ビルの省エネ指南書(65)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(2

5、効率的な設置方法
風通しを良くしながら、ショートサーキットを防止して、壁の影響が最も少なくなるように設置するにはこのようにすればよい。
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冷媒配管を無理に捻らないように注意しながら配管全体を使って、少しずつ室外機の向きを90度変えるだけなので、これならば時間もお金もかからず、誰でも簡単にできるだろう。
壁から離れるので、壁の影響を受けることも無くなる。吹き出し側にも吸い込み側にも障害物は無いので風通しは最高だ。ファンから吹き出した暖かい空気を再び吸い込むショートサーキット状態になることも無いはずだ。
全く雨がかからない室外機の放熱器は汚れが蓄積する一方だが、これならば少しは雨がかかるので、放熱フィンの汚れも洗い流される。放熱フィンが汚れたとしても、簡単に水をかけて洗うことができるので掃除時間も節約でき、放熱フィンを傷つける心配もないだろう。
不快指数冷房といっても全く除湿をしないわけではないので、ドレンホースから排水があれば、室外機裏側の床面に流れるようにホースの位置を調整しておけばよい。ドレンの水温は低いので床面の温度も下がり、蒸発した水の気化熱で吸い込み側の空気温度を下げる効果もある。
このようにしてドレンからの排水を利用して室外機周囲の温度を下げることで、室外機の放熱効果を高くすることができる。ベランダ通行の邪魔になると思う人がいるかもしれないが、頻繁に通行することはないのだから、気にしなければよいだけだ。節電のためには小さなデメリットよりも大きなメリットを優先させるべきだろう。
このように室外機も温度・湿度・日射・風の影響を受けているのだから、防止できるものは防止して、利用できるものは効率的に利用できるように設置方法を変えるだけでも省エネになる。
簡単に動かすことができるのは、家庭用エアコン限定になるかもしれないが、室外機の効率的な設置方法のポイントを理解してほしい。

6、外気温度と消費電力
 不快指数冷房(9)の54日間の計測中で、非常に天気の良かった8月22日~23日の時間帯別の消費電力量である。23:00~7:00の間は比較的に消費電力量の少ない日であった
① 23:00~2:00は390W②  2:00~7:00は520W
③  7:00~9:45は830W
これを1時間当たりに換算すると。
①  130Wh
②  104Wh
③  302Wh
23:00にエアコンの運転を開始しているので、①は冷房立ち上がり時の負荷がかかっており、②よりも消費電力量が多くなっている。外気温度が上昇した③は、まだ朝の時間帯だが②の3倍近くまで消費電力量が増えている。
室内で発生する冷房負荷は一定のままで、カーテンは遮光カーテンを二重にしているので、室内への日射の影響は限定的である。この3倍近い消費電力量の差は、室外機の放熱効率の影響だと思ってもよいだろう。
この日は外気温度だけではなく、日射によってベランダの温度が上がり、室外機の放熱効果がかなり悪くなっていたようだ。深夜2:00~3:00の1時間の消費電力量ならば②の104Wh以下になっていたはずだ。
13:00~16:00の冷房ピークの時間帯と比較すればどうなるであろう。日射の強い日ならば、1時間の消費電力量が500Wh以上になってもおかしくはない。天気次第では、昼間は夜間の5倍以上の消費電力量になる可能性もある。
室外機への温度と日射の影響でエアコンの消費電力量がこれだけ違ってくるのだから、室外機は省エネ対策の重要ポイントである。ビルも同様である。日当たりの良い位置に設置されている室外機ならば、夜間に冷房してビル内を冷やしておくのもよいだろう。冷水を循環させて冷房しているビルならば、外気温度の低い夜間のうちに冷水温度を下げて、配管へ蓄熱することも有効である。

7、室内での省エネと室外での省エネ
 冷房温度を1℃上げれば、10%前後の省エネになると云われている。エアコンで不快指数冷房をおこなえば30%の節電になるかもしれない。さらに室内側で省エネ対策を行うには、建物の保温工事や窓ガラスからの熱の侵入を防ぐために費用をかけることが必要になるだろう。
エアコンの省エネは室内の冷房負荷を減らすだけではなく、室外機から効率よく放熱させることも大切である。室外機の省エネ対策で一般的なものに遮光がある。遮光シェードなどが市販されているので利用するのも良いだろう。
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この写真では、日射が遮光シェードを通過している。このような遮光シェードでは僅かな遮光効果しか期待できないことが分かる。空気も通すのでショートサーキット防止効果もない。
黒色の遮光シェード自体が熱を帯びた結果、遮光シェードを通過して放熱器に入る空気の温度が上がれば、遮光シェードの意味がなくなる。窓の遮光にはよいかもしれないが、室外機には不向きな遮光シェードといえるだろう。せっかく遮光シェードを取り付けるのならば、光も空気も通さないものの方が良いのだが、強風時のことも考えなければならない。台風の時や冷房時期が過ぎれば、遮光シェードを取り外せるようにしておくほうがよいのだが、これが結構面倒である。何台も室外機があれば、とても短時間でできることではない。
耐久性の問題も重要である。風に煽られて簡単に破れるようでは困る。1~2年で劣化するような材質のものも駄目だ。風を通さない方が良いが、室外機への風通しが悪くなってもいけない。image003

この南向き室外機の遮光対策を考えてほしい。条件を以下にまとめてみた。
○日射防止
○ショートサーキット防止
○放熱器への風通しを妨げない
○放熱器への吸い込み空気温度を上げない
○強風に耐える取り付け方法
○強風に耐えられる材質
○経年劣化し難い材質
○費用は最小限
○設備管理員が施工できる