カテゴリー別アーカイブ: ビルの省エネ指南書

ビルの省エネ指南書(75)

 空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

電力のチューニングポイント

稼働電力と待機電力(3

9、無線LAN親機
 家庭での使用が主であるが、稼働時と待機時の区別が難しいのが無線LAN親機である。
パソコンやスマートフォンを使って通信中であれば稼働中であり、通信中でなければ待機中となるが、稼働中と待機中の区別がつかない。そこで夜間等で全く通信することのない時間を待機中とする。
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定格消費電力が10Wの無線LAN親機の消費電力量を49時間測定すると320Whであった。320Wh÷49h≒6.53W
稼働中の電力としては小さいが、待機電力としては大きな電力である。
パソコンやスマートフォンを使っている時間帯も夜間でパソコンやスマートフォンを使っていない時間帯も消費電力量は変わらない。
動画等を見れば最大で10Wになるのだろうが、常時通信していない状態ならば、稼働電力も待機電力も殆ど差が出ないということである。
それならばパソコンやスマートフォンを使っていない時間帯は節電タップで切っておけばよい。定格消費電力の大きな無線LAN親機ならばさらに待機電力の節約となるはずだ。

10、テレビ、HDDレコーダー
 TVはビルよりも家庭での節電が主だが、主電源SWか節電タップ利用で簡単に待機電力を無くすことができる。待機電力を減らす省エネモード設定もあるので併用すればよいだろう。
取扱説明書には省エネモードで0.1Wという待機電力になっているほど省電力である。
TVは見ている時の電力消費が多いが、部屋の照明を暗くすれば、画面が暗くても見やすくなるので、照明とテレビで二重の節電効果になる。
液晶テレビを32型⇒42型⇒60型と数年毎に大画面へ買い替えたとしても、消費電力は逆に少なくなり待機電力も減っているので、僅かな待機電力を気にするぐらいならば、早めに買い替えた方がよいのかもしれない。
HDDレコーダーも待機電力はあるが、節電タップを使う訳にはいかない。テレビと同じように待機電力を減らす省エネモード設定があるので利用すれば2W以下である。
電源ON時の立ち上がりが少し悪くなるが、頻繁にON・OFFを繰り返して使う製品でもないので、問題はないだろう。

11、電気保温ポット
 電気保温ポットの保温中は待機電力なのか、稼働時と待機時の区別が難しい。本来は機器を使用していない時に電力を消費するから待機電力なのだが、電気保温ポットの場合は考え方を変えて、全くお湯を使わない時間帯であれば、その時間帯の保温は待機電力とする。
湯温が下がれば自動で通電をして、いつでも使えるようにお湯を温める。この保温のための電力はお湯を頻繁に使うのならば稼働電力になるのだが、お湯を使用することがないのに保温しているのであれば待機電力とするのだ。
接客用として必要であっても、常時満水状態にしておく必要はない。お湯の量は少なくてもよいはずだ。沸いているお湯の量が多いほど放熱も多いが、半分の水量ならば放熱も半分で済む。
カップ1~2杯のお湯ならば、水を入れて数分で沸くはずだ。普段は電気を切っておき、横に水を入れた容器を用意しておけばよいだろう。必要な時に必要な量だけ沸かすのだ。
お昼休みにお湯を使い、13:00に満水にするとどうなるだろうか。何台も電気ポットがあるビルならば昼休み直後の13:00~13:30がデマンドピークの時間帯になってしまう。
昼休みにしかお湯を使わないのであれば、その時だけ通電して、あとはコードを抜いておけば、昼休み後のデマンドピークも回避できるだろう。
一番の問題は終業時だ。お湯が残っていれば、無駄な電力を消費したことになってしまう。
終業時に空になる使い方がベストなので、お湯の使用状況を調べたうえで、終業前に使い切れる量のお湯を沸かしておけば、無駄も最小限になるだろう。家庭でも夜間にお湯は必要ないので、就寝時間までにはお湯を使い切って、コードを抜いておきたい。
電気保温ポットはお湯を使用しない時間帯の保温が非常に大きな待機電力になるのだ。

12、扇風機
 扇風機は台数も多く、コードを差したままにしていることが多い。ビルでもよく使われているが、待機電力を気にしている人はいるだろうか。
昔の扇風機はスイッチが機械式のため待機電力の心配は無いが、最近の扇風機は電子式のスイッチであり、リモコン対応の扇風機も多い。当然に待機電力があるはずだ。
リモコンの無い扇風機の待機電力を測定すると5時間で10Whだったので2Wである。
リモコンの有る扇風機は25時間で50Whだったので2Wである。リモコンの有無に関係なく2Wだったことになる。これはテレビよりも大きな待機電力である。扇風機はテレビのように主電源スイッチがないので、コードを頻繁に抜くよりも節電タップの利用が効果的である。
テレビの待機電力を気にする人は多いが、それよりも扇風機の待機電力を気にしたほうが節電になることを知っている人は少ないだろう。

13、温水便座
 温水便座もビルの場合は台数が多いので、節電効果は高いと思われる。温水温度も便座温度も水の勢いも最低限で十分である。
温水温度が最も電力を消費するので、利用者が勝手に設定を変更しないように、設備員が設定を監視する管理体制が必要だろう。

14、節電タップの消費電力
 100円ショップで買える節電タップにはパイロットランプが点灯するものがある。
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スイッチONにしてネオン管の電力を測定すると34時間で10Whであった。0.294Wである。
2,000時間/年ONであっても約0.6kWh/年。
6,760時間/年をOFFにして待機電力を節約したほうが、節電効果が期待できるだろう。
待機時にはOFFとなるので、パイロットランプは待機電力ではなく稼働電力になるが、点灯が消し忘れ防止になるので、パイロットランプの稼働時電力量を考えるよりも、節電タップとしての利用方法を考えた方が効果的である。

15、テーブルタップの消費電力
 LEDのパイロットランプが1個点灯する、雷サージ防護機能付きテーブルタップを測定すると60時間で10Whであった。0.166Wである。
ネオン管のパイロットランプよりは、電力が半分近くも少ない結果となった。
8,760時間/年通電したままでも1.46kWhの電力消費ならば、雷ガード機能としてだけで考えても効果的である。
待機電力対策として節電タップ等を購入するならば、スイッチはLEDのパイロットランプ付き又はランプのないもの、そして雷サージ防護機能付きのものを購入すればよいだろう。

ビルの省エネ指南書(74)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

電力のチューニングポイント

稼働電力と待機電力(2

4、トランス
変圧器の二次側電力が〔0VA〕であれば、無負荷損は待機電力と考えることもできるが、僅かでも二次側に電力があれば待機電力ではないことになる。変圧器は各自が簡単に電源を切ることができないので、夜間に全く電力を使用していない変圧器の無負荷損を待機電力とはいえないかもしれないが、負荷が無くても電力を消費しているのならば、変圧器の無負荷損も待機電力として対策を考えたほうがよいだろう。
変圧器の容量適正化や統合で無負荷損を減らすことができるので、ビルを管理する者としては、少しでも無負荷損を減らせるようにしたい。
ビルは将来の電気設備増設に備えて容量の大きな変圧器を入れていることが多いが、最近では照明のLED化やポンプやファンへのインバーター導入等により機器の省エネ化が進み、逆に変圧器容量に余裕ができてしまっている。
2台の変圧器を統合して1台にできれば、1台分の無負荷損が無くなるのだが、50%以下の負荷しかない変圧器が2台並んでいるとも思えないので、1台に統合するのは難しいだろう。それならば統合容量に合わせて変圧器を大きなものに換えるか、統合はせずに1台毎の変圧器容量を小さなものに換えるしかない。
変圧器容量の2%の無負荷損があると仮定して、変圧器容量合計で500KVAの容量があるビルが400KVAにできれば、100KVAの2%、約2kWの節電になり、電力単価が20円/kWhだとすれば、年間の節約金額は2kW×20円/kWh×24h×365=350千円
変圧器台数によっても交換費用は変わって来るが、この節約金額では投資を回収するのに、数10年の年数が必要となってしまう。
これでは直ぐに取り換えるのは無理だが、リニューアルの時期であればアモルファス等の高効率な変圧器に交換して、負荷損も同時に減らすことができるだろう。

5、ゲーム機用ACアダプター
 小さなACアダプターも変圧器である。パソコン周辺機器に用いられており、家庭ではゲーム機等でよく使われている。
通電されているコンセントに差し込んでいれば電力を消費するので、これも待機電力である。
写真はゲーム機で使われている定格容量18VAのACアダプターである。内部は変圧器と平滑回路で構成されている簡単な回路である。平滑回路には整流器と電解コンデンサが3個使用されている。このコンデンサは充電・放電を繰り返すものだが、ゲーム機が接続されていなければ、微量の自然放電だけである。これが待機電力となる。
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ACアダプター単体の待機電力を、ワットチェッカーで測定してみた。ワットチェッカーの最低測定単位が0.01kWhのため、ACアダプターを長時間、コンセントに差したままにして測定した結果、32時間後に0.01kWhとなった。
0.01kWh÷32h=0.0003125kW=0.3125W
1年中コンセントに差したままでは
0.3125W×24h×365=2,737.5Wh
3kWh/年の損失にもならない。
家庭の電気料金でも100円/年以下だ。変圧器の容量が18VAなので
0.3125÷18=0.01736
1.7%程度の損失になる。ビルの変圧器と殆ど同率の損失である。気にしなければならないような待機電力ではないが、ACアダプターをコンセントに差したままでは、電解コンデンサを常時充電状態にしておくことになる。電解コンデンサは故障することが多く、発熱の原因にもなるので、待機電力よりもそちらのほうが心配になる。
故障して買い替えることにでもなれば、10年間分の待機電力料金よりも高くつくので、待機電力節約とは関係なく、不必要なACアダプターは抜いておくほうがよいだろう。

6、ノートパソコン用ACアダプター
 ノートパソコン用のACアダプターはゲーム機用よりも容量が大きく、構造も違う。
65WのACアダプターをワットチェッカーで測定すると82時間後に0.02kWhとなった。
20Wh÷82h=0.2439W
1年中コンセントに差したままでも、
0.2439W×24h×365=2,136.6Wh
2kWh/年強の待機電力量にしかならない。ゲーム用のACアダプター以下である。ノートパソコンのACアダプターも待機電力を気にする必要はないことになるが、発熱が原因によるリコールもあるので、万が一を考えて、長時間ノートパソコンを使用しないのならば、コードを抜いておいた方が賢明だろう。

