそのまま表れているのだろう。 グラフの右辺では外気湿度が低くなっているのか、湿度の低い日が多く、「●通常冷房」と「○不快指数冷房」の湿度差が小さくなっている。 温度差は1℃でほぼ一定なので、消費電力量の差がグラフの右辺で小さくなっているのは、絶対湿度の差が影響しているからだろう。 エアコンで温度を設定しても湿度は成り行きである。これだけ湿度が違えば体感的な差も大きくなるので、室内湿度に応じて冷房温度を変え、不快指数が75になるようにできれば、体感的な差もなくなり、無駄も冷房も少なくなる。 これが「不快指数冷房」の目的の一つでもある。

48、ファンの消費電力
エアコンを「送風」運転にして、「強風」運転時の消費電力を計測すると22W、「微風」運転時は18Wだった。「強風」と「微風」の消費電力には僅か4Wの差しかなかった。 業務用エアコンではもう少し消費電力差が大きくなるかもしれないが、室外機も含めたエアコン全体での消費電力量からみれば、室内機送風ファンの電力量は僅かの差である。 風量を気にする人がいるかもしれないので、比較するために扇風機と家庭用エアコンの風量を「強風」と「微風」に分けて測定する。 扇風機の風量は「強・中・弱」で、エアコンは「強風・弱風・微風」となっているので、扇風機の「弱」はエアコンの「微風」と対比させる。 エアコンによっては風量が4段階や5段階に切り替えできる機種があるが、その時は一番弱い風量を「弱」とすればよいだろう 風量は風速×送風面積なので、風速計で「強」と「弱」の風速を測定して比較する。