ビルの省エネ指南書(40)

熱源機械室のチューニング〔其の4〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(4)

③二次ポンプ台数制御増段値

1、台数制御の考え方

台数制御は流量制御でもある。ポンプ台数、インバーターの有無、インバーターの台数によってもチューニング方法が違ってくるが、二次ポンプが1台であっても流量制御という意味では台数制御と考え方は同じである。

冷水出口温度を低くして、冷水の往還温度差を大きくすれば搬送動力が減るように思えるが、定回転ポンプ1台では減る訳もない。ましてや冷熱使用量が増えるようでは省エネになるはずもない。

搬送動力が増えたとしても、それ以上に熱使用量が減れば省エネになるので、熱源機械室全体としてのチューニングが重要になるのだ。

2、冷熱使用量

冷熱使用量=流量×往還温度差

顕熱だけで考えればこの式が成り立つが、実際は潜熱や配管からの放熱もあり、熱源設備の運転効率も考えなければならない。

この式によれば冷房に必要な熱量を供給するためには、流量を減らして往還温度差を大きくするか、流量増やして往還温度差を小さくするのかを考えればよいことになる。

冷水往温度6℃で還温度が10℃ならば温度差は4℃。往温度12℃で還温度が16℃ならば温度差は4℃。どちらも温度差は4℃なので、先ほどの式に当てはめれば流量が同じならば冷熱使用量は同じになるのだが、実際はそのようにはならずに、往温度12℃の方が冷熱使用量は少なくなるはずだ。

往還温度差を大きくするために冷水出口温度を下げると放熱や潜熱の影響が増えるためだが、それならばできるだけ高い冷水出口温度にしながら往還温度差も大きくすることを考えればよい。

冷水往温度6℃で還温度が12℃の6℃差よりも、往温度12℃で還温度が18℃の6℃差にできないかを考えてみるのだ。

何故、冷水出口温度を高くした方が省エネになるのか、その理由の一番目は、冷水温度が低ければ低いほど配管周囲との温度差が大きくなるので、それだけ放熱も多くなる。熱は温度の高い方から低い方に伝わるので、正確にいえば温水の場合が放熱であり、冷水の場合は熱の侵入というべきかもしれない。冷水温度と配管周囲の空気温度が同じならば放熱も熱の侵入もゼロとなる。

二番目の理由は、熱源設備の場合は10℃の水を6℃に冷すよりも、16℃の水を12℃に冷やすほうが、同じ4℃下げるにしても熱源設備自体の効率が良くなるので、少ないエネルギーで冷水温度を4℃下げることができるだろう。

三番目の理由は、冷水出口温度が高くなれば、空調機やファンコイルでの除湿量が減るので、より少ない冷熱使用量で冷房が可能となる。

冷水を作るエネルギーと冷熱使用量は比例するわけではなく、冷熱使用量が同じならば同じ冷房ができるわけでもない。それならば少ないエネルギー量で冷熱を作り、少ない冷熱使用量で冷房を行えばよいはずだ。つまり少ないエネルギー使用量で、今まで通りの冷房をおこなうのだ。

冷熱使用量が減るのならば、往還温度差が小さくなってもよいので、冷水温度を上げることを考えたい。16℃の冷水が19℃になって還ってくるような冷房をおこなうのだ。そうすれば冷熱を、温度を下げるために使い、湿度を下げるために使わない冷房ができる。顕熱は奪っても潜熱は奪わない冷房をおこなうのだ。つまり潜熱まで考えた調整をしなければならない。そのためには熱源と空調設備に応じた、最も効率の良い台数制御を目指した調整をおこなうことが必要となる。

3、定回転二次ポンプ×1台

二次ポンプが系統毎に1台あり、インバーターがなければ、台数制御も回転数制御もできないので、増段値を考える必要もない。流量制御のないファンコイルや三方弁で制御する空調機であれば完全な定流量となり、ポンプが直結ならば往還ヘッダは必要がない。当然にヘッダのバイパス弁もない。これではポンプの吐出バルブを開けるとそれだけ流量が増えるので流量を減らす方向での調整が難しい。しかし流量が増えるのならば、冷温水出口温度を変えることはできる。流量が増えれば増えた分だけ冷水の往還温度差が小さくてもよいので、冷水出口温度を高くすることができるはずだ。