7、デスクトップパソコン
 OA機器の代表はパソコンである。
待機電力が多いと思われるが、各自専用のデスクトップパソコンならば、一人ひとりの意思で本体とディスプレイの待機電力を、プリンターのような外付け機器も含めて、節電タップを使用すれば簡単に無くすことができる。
パソコン本体の待機電力量を測定すると20時間で30Whであった。待機電力1.5Wである。
19型ディスプレイの待機電力量は26時間30分で20Whであった。待機電力0.75Wである。両方の待機電力を合計すると2.25Wになる。
パソコンを使っていない時間が年間7,000時間とすると、節電タップを使って切ることで
2.25W×7,000h=15.75kWhの節電となる。1台当たり約300円/年の節約である。節電するべきなのか悩ましい金額ではある。
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このようなパソコンが1,000台あるならば、年間に30万円ほどの節約となる。

8、ノートパソコン
 ノートパソコンはバッテリーがあるため節電タップは意味がない。
完全に放電した状態のノートパソコンをACアダプターに接続して、4時間30分後のフル充電になるまでの消費電力を測定するとACアダプターの電力も含めて70Wh であった。
このフル充電状態からが待機電力になる。3回測定した待機電力は、①27時間測定の平均電力2.2W、②63時間測定の平均電力1.57 W、③33時間測定の平均電力1.5 Wになった。
完全に充電されているはずなのだが、計測値が回を追って少なくなっている原因は分からない。3回目に計測した1.5Wを待機電力とするが、パソコンの機種によっては違ってくるだろう。
待機電力が1.5Wということは。
1.5W×24h×365=13,140Wh=13.14kWh
ACアダプターの電力を差し引けば、ノートパソコン本体は11kWh/年の待機電力量である。
消費電力量13.14kWh/年は、待機電力にはならないパソコン使用中の稼働電力も含むが、それでも1日1円にもならない電気料金である。
ノートパソコンは、節電よりも安全のために節電タップを使うと考えたほうがよいだろう。

ビルの省エネ指南書(73)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

稼働電力と待機電力(1

1、待機電力
 ビルの待機電力量が消費電力量の数%もあると云われているがどうなのであろうか。
消費電力量=稼働電力量+待機電力量
普通はこのようになる訳だが、稼働電力と待機電力の区別が難しい機器もある。
ビルの待機電力で主なものは、エアコン、OA機器、変圧器であろう。
エアコンやOA機器ならば、スイッチON時は稼働中、スイッチOFF時は待機中なので分かりやすいが、変圧器は各自がスイッチをON・OFFするものではないので、変圧器の無負荷損を待機電力といえるのか疑問ではある。
いろいろと迷うところはあるが、できるだけ待機電力だと考えるようにして、その待機電力を減らす対策を考えるようにしたい。

2、家庭用エアコン
 ビルであっても小さな部屋であれば家庭用エアコンと同じものを使っているだろう。
ブレーカーを切るか、プラグを抜けば待機電力をなくすこともできるが、毎日これをおこなうのは面倒であり問題でもある。
エアコンはテレビやパソコンのように節電タップを使うことはお勧め出来ないが、家庭用エアコンの待機電力は1W以下なので、無理に待機電力節約を考える必要はないだろう。
冷暖房時期はそのままでもよいので、中間期のようにエアコンを使わない時期だけ、エアコン専用のブレーカーを切るようにすればよい。
専用ブレーカーでなければコンセントのプラグを抜くしかないが、冷房と暖房時期前後の年4回抜き差しするくらいはできるだろう。
待機電力節約と思って、毎日のようにプラグを抜き差しするとコンセントが緩くなり、接触不良をおこす原因となる。
プラグ付け根部分は断線しやすく、頻繁に抜き差しすることで、この部分の心線が少しずつ断線していくと発熱が増えていき、場合によってはコードが焼けて穴が開くこともある。
この接触不良による発熱が原因でコンセントが焦げ付いて、熱で変形することもあるが、このような発熱による電力消費が増えては、僅かな待機電力を節約する以上の無駄となる。
エアコン運転中にプラグ部分を手で握って、少し温かい程度ならばよいが、熱いようなら接触不良や断線の問題があるはずなので、発熱箇所を中心に調べてみたほうが良いだろう。
発熱は電力消費であり電気抵抗にもなるので、エアコン運転中の損失になる。僅かな待機電力の節電を考えるよりも、接触不良を無くして電気の流れを良くしたほうが節電になるはずだ。
接触不良によりエアコンの効きが悪くなることもあるので、発熱に気を配ることは運転電力の節電にも効果的なのである。
エアコンのコードがエアコン用コンセントに届かなくて、延長コードを使うと接触箇所がそれだけ増えることになる。
1.25㎟×2芯の電源延長コードの定格電流が15Aで、エアコンの運転電流が15A以下であったとしてもコードが発熱するはずなので、そのような延長コードは使わないほうがよい。
冷房ピーク時に延長コードを使うと、エアコンの効きが悪くなるのが分かるはずだ。延長コードを使わずに、エアコン専用のコンセントに直接差し込むようにすれば、エアコンの効きが良くなることが実感できるだろう。どうしても延長コードが必要ならば、エアコン用の延長コードを使うようにしたい。
コードやコンセントの発熱に注意して、発熱が減るようにすれば節電になるのだから、コンセントや電源コードはエアコン運転中の節電ポイントといってもいいだろう。

3、業務用エアコン
 業務用エアコンは電源ケーブルをブレーカーに直接結線しているため、コンセントやケーブルが発熱する心配はないが、クランクケースヒーターという発熱体がある。
この写真はインターネットからの引用である。下部に巻き付けられているのがクランクケースヒーターだ。他にも検索してみて欲しい。
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冷媒が潤滑油に溶け込まないようにクランクケース内の潤滑油を温めて、何時エアコンを運転してもよいようにしているヒーターだ。
エアコン運転時はヒーターがOFFになるが、停止時は通電された状態になるので電力を消費する。手で触れば暖かいのが分かるだろう。
機種によっては電源側に直結されて、運転時も通電状態のヒーターもある。消費電力の大きさから、ビルではこれが最も無駄な待機電力といってもいいだろう。
パッケージエアコンには圧縮機が室内機側にあり、室外機は放熱器だけの機種もあるので、室内機と室外機の両方のブレーカーを切るようにしたい。
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表はエアコンメーカーの空冷チラーモジュールの仕様書だ。仕様書の一番下にクランクケースヒーター(W)という項目がある。「75×4」となっているのが分かるだろう。つまり、モジュール1台あたり300Wである。
チラー自体は運転時だけ電力を消費するが、クランクケースヒーターはチラー停止時に常時通電しているので、チラーを運転しない日であっても、24時間電力を消費している。
全く冷暖房をおこなっていないにもかかわらず、常時無駄に待機電力を消費しているのが、このクランクケースヒーターなのである。
ビルならばこのモジュールが何台も使われているのだから、ビル全体で何Wになるだろうか。
冷暖房をおこなわない時期を決めることができれば、その期間はブレーカーを切っておくだけでW数×台数×24h×日数の節電ができる。
ホテルでは難しいかもしれないが、オフィスビルや庁舎では冷暖房時期を決めている場合が多いので、ブレーカーを切ることは容易だろう。商業ビルや病院でもできないことはない。
このモジュールが20台あるビルが、チラーの不使用期間180日として、その間ブレーカーを切っておくだけでも
300W×20×24h×180=25,920kWh
年間にこれだけの待機電力を節約できる。同時に、クランクケースヒーター以外のエアコン本体の待機電力も節約できるのだから節電効果は大きい。
間違ってクランクケースが冷えた状態のままエアコンを運転しないために、運転開始前日にはブレーカーをONにするように、注意書き等の工夫をしておきたい。
小型のチラーやマルチエアコンの室外機の場合はクランクケースヒーターのW数は小さくなるが、W数は小さくても、同じ規模のビルならば、台数が多くなるので、トータルではかなりのW数になるはずだ。
管理しているビルのクランクケースヒーター電力が合計で何Wになるのかを調べてみるのもよいだろう。

ビルの省エネ指南書(72)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

吸収式冷温水機

1、運転台数
 同じ冷凍能力のガス焚き吸収式冷温水機2台で冷房をおこなっているビルがあるとする。2台運転ならば冷房能力に十分な余裕があるが、1台運転だと若干だが冷房能力が不足する。
ガス焚きとするのは、正確に使用量を把握できるので、説明する便宜上である。
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1台の吸収式冷温水機を冷凍能力以上の冷房負荷で運転すると、設定した冷水出口温度を維持できなくなり、冷水温度が徐々に上昇するとともに、冷房中の室内温度も上昇する。
2台運転すればよいのだが、『吸収式冷温水機本体+一次ポンプ+冷却水ポンプ+冷却塔ファン』、これらの電力だけでも相当に大きなものとなるので、電力デマンドを考えて、できるだけ1台運転で我慢をしているビルもあるはずだ。
2台運転すれば、設定した冷水出口温度を余裕で維持できるので、吸収式冷温水機の効率も良くなり、ガス使用量が減ることは間違いない。
吸収式冷温水機は100%負荷1台運転よりも50%負荷2台運転の方が省エネになるのだ。
これらのことが分かってはいても、ガス使用料金節減よりも電力の基本料金のほうが大きいと考えれば、2台運転できないのが実状だろう。

2、水使用量
 冷却塔での水使用量はどうなるのだろうか。
2台運転ならば水使用量も2倍になると思っている設備員もいるのではないか。
冷却塔で蒸発する水の気化熱はビルの冷房で奪った熱量とガスが燃焼した熱量の合計である。この熱量は、吸収式冷温水機が1台運転でも2台運転でも同じであり、2台運転すれば熱量が2倍になるわけではないので、吸収式冷温水機2台運転時の冷却塔1台当たりの放熱量は、吸収式冷温水機1台運転時の半分になるはずだ。
吸収式冷温水機を2台運転した結果、効率が良くなってガスの使用量が減れば、ガスの燃焼による熱量はさらに減ることになる。
冷却水温度を下げるための気化熱が少なくて済むので、冷却塔での水使用量は、吸収式冷温水機を2台運転したほうが少なくなるはずだ。

3、冷却塔
 冷却塔だけで考えても、2台運転ならば単純に冷却面積が2倍になり、放熱量当たりの冷却風量が増えることにもなるので冷却水温度が下がり、吸収式冷温水機の効率もよくなる。
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冷却塔1台当たりの水の蒸発量が半分になれば冷却塔周囲の湿度も下がる。
周囲の湿度が下がれば水の蒸発効率は上がる。その結果冷却水温度が下がれば、冷却塔ファンが停止する時間も増える。まさに好循環である。ただし1台運転でも冷房負荷が80%しかないような時にまで2台運転する必要はない。