このように、二次ポンプが1台であっても台数制御をおこなうつもりで、流量に見合った冷温水温度と往還温度差の調整はできるだろう。

4、定回転二次ポンプ×複数台

往還ヘッダに複数台の二次ポンプが接続されている冷温水搬送設備のあるビルは多いだろう。

流量を自動制御するのならば往還ヘッダ自動バイパス弁もあるはずだ。

調整のポイントは、二次ポンプが1台運転時に自動バイパス弁が完全に閉まっている時の流量だ。

吐出バルブを開く方向に調整したのならば、この流量はポンプの定格流量を超えているはずだ。

流量が増えているのに、増段値が元のままなら、自動バイパス弁が全開になっても増段値以上に流量が増え、二次ポンプが1台運転でも十分なのに、次のポンプが増段運転してしまうこともある。

事前に調査しなければならないことは、二次ポンプが1台運転時の流量とX台運転時の流量だ。

X台運転しても流量はX倍にはならず、運転台数が増えれば増えるほどロスも多くなり、5台運転時と6台運転時の流量が同じになるということもあり得るのだ。運転台数が増えるほどロスも多くなるのならば、定回転ポンプでの台数制御は1台運転を目指すことが理想だということになる。

冷房ピーク時の流量が、二次ポンプ1台運転時の流量よりも少し多い程度ならば、試しにポンプ1台運転で冷房を行ってみることだ。

二次ポンプ1台運転で流量が不足するのならば2台目のポンプが増段運転するが、その増段値は事前に調査した二次ポンプ1台運転時の流量よりも1~3㎥/h少ない流量に設定したい。

ポンプが複数台あるのならば、全てのポンプの吐出量を調べて、最も少ない吐出量のポンプを基準にして増段値を設定するのだ。

5、定回転二次ポンプでの実例

写真―1の5.5kWの定回転二次ポンプ4台で台数制御をおこなっているビルの実例を紹介する。

夏季になると日中は殆ど二次ポンプ3~4台が運転していた。吐出バルブは流量が定格吐出量となるように開度30度まで絞られており、この時の二次ポンプの吐出量は21㎥/hである。この吐出バルブを全開にしたところ、流量が55㎥/hとなり、定格吐出量の約2.6倍の流量となった。

吐出バルブを開ける以前はポンプ3台運転時の流量が57㎥/h程度で、吐出バルブを開けた後のポンプ1台運転時の流量よりも若干多かった。

1台運転時が21㎥/hなので、3台運転ならば3倍の63㎥/hにはならないことに注意したい。

ポンプは冷水に熱を与えるので、ポンプ1台運転ならば、ポンプが与える熱は1/3に減少する。

この分の冷房負荷が減少するので、ポンプ1台運転でも冷房が可能な流量が確保できると判断した。

冷水出口温度が8℃だったので、これを14℃にしたことも冷熱使用量削減になる。

 省エネ(40)①

写真―1 定回転二次ポンプ×4台

 

二次ポンプが1台運転でもよいと分かれば2台目が増段しないようにしなければならない。しかし手動で切り替えるのではなく、4台の台数制御を生かしておけば毎日運転開始時に起動するポンプが入れ替わるので、1台運転の台数制御ができる。

どのようにして1台運転の台数制御を実現したかというと、2台目の増段値をポンプ1台の実流量よりも多い57㎥/hに設定したのだ。これならば2台目が増段する流量に達することはないので常に1台運転となる。翌日は別のポンプに切り替わるので、4台のポンプを交互に使うことができる。

最初から二次ポンプ3台運転を1台運転にできるはずがないと思うのではなく、実際に冷房を行ってみて、流量が少し不足だと思うならば、冷房負荷を少しでも減らす工夫をしてみることだ。