4、二次ポンプ電力
 ガスも水も吸収式冷温水機2台運転のほうが、使用量が減るのならば、問題は電力である。『吸収式冷温水機本体+一次ポンプ+冷却水ポンプ+冷却塔ファン』の電力は確実に増える。特に冷却水ポンプの電力が大きい。ならば増えた電力以上に、減らすことができる電力はないのかを考えてみたい。
まず考えられるのは二次ポンプだ。
二次ポンプの場合は、吸収式冷温水機を2台運転して冷水出口温度を下げれば、空調機二方弁が閉まるので流量が減る。その結果、二次ポンプが回転数制御ならばインバーター運転周波数が下がり、台数制御ならば二次ポンプの運転台数が減って電力が減るはずだ。しかし二次ポンプの電力はそれほど減らないものである。
流量を減らすことを考えるよりも、空調機二方弁が丁度全開になるように、冷水温度をできるだけ高くコントロールする不快指数冷房をおこなったほうがよい。冷水出口温度を下げて搬送動力低減をおこなう二次ポンプの節電量よりも、不快指数冷房の省エネ量のほうが、エネルギー的にも金額的にも効果的なはずだ。
吸収式冷温水機2台運転で、冷水出口温度を下げる余裕ができても、実際の運転では下げるのではなく、室温を維持できるギリギリまで冷水出口温度を上げるようにするのだ。冷房能力不足による冷水出口温度上昇と、冷水出口温度が高くなるようにチューニングするのとでは、吸収式冷温水機の効率が違って来るからだ。
二次ポンプ電力の削減を考えるのならば、二次ポンプの吐出しバルブが閉まっていたら開けるように、往還ヘッダの圧力調整弁が開いていたら閉まるように、インバーターであれば最低周波数を必要最低限まで下げるように省エネチューニングをおこなうほうが効果的である。

5、空調機
 次に考えられるのは空調機だ。
空調機のSA・RAファンがインバーターによる回転数制御であればという条件付きである。
吸収式冷温水機1台運転で冷水出口温度が高くなり、冷房設定温度よりも室内温度が上がれば、空調機はSA・RAファンの回転数を上げて風量を増やし、室内温度を下げようとするが、最大周波数になっても室温は下がらなくなる。
回転数が上がれば消費電力も多くなる。吸収式冷温水機2台運転で冷水出口温度が上がり過ぎないようにできれば 、SA・RAファンの回転数を上げなくても室温が設定値になるため、SA・RAファンの消費電力は少なくなる。
インバーターでSA・RA量を制御する空調機が何十台もあるならば、『吸収式冷温水機本体+一次ポンプ+冷却水ポンプ+冷却塔ファン』で増える電力よりも、SA・RAファンで減る電力のほうが多くなるため、吸収式冷温水機2台運転の方が節電になるだろう。吸収式冷温水機を1台運転で頑張っても、ガスも水も電力も節約にならない可能性のほうが高いのだ。
冷水温度とは関係なく、単にSAダンパーが閉まってファンの回転数が上がっているのならば、ダンパーを全開にするだけでもファンの回転数が下がるので、ファン電力の節電になるだろう。
ポンプのバルブやファンのダンパーが閉まっていることが多いのでできるだけ全開にしたい。

6、空調機二方弁
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 空調機二方弁開度が1 00%以上になるような冷水温度では、室温をコントロールできない冷房になり、SA・RAファンの電力は最大となる。
空調機二方弁が100%開の時が、最も流量が増える時であり、二次ポンプの消費電力が増える時でもあるが、最も省エネになる時でもある。
二方弁の開度を90%~100%でコントロールできる冷水温度が、室温も維持できて、不快指数冷房としても省エネになり、SA・RAファンの節電にもなるベストの冷水温度となるだろう。

ビルの省エネ指南書(71)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(8

27、デマンド要注意日
 電力や地域冷暖房の冷熱・温熱使用量がピークとなる時間帯は、冷暖房がピークとなる時間帯でもある。『温度・湿度・日射・風』を観察してピークを事前に予測できるようにしたい。
夏季は外気温度が高い日がデマンドピークだと思われるが、意外と温度が最も高い日ではなく、日差しが強くて無風の日のほうが要注意だ。日差しが強いとビル自体が熱せられるが、風があればその熱を奪ってくれる。しかし無風では熱がビル内に侵入して冷房負荷となるからだ。日差しの強さは天気予報では分からないので自分自身の肌で感じて判断することが大切だ。
これにビル内の状況によっては内部的な要因もプラスされる。一時的な催し物があるビルなどが該当するだろう。発熱源になる人が通常よりも多ければ、冷房負荷が増えて当然である。
冬は逆に外気温度が低く、湿度が低く、日差しが弱く、風の強い日がデマンドピークになる。
冷房にとっては負荷となる人や照明やOA機器などの発熱は、暖房にとっては熱源である。これは暖房負荷が減る効果があるので、デマンド的には冷房のほうが余裕がなくなるだろう。
暖房ピークは特に冷え込む、年に数日の暖房立ち上がり時間。病院等の夜間も暖房をおこなっているビルでは、外灯が点灯する夕方に暖房ピークになることがある。この時間帯が電力や地域冷暖房のデマンド要注意時間帯である。

28、夏季のデマンド対策
 夏のデマンド要注意日は、冷房がピークとなる7月下旬の梅雨明けから9月上旬までだろう。ピーク時間帯はオフィスビルでは昼休み後の13:00~16:00になる場合が多い。
ホテル等では稼働客室が増え、外灯が点灯する時間帯の電力デマンドがピークになりやすい。
夏季はピーク期間もピーク時間も長いので、一時凌ぎ的な対策よりも、できるだけ多くのデマンド対策を継続的におこなう必要がある。
昼休み中に冷房を停止させているオフィスビルもあるが、エアコンの場合は起動時の電力消費が多くなるので、停止させないほうが良い。
在室者が少ないのであれば排気を停止させたほうが効果的である。空調機のEAファンや室内にある換気扇を停止するのだ。人が少なくなる昼休み中ならば、室内のCO2濃度が高くなることもないだろう。この方がエアコンを停止させるよりも無理がなく、省エネ効果も高い。
空調機やエアコンに中性能フィルターがあれば取外す。不快指数冷房もおこないたい。
給水を高置水槽でおこなっているビルであれば揚水ポンプがあるだろう。数㎾のポンプであっても、照明を消灯させての数㎾節電は大変だが、ポンプでの節電ならば簡単にできる。オフィスビルならば13:00に満水になるように手動で揚水しておけば、昼休み後の冷房ピーク時間に揚水ポンプが自動運転することもない。
デマンド計測時間30分のうち20分が経過した時点でデマンドに余裕があれば、残り10分間に手動で揚水してもよい。手間が掛かるが設備員しかできない方法でのピークシフトである。
電気ポットやコーヒーメーカーを数多く使っているならば、電力デマンドピークに合わせて全ての電源を切るだけでも、かなりの節電が出来る。最も簡単で効果的なデマンド対策かもしれないが、全員の協力が必要である。
必要時は迅速に協力してもらうために、今日の『温度・湿度・日射・風』と天気予報で冷暖房ピークを予測して、デマンドに余裕がないと思われる日は、デマンド予報をビル内に出せるようにしておけば、協力も得られやすいだろう。
「本日○○時頃はデマンド要注意です!」と。

29、冬季のデマンド対策
 暖房ピークの時間帯は冷房ピークの時間帯と比較すれば短時間であり、外気温度が極端に下がる日も年に数日である。この数日でデマンドが決まってしまうことが多いはずだが、たった数日のためにデマンドが超過するようでは勿体無いので、この時間帯をいかに凌ぐかが大切だ。
始業時に一斉に暖房が入らないよう、早めに暖房をおこなうことも有効であり、配管蓄熱が可能なビルならばおこなうほうがよいだろう。
明日寒波が来て冷え込むことが分かっているのならば、部屋によっては夜間も暖房を停止させずに入れたままにすれば、早朝の暖房ピークは抑えられるだろう。無駄な温熱消費のようだが、数日であれば大した消費量ではない。寒波の来る前夜に人のいない部屋での暖房の効果を試してみるのもよい経験である。勿論OAは最小限でEAは停止させておこう。実際におこなってみると、それ程エネルギーの無駄にはならないことが分かるはずだ。デマンドを心配しながら暖房を立ち上げるよりもましである。
使用量が増えても使用料金は増えないように、ビル内の暖房負荷に合わせながら、デマンドを考えて光熱費の削減を最優先する空調運転管理をおこなうようにしたい。

30、冬季にナイトパージ?
 冬季のオフィスビルの休日明けはビル内が冷え込んで暖房の立ち上げが大変である。特に年末年始のように長い休日明けは中々暖まらずに苦労をしているだろう。このような日と寒波が重なると、デマンド的には厳しいものとなる。
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写真はエレベーター機械室の排気口から、暖かい空気を自然排気しているところである。
屋上にエレベーター機械室があり、機械室の排気口が開いていると、高層のビルほどエレベーターシャフトの煙突効果でエレベーター機械室の気圧が上がり、自然排気をするのだ。
僅かな隙間があれば、ビル内のどこからでも自然排気した量の外気が侵入することになる。
夏季ならばこの煙突効果による自然排気を上手く利用できれば、効果的なナイトパージができるが、冬季もこの状態ならば、寒いのに暖気をナイトパージする結果となり、ビル内が冷え込んで、休日明けは暖房ピークとなってしまう。
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冬季にナイトパージをしないためにも、排気口にダンパーがあるならば閉めるようにしたい。
気が付かずに冬季にナイトパージをしているビルもあるはずなので注意してほしい。
排気ファンがあるだけで、排気口にはダンパーがない機械室も多いはずだ。風圧でダンパーが開く排気ファンもあるが、ファンが運転していなくても、煙突効果により高くなった気圧でダンパーが開き、自然排気が行われることもある。
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風圧式ダンパーの有無に関係なく、写真のように排気ファンにビニールを被せるだけでも、自然排気を防ぐことができる。春になればビニールを取り外すことを忘れないようにしたい。

ビルの省エネ指南書(70)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(7

23、夜間の蓄熱効果

【6、外気温度と消費電力】の項で『冷水を循環させて冷房しているビルならば、外気温度の低い夜間のうちに冷水温度を下げて、配管へ蓄熱することも有効である』とある。
蓄熱には配管に冷水・温水を蓄熱する方法と蓄熱槽に氷や冷水・温水を蓄熱する方法がある。蓄熱槽があるならば深夜電力を使っての空冷チラー等の電動冷凍機による蓄熱だろう。
夏季は外気温度が低くて日射の無い夜間に蓄熱するほうが効率は良いので合理的である。夏季は午後に電力デマンドピークが来るため、このピーク時間帯で、蓄熱した冷熱を使えるならば、電力基本料金低減にも効果的である。
夏季の蓄熱はデマンド対策としておこなうことが重要であり午前中で蓄熱を使い切ってしまうようでは蓄熱効果も半減となる。しかし午後から蓄熱を使うまでの間にどれだけ放熱するのかも考えなければならない。せっかく蓄熱した熱が放熱で失われたのでは蓄熱する意味がない。
CO2削減という意味では、電力会社の原発が数多く稼働して、夜間の発電にCO2排出がないならば、放熱量が多くて無駄な蓄熱になったとしても、CO2削減に寄与することにはなる。
原発が充分に稼働していなければ、深夜であっても火力発電で蓄熱することになるので、CO2の排出を伴う発電では、蓄熱は無駄なCO2を排出させることになってしまう。
深夜電力で電気料金が半分であったとしても、蓄熱時に使う搬送動力や放熱での損失があるために、電気料金が半分になる訳ではなく、料金的には殆どメリットがない場合もある。
夏季の電力ピーク対策となる蓄熱ならばよいのだが、電力デマンドを抑制できないような蓄熱の使い方をしているのならば、原発の稼働が少ない時期での蓄熱はやめて、CO2削減に協力したほうが良いのではないだろうか。

24、冷却塔
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 空冷チラーの場合は、雨が降って冷却塔に雨がかかるようならば、雨水の蒸発による気化熱で放熱器の温度が下がり、空冷チラー周囲も雨水の蒸発により温度が下がるので、湿度が高くても冷却効率が良くなる。
空冷は湿度の上昇に関係なく、雨が蒸発する気化熱で温度が下がることが冷却には効果的で、ここが水冷と空冷の大きな違いとなる。
雨天の場合は蓄熱槽への蓄熱にしても、配管への蓄熱にしても、蓄熱効率は良くなるだろう。
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水冷の冷却塔を使っている冷凍機で蓄熱槽に蓄熱する場合はどうなるだろうか。
水冷の冷却塔は主に水が蒸発する気化熱で冷却水温度を下げるので、冷却塔周囲の湿度が低いと蒸発効率が上がって、冷却水温度が下がりやすくなるが、湿度が高いと蒸発効率が悪くなるので、冷却水温度が下がり難くなる。
外気温度と湿度の両方が低ければベストではあるが、湿度が高くなり水の蒸発効率が低下すると冷却水温度が下がり難くなって冷凍機の効率も悪くなるので、外気温度が低くても夜間の蓄熱が効果的だとは云えなくなる。
梅雨時は外気湿度が高く、電力ピーク時期でもないので、無理に蓄熱する必要はないだろう。梅雨時は冷房負荷も少ないために蓄熱槽容量にもよるが、蓄熱した冷熱が使い切れずに余るようでは放熱ロスが多くなってしまう。蓄熱を全て使い切ることができるようになる梅雨明けから蓄熱をおこなえばよいだろう。
空調の立ち上がりを良くする配管蓄熱は、冷房の場合は余程ビル内に熱気がこもっていなければ必要ないだろう。早朝は窓を開けるか空調機の空運転で換気をすれば十分である。
空調立ち上がり前のビル内温度が高いならば、配管蓄熱は効果的だ。空調機運転開始の30分前から冷凍機を運転して、配管に蓄熱すればよい。そして配管内の冷水温度が下がったタイミングに合わせて空調機を始動させるのだ。
冷凍機と空調機を同時に運転すると、中々下がらない冷水温度が、配管蓄熱で低い冷水温度にしてから空調機を運転すれば、低い冷水温度を維持できるはずなので試してほしい。

25、暖房時の温水蓄熱

ヒートポンプチラーで夜間に温水を蓄熱している場合であるが、深夜電力で電気代が半額になる場合であったとしても、蓄熱槽への蓄熱はおこなわない方がよいだろう。日中よりも外気温度が低くなることの方が多い冬季の夜間に外気熱を汲み上げて蓄熱するのであるから、夏季とは逆に蓄熱効率が悪くなって当然だ。
深夜電力で温水を蓄熱しているビルが、蓄熱を停止させたら電気料金が安くなった例もある
冬季は蓄熱に要したエネルギーの半分以上は放熱等で捨てられているということなのだ。冬季に蓄熱を停止させた方が、電気代が安くなるようなビルで、デマンドにも関係がない蓄熱ならば無駄である。温水は外気温度が高いほうがチラーの効率は良くなるので、わざわざ外気温度の低い夜間にヒートポンプチラーを運転して蓄熱するほど効率の悪いことはない。冬季に電力デマンドがピークになるビルならば、ピークは早朝の空調立ち上がり時であろう。
配管蓄熱ならば暖房の立ち上がりを良くしながらデマンド対策としても有効であり、放熱も少ないので、深夜電力でなくても効果的だ。

26、蓄熱と放熱

蓄熱槽は屋外に設置されていることが多いので、外気温度が放熱対象になるが、配管への蓄熱は屋内配管への蓄熱のため、放熱対象がビル内温度になり、屋外設置の蓄熱槽ほどの温度差がないため、無駄な放熱も少なくなる。
夏季の屋外設置の蓄熱槽は日射の影響も大きく、日射により温度の上がった蓄熱槽の表面温度が放熱対象となるから放熱も多くなる。
蓄熱の場合は日射防止対策をおこなうことが大切である。蓄熱槽に日射を当てないようにするか、遮熱塗料や反射塗料を塗って、蓄熱槽の表面温度を上げないように工夫するのだ。
配管蓄熱が有効になるのは、冬季の早朝にデマンドピークが来る場合である。そのようなビルならば配管に蓄熱することで空調の立ち上がりが早くなり、空調運転開始時の電力デマンドや地域冷暖房では温熱デマンドを抑えられる。
暖房開始前の短時間で温水蓄熱をおこない、暖房開始と同時に蓄熱した温熱を使いながら暖房をおこなえば、無駄な放熱は最小限で済む。デマンドを抑えるための蓄熱とともに、暖房の立ち上がりを良くすることにも有効である。
蓄熱槽と比べて配管への蓄熱は蓄熱量が少ないので、あまり早く蓄熱をおこなうと暖房開始時には放熱して温熱が殆どなかったということになるので注意したい。
放熱量を減らすためにも蓄熱後直ぐに使うことが配管蓄熱には大切である。配管蓄熱は蓄熱量が少なくても効果的であり、蓄熱槽が無いビルでも実施できる。

ビルの省エネ指南書(69)

 空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(6

20、室外機の吊り下げ
小型の室外機は、ベランダであればこのように吊り下げて設置されていることが多いだろう。
このような設置方法ならば日射が当たることも殆どないため、温度的にも床や屋上に設置するよりも有利である。排気が外に抜けやすいので夏はベランダに熱気がこもることもない。
唯一の欠点は雨がかからないために放熱器が汚れることである。汚れの度合いに応じて定期的に洗浄をおこなうようにしたい。
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何の問題も無いように思える設置方法であるが、この写真と次の写真を見て何か省エネアイデアが浮かんで来ないだろうか。
よく見ていると面白いことに気が付くはずだ。全てのビルで同じことが出来る訳ではないが、室外機の省エネをおこなううえで、参考になるヒントが隠されている。
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エアコンの室外機はできるだけ夏は冷やして冬は暖めたほうが良いのだが、自然任せの外気でそれをおこなっている以上は、夏は高く冬は低い外気温度を変えることはできない。
もし、夏の外気温度を下げて、冬の外気温度を上げることができる方法があるとすればどうだろうか。外気温度を変えることなど出来るはずがないと思うだろうが、アイデアがあればできるのだ。この写真のようにすれば、室外機周囲の外気温度だけではあるが変わるはずだ。
写真の相違点が分かるだろうか。
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21、居室からの排気
 壁面排気口の排出方向が変わっているのに気が付いただろうか。室外機の左側壁面にあるのは室内排気ファンの排気口である。室内に人が居れば常時運転しており、夏は冷房、冬は暖房をおこなっているので、この排気口からの排気温度は、夏は外気温度よりも低く、冬は外気温度よりも高くなっているはずだ。
この排気方向を室外機に向けることで、室外機が吸いこむ空気温度を変えることが出来る。
夏はこのエアコンの室内機で冷やした冷房空気が排気されるので、この排気冷熱を室外機の冷却に利用する。冬はこのエアコンの室内機で温めた空気が排気されるので、この排気温熱を室外機で汲み上げて暖房に利用する。
このようにして排気の温度と風を利用すれば、排気を利用しない場合と比べて、このエアコンの冷暖房効率が良くなることは分かるだろう。
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この写真のように排気口が室外機に近ければ排気の熱を効率良く回収することができるが、既存の建物では排気位置の移設は無理だろう。
建物の設計時点で熱回収までを考えて、排気位置と室外機の設置位置を決める必要がある。

22、埃対策
 ビルの事務室等の排気は冷暖房中の綺麗な室内空気に思えるが、排気の埃が室外機の放熱フィンに付着して目詰まりする可能性がある。
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排気のファン自体にも粉塵が付着して、一目見て汚れが分かるほどになっている場合が多い。
シロッコファンは簡単に取り外せないので、この状態のままシロッコファンに堆積した粉塵を掃除しようとしても粉塵が飛散して、マスクをしていても口や鼻から吸い込んでしまう。
どのビルもシロッコファンの清掃には苦労していることだと思うが、その対策としてシロッコファンを汚さない為に、フィルターを取り付けるようにすれば室外機への埃対策にもなる。
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フィルターを取り付ければ、埃や粉塵を除去でき、粉塵がシロッコファンに付着することも、室外機に埃が付着することもなくなる。
定期的にフィルターを交換して、汚れたフィルターは屋外で洗浄をおこなえばよいので、室内が汚れることもなく衛生的である。
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フィルターにもよるが、この写真のフィルターの場合は風量が20%減少するので、それだけ外気負荷も減って省エネにもなるだろう。
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ビルの省エネ指南書(68)

 空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(5

16、風速比較
 合計20ポイントで風速を測定した結果がこの表だ。フィルターの有無による各10ポイントの風速を合計した 数値に注目してほしい。
フィルター取り付け後は若干減るだろうと予想した風速合計が逆に増えているのだ。フィルターがあれば抵抗になるので風速が減って当たり前なのだが、想定外の結果である。
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放熱器上部と下部の気流差が小さくなり、風量まで増えれば、室外機の放熱効率もよくなるだろう。これだけの結果が出れば十分であるが、フィルターをコの字形に巻き付けることができれば、もっとフィルター効果が出たはずだ。
放熱器上部から入った気流は、放熱器を通過すると直ぐにファンから排気されるが、下部からの気流はファンの方向である斜め上に向かうため、上側のフィンも冷やす効果がある。

17、アイデア
 放熱器下部からの気流を増やすだけではなく、白いフィルターで日射を反射する効果も期待できるのがこのアイデアの特徴である。
フィルターによって上部からの風量が減るのならば、ショートサーキット防止効果もあるので、温度も下がるということになる。
雨水がフィルターにかかれば、気化式の加湿器や冷風扇のように水が蒸発しやすくなり、気化熱効果も期待できる。まさに「温度・湿度・日射・風」である。
雨の日は雨水がフィルターに詰まって、空気が流れ難くなるという心配をする人がいるかもしれないが、フィルターに少し水が含むと、水は重さで下に流れ落ちるので、豪雨であっても雨水がフィルターに詰まる心配はない。
いつも空調のフィルターを洗っている設備員ならば経験的に分かっていることであっても、技術者ではないビルの管理者ならば、そのような心配をすることがあるかもしれない。
このフィルターを巻き付けて放熱効果を良くするアイデア以外に、フィルターを使わなくてもできる、もっと簡単で効果的なアイデアはないだろうか。全体の風量を減らさずに、下部からの風量を増やすアイデアを考えて欲しい。
空調の配管方式にダイレクトリターンとリバースリターンがあるが、室外機の空気の流れを配管方式に例えるならば、経路が短いほど風量が増えるので、ダイレクトリターンだと云えるだろう。ならばリバースリターンのように、放熱器全体に空気を均等に流すアイデアがあれば放熱効率も上がり省エネにもなるはずだ。
エアコンの省エネ対策は電力デマンド低減にとっても非常に効果的だ。全国のビルが真似をしたくなるようなアイデアの発見を期待したい。

18、故障の原因
 このようなフィルターを室外機に直接巻き付けるということは室外機の改造となるので、保証期間中のエアコンであれば、保証が効かなくなるかもしれないので注意が必要である。
故障すれば自己責任となるが、放熱効率が良くなればエアコンの消費電力も減り、故障も少なくなるはずだ。これで故障するようならば、対策をしなければ余計に故障するだろう。保証期間の過ぎたエアコンならば、自己責任で試してみる価値はあるだろう。
エアコンの故障原因で最も多いものは過負荷だろう。コンプレッサーが常時最大能力で運転していたのでは、短期間で故障して当然だ。
しかし過負荷状態で故障しても、設備員が何もしていなければ責任を問われることはない。過負荷だから少しでも負荷を減らそうと工夫した結果、故障が減り電力消費が減ったとしても、誰も評価してくれない。たまたま故障すると、省エネをおこなった設備員の責任になるようでは、何もしない方がよいに決まっている。しかし何もしなければ、設備員の省エネ技術がアップすることもない。
仕事量が大幅に増えたとしても、故障時の責任などは考えずに、省エネを推進している設備員もいるだろう。省エネをおこなったほうが機器の負荷が減り、その結果として故障が減ることを分かっているからだ。
仕事量を増やしたくないので省エネをおこなわない設備員もいるだろう。責任が生じるようなことをしないように、設備管理契約の範囲内だけの仕事をしていれば問題はない。
どちらが正しいのかは別として、省エネの難しさはこの辺にあるのかもしれない。
ビルにとって、オーナーにとって、利用者にとって、ビル管理会社にとって、設備管理員にとっての省エネは、エネルギー使用量削減だけが目的ではなく、設備員がやる気を出せる環境づくりから始めるべきではないだろうか。
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19、室外機内部
 このアイデアは簡単なので直ぐにできる。
室外機の内部底面に配管を通す開口部がある。この白枠で示している開口部が過大で、配管を通しても、かなり余裕があることが分かる。
放熱フィンの抵抗もなく、この開口部から入って来る風量は意外と多く、ファンとの間には何もないので、室外機の放熱には役に立たないまま、ストレートに排出されている。
このような開口部をパテで塞げば、ここから入っていた外気は放熱器を通して入って来るようになるので、それだけ室外機の放熱効果もアップすることになるだろう。ぜひ室外機に不必要な開口部がないかを調べて、そのような開口部があれば塞いでみればどうだろうか。パテで塞いだ面積は放熱器全面積と比較すれば僅かな面積であっても、面積以上の効果があるはずだ。
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省エネ的には数%の効果であっても、遮光で数%、ショートサーキット防止で数%というようにトータルで省エネ効果を考えたい。
室内の空調負荷を減らすことも大切だが、ホテルやテナントビル等、難しい面もある。その点、室外機での対策ならば容易である。
このような「温度・湿度・日射・風」を効率的に活用する省エネ対策ならば、設備員だけでもおこなうことができるだろう。
自らが考えたアイデアを実行して、結果を見ながらアイデアをチューニングして、完成度を高めていけばよい。省エネ効果が無かった場合でも、簡単に実施できるアイデアならば元に戻すことも簡単なので、まずは試してみることだ。

ビルの省エネ指南書(67)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(4

12、室外機の欠点
エアコンの室外機や空冷チラーで、上部にファンがある機種には大きな欠点がある。省エネにも関係するので、その欠点がどのようなもので、その対策となるアイデアも考えてみたい。image001
ファンが上部にあって、放熱器はその下の本体側面にある訳だが、このような構造で放熱器全面に、均等に空気が流れるのだろうか。
ファンが上部にあれば、ファンに近い放熱器上部からの風量が多くなり、下に行くほど風量が少なくなるはずだ。これでは放熱器全体が効率的に使われているとは云えないだろう。

13、風速測定
 放熱器の風速を測定してみよう。
放熱器にはガードが取り付けられており、縦に10分割されているので、このガードのマス目を測定ポイントとして利用することにした。
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写真のようにして、ガードの一番上から下までのマス目中央10ポイントの風速を測定した。
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結果は予想通りであった。一番上の風速が一番速く、下にいくほど遅くなったのだ。
風量も風速に比例して変化するので、風速が均等でなければ、放熱器の上部と下部では放熱量が変わってくる。下部になるほど風量が少なくなるので、放熱効率が悪くなるはずだ。

14、フィルターを利用
 それならば上部の風量を減らせるアイデアがあれば、下部の風量が増えると考えた。そこで写真のような空調用として使っているフィルターを放熱器上部に巻くことにした。排気量が同じであれば、フィルターの抵抗で上部からの風量が減れば、その分はフィルターを巻いていない下部からの風量が増えるはずだ。
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マス目の上から6番目までに、フィルターを巻き付けた写真だ。施工後数日しか経過していないが、24時間運転している室外機なので、汚れるのが早いようだ。空気を吸わない部分は真っ白だが、放熱器のあるフィルターの上部は特に汚れて、下にいくほど汚れが少なくなっている。
これからも上部ほど風量が多く、下部ほど風量が少なくなっていることが分かる。
フィルターは室外機本体のネジを利用して取り付けているので、作業は簡単だ。本来が風を通すものなので、台風のような強風時でも風に煽られ難く、簡単に破れることもない。
3面から放熱するタイプの室外機なので、放熱器全面を覆うように凹字形にフィルターを巻き付けた方が、フィルターがしっかりと固定されるのだが、隣の室外機との間が狭くL字形にしか巻き付けられなかった。
フィルターを巻き付けていない面があれば、風がそちら側に逃げるので、フィルター効果が弱まってしまう可能性はあるだろう。
今回の実験では一枚のフィルターをマス目の6番目まで巻き付けたが、マス目の3番目までを2重に巻き付ければ風速がどのように変化するのか等、放熱効率を追求して、いろいろと実験することもよいだろう。

15、フィルター巻き付け後の測定
 フィルターを巻き付けた状態で、巻く前と同じマス目の位置で風速を測定した。
巻く前と巻いた後の風速を比較するためだ。
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ガードのマス目最上段の風速を測定しているところだ。フィルターを巻き付ける前よりも、風速が落ちている。予想通りの結果である。
フィルターの上からガードの中央位置を確かめながら測定ポイントを決めているので、マス目の中心で測定できている。
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上から6番目のマス目の位置だ。この位置はフィルターがない時と同じ風速であった。
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上から7番目のマス目の位置だ。
ここからはフィルターがないので、6番目のマス目の位置よりも風速が増えて当然だ。
フィルターを巻き付ける前と比較しても風速が増えている。フィルターにより上部の風速が減少したが、下部では風速増加となっている。
これも予想通りの結果である。
このようにして10番目のマス目まで風速を測定した。フィルター無しで10ポイント、有りで10ポイント、合計20ポイントを測定した結果、フィルターの有無で風速がどのように変化したのかを比較表で見てみよう。フィルター巻き付け後の風速合計値が、巻き付け前と比較して、あまり減るようならば、この対策は失敗である。

ビルの省エネ指南書(66)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(3

8、室外機の簡単な省エネ対策
  放熱器の上部にこのようなボードを取り付けて庇にした。条件は全て満たしているはずだ。太陽の高い夏は日射を防ぎ、太陽の低い冬は日射を当てるという、窓の庇と同じ効果がある。
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費用は遮光シェードと大差はない。取り付け時間は遮光シェードと同程度なので設備管理員でもできるだろう。
時間帯によっては完全に遮光はできないが、10:00~14:00の時間帯の遮光には問題はない。日差しの強い時間帯の遮光が大切だ。室外機によって取り付け方法も変わってくるので、その都度工夫をしなければならない。市販の材料をどのように使うかがポイントになるが、このような取り付け方法ならば強風にも耐えられるであろう。
次は両面に放熱器がある室外機だ。
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写真の室外機は上部にあるファンと放熱器が近いためショートサーキットを起こしやすい形状である。室外機上部にボードを固定できるスペースがあるので、本体ボルトを利用して直接取り付けた。風圧に弱い取り付け方法なので、ワイヤーを斜めに張って補強している。強風時を考えて取り付ければよいだろう。これでショートサーキットも起こり難くなるはずだ。このような庇による遮光は、風を遮るわけではないので風通しもよい。材料費も最小限である。

9、屋上の室外機
 ビルの屋上は風圧が強いので注意しなければならないが、周囲が囲われているならば、下からよりも上からの風圧に注意すればよい。
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この庇は室外機から出ている長さが短いので、それだけ風圧には強い。遮光面積は減るのだが、太陽が真上にある時間帯は十分に遮光できている。庇を取り付けた室外機がこれだけ並べば、西日の時間帯になると庇の影が斜めになり、隣の室外機を遮光するので無駄がない。
写真では分かり難いが、庇に使っているボードには4㎜程度の穴が多数開いている。ボードに厚みがあるので横から見ると分からないが、強風時の風圧を若干は逃がすことができる。穴のないボードよりは良いだろう。

10、効果の高い遮光対策
  室外機が狭い間隔で並列に設置されている場合は、通路を確保して遮光する必要がある。低い位置の庇ではメンテナンス時の通行に支障があり、狭い通路に遮光シェードを斜めに取り付けるようでは通行もできなくなる。
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このように狭い間隔では、間隔の狭さを逆に利用して遮光すればよい。このような遮光シェードならば、頭を少し下げれば通行に支障はないし危険もない。遮光効果は完璧だ。両サイド以外からのショートサーキットも防止できる。
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風通しも問題は無い。僅かだが水が通過するシェードなので雨水が溜まる心配もない。日射にも強い材質なので数年は劣化しないだろう。
唯一の欠点は強風である。あまり風が強い場所では破れる心配がある。固定箇所が多ければ破れても飛ばされることもなく、人に当たって怪我をするようなものでもないので、その点は安心して使える遮光シェードである。庇による遮光と違い、西日になっても遮光効果が変わらない点はよいのだが、冬季の暖房時も日射が当たらないということでもある。
冷房と暖房のどちらを重点的に考えるかは、ビルのある地域性と用途にもよるだろう。ショートサーキットは排気温度の低い冬季のほうが起こりやすいので、遮光のデメリットだけではなく、トータルで効果を考えたい。
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11、空冷チラー
 この空冷チラーは形状に特徴がある。放熱面が下にいくほど内側に傾斜しているのだ。これだけでも庇と同様の効果が期待できる。
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ショートサーキット対策であろうか、上部の放熱ファンも若干ではあるが煙突のように立ち上がり、放熱器との距離を離している。
この形状だけでは日射を完全に防止することはできないが、これに庇があればさらに遮光能力の高い空冷チラーになるだろう。
庇を僅かに内側へ傾斜させて、雨水が放熱フィンの真上へ落下するように工夫できれば、放熱フィンの汚れを洗い流すのにも効果的だ。
画一的な形状ではなく独創的な形状のチラーであり、この形状を省エネ的利点としているところは大いに評価されるべきチラーである。

ビルの省エネ指南書(65)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(2

5、効率的な設置方法
風通しを良くしながら、ショートサーキットを防止して、壁の影響が最も少なくなるように設置するにはこのようにすればよい。
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冷媒配管を無理に捻らないように注意しながら配管全体を使って、少しずつ室外機の向きを90度変えるだけなので、これならば時間もお金もかからず、誰でも簡単にできるだろう。
壁から離れるので、壁の影響を受けることも無くなる。吹き出し側にも吸い込み側にも障害物は無いので風通しは最高だ。ファンから吹き出した暖かい空気を再び吸い込むショートサーキット状態になることも無いはずだ。
全く雨がかからない室外機の放熱器は汚れが蓄積する一方だが、これならば少しは雨がかかるので、放熱フィンの汚れも洗い流される。放熱フィンが汚れたとしても、簡単に水をかけて洗うことができるので掃除時間も節約でき、放熱フィンを傷つける心配もないだろう。
不快指数冷房といっても全く除湿をしないわけではないので、ドレンホースから排水があれば、室外機裏側の床面に流れるようにホースの位置を調整しておけばよい。ドレンの水温は低いので床面の温度も下がり、蒸発した水の気化熱で吸い込み側の空気温度を下げる効果もある。
このようにしてドレンからの排水を利用して室外機周囲の温度を下げることで、室外機の放熱効果を高くすることができる。ベランダ通行の邪魔になると思う人がいるかもしれないが、頻繁に通行することはないのだから、気にしなければよいだけだ。節電のためには小さなデメリットよりも大きなメリットを優先させるべきだろう。
このように室外機も温度・湿度・日射・風の影響を受けているのだから、防止できるものは防止して、利用できるものは効率的に利用できるように設置方法を変えるだけでも省エネになる。
簡単に動かすことができるのは、家庭用エアコン限定になるかもしれないが、室外機の効率的な設置方法のポイントを理解してほしい。

6、外気温度と消費電力
 不快指数冷房(9)の54日間の計測中で、非常に天気の良かった8月22日~23日の時間帯別の消費電力量である。23:00~7:00の間は比較的に消費電力量の少ない日であった
① 23:00~2:00は390W②  2:00~7:00は520W
③  7:00~9:45は830W
これを1時間当たりに換算すると。
①  130Wh
②  104Wh
③  302Wh
23:00にエアコンの運転を開始しているので、①は冷房立ち上がり時の負荷がかかっており、②よりも消費電力量が多くなっている。外気温度が上昇した③は、まだ朝の時間帯だが②の3倍近くまで消費電力量が増えている。
室内で発生する冷房負荷は一定のままで、カーテンは遮光カーテンを二重にしているので、室内への日射の影響は限定的である。この3倍近い消費電力量の差は、室外機の放熱効率の影響だと思ってもよいだろう。
この日は外気温度だけではなく、日射によってベランダの温度が上がり、室外機の放熱効果がかなり悪くなっていたようだ。深夜2:00~3:00の1時間の消費電力量ならば②の104Wh以下になっていたはずだ。
13:00~16:00の冷房ピークの時間帯と比較すればどうなるであろう。日射の強い日ならば、1時間の消費電力量が500Wh以上になってもおかしくはない。天気次第では、昼間は夜間の5倍以上の消費電力量になる可能性もある。
室外機への温度と日射の影響でエアコンの消費電力量がこれだけ違ってくるのだから、室外機は省エネ対策の重要ポイントである。ビルも同様である。日当たりの良い位置に設置されている室外機ならば、夜間に冷房してビル内を冷やしておくのもよいだろう。冷水を循環させて冷房しているビルならば、外気温度の低い夜間のうちに冷水温度を下げて、配管へ蓄熱することも有効である。

7、室内での省エネと室外での省エネ
 冷房温度を1℃上げれば、10%前後の省エネになると云われている。エアコンで不快指数冷房をおこなえば30%の節電になるかもしれない。さらに室内側で省エネ対策を行うには、建物の保温工事や窓ガラスからの熱の侵入を防ぐために費用をかけることが必要になるだろう。
エアコンの省エネは室内の冷房負荷を減らすだけではなく、室外機から効率よく放熱させることも大切である。室外機の省エネ対策で一般的なものに遮光がある。遮光シェードなどが市販されているので利用するのも良いだろう。
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この写真では、日射が遮光シェードを通過している。このような遮光シェードでは僅かな遮光効果しか期待できないことが分かる。空気も通すのでショートサーキット防止効果もない。
黒色の遮光シェード自体が熱を帯びた結果、遮光シェードを通過して放熱器に入る空気の温度が上がれば、遮光シェードの意味がなくなる。窓の遮光にはよいかもしれないが、室外機には不向きな遮光シェードといえるだろう。せっかく遮光シェードを取り付けるのならば、光も空気も通さないものの方が良いのだが、強風時のことも考えなければならない。台風の時や冷房時期が過ぎれば、遮光シェードを取り外せるようにしておくほうがよいのだが、これが結構面倒である。何台も室外機があれば、とても短時間でできることではない。
耐久性の問題も重要である。風に煽られて簡単に破れるようでは困る。1~2年で劣化するような材質のものも駄目だ。風を通さない方が良いが、室外機への風通しが悪くなってもいけない。image003

この南向き室外機の遮光対策を考えてほしい。条件を以下にまとめてみた。
○日射防止
○ショートサーキット防止
○放熱器への風通しを妨げない
○放熱器への吸い込み空気温度を上げない
○強風に耐える取り付け方法
○強風に耐えられる材質
○経年劣化し難い材質
○費用は最小限
○設備管理員が施工できる

ビルの省エネ指南書(64)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(1
 冷房ではこの4項目の影響を考えながら、省エネチューニングをおこなえばよい。

1、温度・湿度
 外気の温度や湿度が高ければ高いほど、ビルの冷房負荷は高くなる。
窓ガラスは熱を伝えやすいので、「ブラインドとカーテン」の項目で説明したように、ブラインドとカーテンを二重で使用できれば遮光・遮熱・保温に効果があるだろう。室内が暗くなるが照明が点灯しているのならば問題は無いはずだ。冷房がピークとなる日のピーク時間帯だけでもよいので、ビル内の全員が節電に協力できる体制を構築しておきたい。
屋上の熱が下に伝わり、最上階の冷房負荷となるビルでは、天井裏の保温をおこなうことが可能なのかを検討したい。
換気量もできるだけ少なくするのが良いが、調整ができないのであれば、換気扇を間欠運転するのもよいだろう。
外気の湿度も温度と同様だが、湿度の場合は侵入防止を考えるのではなく、不快指数冷房で除湿を少なくするだけでも、冷房負荷を減らすことができる。
エアコンの室外機周囲の温度も低いほうがよい。ショートサーキット状態になっていれば温度が高くなるので、室外機吸い込み側空気温度が外気温度よりも高いようであれば、外気温度に近くなるように工夫をしたい。

2、日射
 日射のある13:00~16:00が冷房ピークの時間帯になるだろう。温度と同様に窓ガラスがポイントだが、できれば窓ガラス自体に日射が当たらないように工夫したい。窓ガラスの外側に葦簀などを立てて日射が当たらないようにできれば非常に効果があるが、1階の窓以外は難しいかもしれない。日射は屋上や壁の温度を上げるので、対策が必要だ。高価な遮熱塗料でなく、白色の塗料を塗るだけでも反射効果はある。壁も白色が良いので、大規模改修時に検討してはどうだろうか。
日射が当たっている白色の壁と白以外の壁を手で触ってみるだけでも、色の違いによる日射効果が分かるはずだ。この熱がビルの中へと伝わっていき、冷房負荷となるのだ。
日射を体感するには自動車が最適だ。真夏のできるだけ風のない時に炎天下の駐車場に停まっている白色の車と濃い色の車の間に立ってルーフを左右の手で同時に触ってみるのだ。
濃い色の車は手を置いておられないほど熱いが、白色の車は暑いとは感じないだろう。この違いを体感できれば、日射が冷房にとっていかに大敵なのかが実感できるはずだ。

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エアコン室外機の放熱フィンに日射が当たっている状態を考えたら、効率的な放熱ができるはずがないことが分かるだろう。
日射は間接的にも室外機に影響がある。壁を背にして設置している室外機は、日射により壁の温度が上がれば、壁の温度により室外機周囲の空気も影響を受けて温度が上がる。
壁の色が濃い色ならば、壁の熱を室外機が吸い込んで放熱効果が悪くなってしまうだろう。壁や床への日射の影響により室外機周囲の温度が外気温度以上に上がるのならば、温度と日射の影響を最小限にする設置方法を考える必要があるだろう。

3、風
 風は建物の表面から熱を奪ってくれる。人間と同じように風があればビルも涼しいので、風が強いほど冷房負荷は少なくなるはずだ。
ビルの場合も車と同様に、白色が最も日射を防ぐ色と云えるのだが、車の場合は走行するという点が大きな違いである。
駐車している車は濃い色の車の車体が熱くても、走行中の車は濃い色の車も白色の車もそれ程表面温度に違いは無いのだ。これも風と同じように空気が温度を奪ってくれる効果なのだ。
ビルの場合は車のように動くことが出来ないので、風は自然任せとなるが、エアコンの室外機はどうだろうか。エアコンはファンで強制的に風を起こし放熱することが出来る。
しかし、同じファンであっても、風通しの悪い置き方をしていれば放熱効果も違って来る。風量は充分にあっても、放熱器全体に風が流れていなければ、放熱器が小さくなったことと同じで、放熱効果が悪くなる。
室外機の設置は、できるだけ建物温度の影響を受けず、ショートサーキットを起こさず、日射が当たらず、風通しの良い場所で風通しが良くなる置き方になるようにしたい。

4、ベランダの室外機
 エアコン室内機で行う不快指数冷房もそうだが、省エネは費用をかけず、手間をかけず、簡単であるのが一番である。これならば誰でもが、今直ぐにでも行うことができるからだ。

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 これはベランダに設置している室外機である。このような設置方法はよく目にするはずだ。この室外機の省エネは「温度・湿度・日射・風」の影響を考えておこなえばよい。
エアコンは、室外機の風通しが良くなるように設置すれば、効率的な放熱ができるのだが、この室外機の設置方法は非常に風通しが悪いことが分かる。室外機ファンから出た熱気が前方の壁に当たって跳ね返って来れば、室外機周囲の温度も上がるだろう。手摺りが格子状であればファンからの吹き出し空気が外に抜けるのだが、このような空気を通さない手摺りでは風通しが悪くなってしまうので熱気がこもってしまう。
壁面との距離ももう少し離したほうが良いのだが、それでは益々手摺りとの距離が近くなり、ショートサーキットを起こしやすくなる。
手摺りよりも高い架台に載せて、壁側ではなく手摺り側に設置できれば温風が外に抜けやすくてよいのだが、それでは冷媒配管の固定が問題であり、手間も費用もかかってしまう。
大きな架台では邪魔になるし、小さな架台では転倒防止のために固定しなければ危険だろう。費用をかけてまですることではない。
壁は白色なので日射の影響は最小限で済むが、もし濃い色の壁ならば、日射で壁の温度が上がり、壁の熱が室外機裏側の温度を上げ、その熱が放熱器に流れれば、室外機周囲の温度が上がるのと同じことになってしまう。
しかし白色の壁に日射が当たれば光が反射して、放熱フィンに当たる可能性もある。壁の色は建物だけではなく、エアコン室外機の放熱効果にも影響するのだ。
この写真の室外機の設置方法は簡単であり、転倒等の危険もないが、温度と日射と風の三つの項目においては効率の悪い設置方法である。
省エネのためには室外機の放熱効果が良くなる設置方法を考えなければならない。
お金を使わず、簡単に、室外機に対する温度と日射と風の三つの悪影響を無くすには、どのような設置方法がよいのだろうか。

ビルの省エネ指南書(63)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

不快指数冷房(12

53、給気温度と風量
給気温度は「微風」運転よりも「強風」運転のほうが高くなるので、「強風」運転で冷気を上手く拡散させれば、風が直接当たっても、「微風」運転ほどは冷たくは感じないはずだ。
しかし、給気風量が多くなれば、給気口正面の人に冷気が当たり、寒く感じるかもしれない。最初は気持ちの良い冷風であっても、長時間同じ風に当たっていると寒くなるからだ。
風向きが下になると、直接人に当たり易くなるので、できるだけ横向きの給気にして、冷気が拡散するようにしたい。
冷気を拡散させる製品もあるので、いろいろと試してみて、仕事に支障のない冷房環境を創りながら、不快指数冷房をおこなえばよい。

54、エアコンによる不快指数冷房
 同じ室内の冷房負荷に対して、エアコンの冷房能力が大きいほうが、余裕のある冷房が出来るので、冷却器での結露が少なくなり、結露しても「強風」運転による風で蒸発しやすくなる。
1室に室内機が2台あるとすれば、1台運転するよりも2台運転して、1台当たりの冷房負荷を軽くすることでも同様の効果がある。
ON/OFF制御のエアコンだとすれば、冷房能力が大きいほうがONの時間が短くなり、OFFの時間が長くなると思えばよい。冷却時間が短くなれば除湿時間も短くなるだけではなく、ONの時間に冷却器で結露しても、OFFの時間で蒸発して室内に湿気が戻ってくるからだ。
インバーター制御の場合は、設定温度になれば周波数を下げて冷房能力を下げるので給気温度が上がり、それだけ除湿量も少なくなる。
1台の室内機にかかる冷房負荷が多いと、コンプレッサーが休みなく動き続け、インバーター制御のコンプレッサーならば運転周波数も上がり、冷房能力の小さなエアコンでは定格周波数以上で運転しなければならなくなるだろう。
コンプレッサーが最大周波数で運転をしていたのでは、除湿が増えるのは避けられない。
これではいくら「強風」運転にしても、結露が多くなり、結露が蒸発せずに排水されてしまえば、不快指数冷房効果が少なくなってしまう。
不快指数冷房は、余裕をもって冷房できる能力のエアコンほど節電効果が高くなり、部屋の冷房に必要な能力以下の余裕のないエアコンになるほど節電効果が期待できなくなるので、全く節電にならない場合もあるかもしれない。

55、ドレン
 ビルの場合はエアコン室内機のドレン配管が露出しておらず、目視できない場合が殆どなので、排水を直接確認することはできないが、家庭ならば室内機のドレンホースを辿っていけばホース先端からの排水量を簡単に確認できる。
「微風」と「強風」に切り替えてドレンホースからの排水を比較すると、「強風」時のほうが、排水が少ないのが分かるので、除湿が少ない冷房ができているのを実感できるだろう。
このように排水が少なくなる冷房をおこなえば、室内の湿度は必ず上昇するはずだ。室内の冷房負荷を減らすことも大切だ。
窓からは熱の侵入が多いので、ブラインドは必ず使用するようにしたい。必要以上の換気も冷房負荷を増やす原因となる。
不快指数冷房は室内湿度が高くなるのだが、換気量が多い室内は通常の冷房でも湿度が高くなることがある。エアコンで除湿をおこないながら屋外から湿気が次々と侵入して室内湿度が高くなる場合だ。室内湿度だけを見て不快指数冷房と混同しないように注意したい。

56、風量と露点温度
 「微風」運転では冷却器を通過する風速が遅くなり、空気が冷やされる時間が長くなる。 給気温度の露点温度は、「強風」運転時よりも低くなるので、給気中に含む水蒸気量が少なくなり、それだけ除湿量が多くなる。給気温度が下がれば下がるほど露点温度も下がり、給気中に含む水蒸気がさらに除湿されて、室内は乾燥状態になる。
「強風」運転にすると冷却器を通過する風速が速くなり、空気が冷やされる時間が短くなる。給気温度の露点温度は、「微風」運転時よりも高くなるので、給気中に含む水蒸気量が多くなり、それだけ除湿量が少ない冷房となる。
夏でも室内が乾燥するので加湿器を運転しているのならば、湿度70%の冷房も可能になるので、無駄な加湿をする必要はなくなるだろう。
「強風」運転で給気温度が高くなっても、給気風量が増えるので室内温度に変化はないが、除湿量が少なくなるので室内湿度だけが上がる。室内に湿度計を置いて「強風」運転にすると、湿度が上がっていくのを確認できるだろう。

57、吸気温度と給気温度
冷却器が冷えないと湿度の測定ができないため、冷却器の温度が下がる、エアコン始動10分後と「強風」運転で2時間経過後に、エアコン吸い込み口の温湿度と給気温度を測定した。ondo
全ての給気湿度は測定時に湿度表示が上がっていき、100%になる寸前にデジタル式温湿度計の湿度表示が「OL」になった。100%がオーバーレベルなのだろう。給気は湿度が100%になるまで除湿をしているようである。同じ相対湿度100%であっても15.2℃100%と11.1℃100%では絶対湿度に大きな差がある。この差が通常冷房と不快指数冷房の湿度の差になるのだ。
「強風」は給気温度が高くても風量が多いので、顕熱を下げるための冷熱量は「微風」と同じだが、給気の絶対湿度を高くできれば、潜熱を下げるための冷熱量は少なくて済む。
潜熱低下分を顕熱低下のために使うことができれば、温度的にはエアコンの冷房能力にそれだけ余裕ができ、室温が下げやすくなる。

58、エアコンの冷房能力
 エアコンの冷房能力はエンタルピを下げる能力でもある。エンタルピは空気のもつエネルギーであり、温度と湿度である。
温度を下げるエネルギーと湿度を下げるエネルギーが50:50だと仮定して、不快指数冷房をおこなって湿度を全く下げないで済むとすれば、除湿分の冷房能力を、温度を下げることに使えるようになるので、温度を下げる能力が2倍に増えることと同じなのだ。
室内の冷房負荷に対して相対的ではあっても、エアコンの冷房能力に余裕がでるのならば、インバーターエアコンは周波数を下げて冷房能力を落とす運転となるので、さらに除湿量が減るだけではなく消費電力量も減るだろう。
不快指数冷房は省エネ的にもこのような好循環を生み出していくことが可能となる。冷熱使用量の低減効果以上にエアコンの消費電力量が減るのはこのためである。

59、ファンコイルによる不快指数冷房
 ファンコイルでもエアコンと同じ要領で不快指数冷房をおこなうことができるが、風量を最大にして不快指数冷房をおこなうのは、電動弁で温度による流量制御をおこなっているファンコイルに限られる。風量の切り替えのみで、室温による流量制御をおこなっていないファンコイルでは、熱交換量が増えるだけで不快指数冷房にはならず、増エネになるだけなので注意したい。そのような場合は空調機でおこなう不快指数冷房のように、冷水温度を上げて熱交換量を減らすことで除湿も減らすことができる。
冷水温度を上げることができないのならば、ファンコイル系統への循環流量を減らせばよい。冷水温度を上げられるだけ上げて、あとは流量を調整して、ファンコイルを「強風」で運転しても室内が冷え過ぎないようにするのだ。
冷水温度制御と流量制御と「強風」運転を効率よく組み合わせて、最適に調整したファンコイルでの冷房ができれば、エアコンでおこなう以上の不快指数冷房効果が期待できるだろう。

 

 

 

ビルの省エネ指南書(62)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

不快指数冷房(11

49、扇風機の風速
 扇風機は首の上下角度によっても風速が変わって来るが、水平に近い状態で使用することが多いだろう。扇風機の背面に壁等があるよりも、部屋の中央に置いたほうが風速は早くなるが、扇風機を部屋の中央に置いて使うこともあまりないだろうから、襖を背にした位置で測定した。 image001

測定箇所によっても風速が変わってくるが、この測定箇所での「強」の風速は5.6㎧であった。 image002

「弱」の風速は2.2㎧で、「強」の約40%の風速であった。

50、エアコンの風速
 冷房能力の大きなエアコンになると風量やファンの音も大きくなるだろうが、ビルではその他の音も発生している。日中ならば外から聞こえる音も大きいはずだ。エアコンの風量や音が気になることは無いだろう。 image003
エアコン吹出し口中央で測定した「強風」での風速は3.8㎧であった。6畳用エアコンの使用であるが、深夜であっても風量や音が気になることはなかった。
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「微風」の風速は2.4㎧で、「強」の63%の風速である。扇風機よりもエアコンのほうが「強」と「微風」の差が小さいことが分かる。

51、消費電力と風量
 この家庭用エアコンの送風時の消費電力は「強風」と「微風」の差が僅か4Wなので、冷房時の消費電力全体から見れば、気になるような電力ではない。「微風」から「強風」にすると風量は1.58倍になるが、消費電力は1.22倍にしかならない。
ベース電力である制御電力は風量にかかわらず一定であり、多分10W程度の電力を消費しているのだろう。 風量は風速×面積で計算する。面積はエアコンでは吹出し口の面積であるが、扇風機では送風面積とするべきだろう。
よって両方とも送風面積と表現する。扇風機は羽根の直径が30㎝なので、送風面積は中央のパネル部分の面積を差し引いても600㎠以上の送風面積があるのに対して、エアコンは60㎝×5㎝=300㎠なので、扇風機の半分の送風面積しかない。
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表の数値でエアコン「強風」と扇       風機「弱」の風速に各々の送風面積をかけて風量として比較すれば、 エアコンの「強風」は、扇風機の「弱」よりも少ない風量となるので、エアコンを「強風」にしても、風が気になることはないだろう。エアコン「強風」の風が気になるのならば、扇風機「弱」の風のほうが気になるはずだ。 家庭の室内では人との距離も扇風機の方がエアコンよりも近いはずなので、体感的な風量は扇風機のほうがさらに大きくなる。 ビルでは、広い室内にある業務用エアコンの位置関係で体感風量が大きく変わって来る。ビルの室内は天井も高く、室内機は壁掛け式よりも天井埋め込み式が多いので、床面までの距離も大きくなり、人との距離も大きくなる。 家庭の場合以上に、エアコンを「強風」運転にしても風量が気になることはないだろう。

52、業務用マルチエアコン
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業務用エアコンの室内機は、天井埋込形では写真のような4方向吹出し形以外にも、2方向吹出し形、1方向吹出し形、床置形、壁掛形など種類が多い。 ビルは天井高の低い事務室でも家庭の天井より高く、扇風機を併用している部屋もすくないので、人の側で使用する扇風機と人から離れた位置にある業務用エアコンの風量を比較する意味はない。
「強風」時の音もビル外からの音の方が大きいはずなので気にはならないだろう。「強風」運転を試してみることだ。 マルチエアコンを使っているビルでは、それほど暑くない日や、在室人数の少ない時などは、冷房負荷が少ないので、室内機の運転台数を減らしていないだろうか。
例えば1部屋に2台の室内機があり、節電になると思って室内機を1台停止させて1台で「自動」運転や「微風」運転している場合は、たとえ1台運転で充分に冷房できるとしても、2台共「強風」で運転するほうが節電になる。 室内機1台運転よりも2台運転のほうが、冷房負荷が分散されるので、室内機1台当たりの冷却量が半分になり、給気温度がそれだけ上がり、除湿量も減るからだ。
室内機の運転台数が多いと、室内機の消費電力は多くなるが、たいした電力ではないので、「不快指数冷房」でそれ以上の節電が出来るのならば、室内機運転台数は多くても良いのだ。
しかし、室内機を2台運転したとしても、片方だけ温度を低く設定すると、その1台に冷房負荷が集中して給気温度が下がり除湿量も増えるので、1台運転と同じ結果になってしまう。
室内の温度分布もあるだろうが、できるだけ室内機2台の冷房負荷が均等になるように、設定温度も同じぐらいの温度にしたほうがよい。 室内機が複数台ある室内の場合は、「強風」にするだけで「不快指数冷房」ができる訳ではないので注意が必要である。
外気が乾燥する時期になると加湿が必要になる。 人の多いビルならば5月や10月でも冷房しているが、外気が乾燥しているので、「通常冷房」では室内湿度が40%以下になることもある。このような時期には、人が出す湿気を除湿しない冷房で、室内湿度を上げる効果がある。

ビルの省エネ指南書(61)

空調のチューニングポイント

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省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

不快指数冷房(10

44、エアコンでおこなう不快指数冷房

「不快指数冷房(5)」に、除湿量を減らすポイントは「送風ファンの風量が多い」とある。
まずは室内機ファンの風量を増やしてみよう。 エアコンの室内機風量は「自動」か「微風」に設定しているビルや家庭が多いだろう。
風量の「自動」は、室温とエアコン設定温度との差が大きい時は「強風」になり、温度差が小さくなるにつれて「弱風」「微風」と風量を自動調整するので、「微風」運転の時間が長くなる。
「強風」運転よりは「自動」運転のほうが、風量が少なく、ファン電力も減るので、節電になると思って「自動」にしているのではないか。 もしここで、風量は「自動」や「微風」よりも「強風」にしたほうが節電になると云われたら、それを信じられるだろうか。 室内機の消費電力量がファン電力分は増えるのだが、実際にエアコンの室内機+室外機の合計消費電力量を計測すると、「自動」や「微風」よりも「強風」運転のほうが、消費電力量が少なくなるのは実験結果の通りである。 「強風」にするとエアコンの給気温度が上がるので露点温度も上がり、湿度の高い給気となる。もし冷房時に室内が乾燥するので加湿しているのならば、加湿の必要はなくなるだろう。 室内温度が同じで湿度が上がれば不快指数も高くなるが、気流は増えるので、PMVとして考えた方がよい場合も出て来るだろう。 風量を増やす不快指数冷房は、温度設定は同じままで、風量設定を「強風」に切換えるだけなのでお金もいらず、3秒もあれば誰でも簡単にできるので手間がかからず、リスクもない。 この節電対策はエアコンでの冷房であれば、ビルでも家庭でも実施可能なので、ぜひ試していただきたい。

45、風量設定
冷房時に冷風を「強風」運転で室内全体へ循環できれば、温度ムラのない室内となるだろう。 我が家のエアコンでは、風量を「自動」にすると、沈み込んだ冷気によって足元が冷えるので、扇風機を「微風・首振り」で併用していたが、エアコン風量を「強風」にすると、扇風機が無くても足元が冷えることがなかった。「強風」運転で床面の冷気が掻き混ぜられているのだろう。 室内機ファン「自動」+扇風機「微風」よりも、室内機ファン「強風」だけのほうが、ファン電力が少なくて済むので、扇風機を併用するよりも節電になる。エアコンと扇風機を併用したほうがよいとよく耳にするが、「強風」運転を体験してから扇風機の必要性を決めればよい。 ただし、フィルターが埃で詰まっているようでは、いくらファンが「強風」でも、実質的な風量は減少する。「微風」や「弱風」の風量にまでなると、「強風」運転による「不快指数冷房」効果が少なくなってしまうので、フィルターの清掃は早めにおこなうように心がけたい。 フィルターが目詰まりすれば、除湿にエネルギーを使うことになるが、ある程度目詰まりさせて除湿器として使う考えならば、除湿器よりもエアコンの方がはるかに除湿能力は高い。

46
、床面温度
54日間の消費電力量計測と同時に、床面から40㎝の位置に温湿度計を2台設置した。 これは毎日7:00時点での平均温度をグラフにしたものである。image001
単位:℃  ●通常冷房 ○不快指数冷房

設定温度が28℃でも、床面は沈んだ冷気で、さらに温度が低くなっていることが分かる。 「●通常冷房」は温度のバラツキが若干あるが25℃のライン上が多い。「○不快指数冷房」は温度のバラツキが少なく、26℃のライン上が殆どだ。「●通常冷房」と「○不快指数冷房」の床面温度は1℃の差になっていると云えるだろう。 エアコンは吸い込み口で温度を測定しているため、天井付近の温度が28℃でも、「●通常冷房」の「微風」では床面の冷気が循環せずに沈み込んだままになり、床面付近の温度が25℃にまで下がるのだろう。 「○不快指数冷房」の「強風」では床面の冷気も循環しているのだろうか、床面付近の温度が若干上がって26℃になっている。 「○不快指数冷房」の方が、温度ムラが少なくなっているはずなので、「●通常冷房」よりも床面から1mならば涼しく感じるはずだ。 暑いようならば目標とする不快指数になるように温度設定を下げてもよい。 室温28℃に設定した場合、「○不快指数冷房」で温度が26℃ならば、湿度70%の時は不快指数75.4である。75以上の不快指数ならば無駄のない冷房だと云えるだろう。

47、床面湿度
同じく毎日7:00に、2台の温湿度計で測定した平均の温度と相対湿度を使って、絶対湿度に換算したグラフである。室内空気の湿度は、温度によって変化する相対湿度ではなく、絶対湿度の水蒸気量で比較する。 image002
単位:g/gD.A. ●通常冷房 ○不快指数冷房

温度とは類似性のないグラフとなっている。 「●通常冷房」は比較的上下のバラツキが少ないグラフである。外気湿度に関係なく、一定のレベルまでは除湿しているようだ。 「○不快指数冷房」は上下のバラツキが多いグラフである。除湿量が少ないために、外気湿度の変化がそのまま表れているのだろう。 グラフの右辺では外気湿度が低くなっているのか、湿度の低い日が多く、「●通常冷房」と「○不快指数冷房」の湿度差が小さくなっている。 温度差は1℃でほぼ一定なので、消費電力量の差がグラフの右辺で小さくなっているのは、絶対湿度の差が影響しているからだろう。 エアコンで温度を設定しても湿度は成り行きである。これだけ湿度が違えば体感的な差も大きくなるので、室内湿度に応じて冷房温度を変え、不快指数が75になるようにできれば、体感的な差もなくなり、無駄も冷房も少なくなる。 これが「不快指数冷房」の目的の一つでもある。

48、ファンの消費電力
エアコンを「送風」運転にして、「強風」運転時の消費電力を計測すると22W、「微風」運転時は18Wだった。「強風」と「微風」の消費電力には僅か4Wの差しかなかった。 業務用エアコンではもう少し消費電力差が大きくなるかもしれないが、室外機も含めたエアコン全体での消費電力量からみれば、室内機送風ファンの電力量は僅かの差である。 風量を気にする人がいるかもしれないので、比較するために扇風機と家庭用エアコンの風量を「強風」と「微風」に分けて測定する。 扇風機の風量は「強・中・弱」で、エアコンは「強風・弱風・微風」となっているので、扇風機の「弱」はエアコンの「微風」と対比させる。 エアコンによっては風量が4段階や5段階に切り替えできる機種があるが、その時は一番弱い風量を「弱」とすればよいだろう 風量は風速×送風面積なので、風速計で「強」と「弱」の風速を測定して比較する。