ビルの省エネ指南書(68)

 空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(5

16、風速比較
 合計20ポイントで風速を測定した結果がこの表だ。フィルターの有無による各10ポイントの風速を合計した 数値に注目してほしい。
フィルター取り付け後は若干減るだろうと予想した風速合計が逆に増えているのだ。フィルターがあれば抵抗になるので風速が減って当たり前なのだが、想定外の結果である。
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放熱器上部と下部の気流差が小さくなり、風量まで増えれば、室外機の放熱効率もよくなるだろう。これだけの結果が出れば十分であるが、フィルターをコの字形に巻き付けることができれば、もっとフィルター効果が出たはずだ。
放熱器上部から入った気流は、放熱器を通過すると直ぐにファンから排気されるが、下部からの気流はファンの方向である斜め上に向かうため、上側のフィンも冷やす効果がある。

17、アイデア
 放熱器下部からの気流を増やすだけではなく、白いフィルターで日射を反射する効果も期待できるのがこのアイデアの特徴である。
フィルターによって上部からの風量が減るのならば、ショートサーキット防止効果もあるので、温度も下がるということになる。
雨水がフィルターにかかれば、気化式の加湿器や冷風扇のように水が蒸発しやすくなり、気化熱効果も期待できる。まさに「温度・湿度・日射・風」である。
雨の日は雨水がフィルターに詰まって、空気が流れ難くなるという心配をする人がいるかもしれないが、フィルターに少し水が含むと、水は重さで下に流れ落ちるので、豪雨であっても雨水がフィルターに詰まる心配はない。
いつも空調のフィルターを洗っている設備員ならば経験的に分かっていることであっても、技術者ではないビルの管理者ならば、そのような心配をすることがあるかもしれない。
このフィルターを巻き付けて放熱効果を良くするアイデア以外に、フィルターを使わなくてもできる、もっと簡単で効果的なアイデアはないだろうか。全体の風量を減らさずに、下部からの風量を増やすアイデアを考えて欲しい。
空調の配管方式にダイレクトリターンとリバースリターンがあるが、室外機の空気の流れを配管方式に例えるならば、経路が短いほど風量が増えるので、ダイレクトリターンだと云えるだろう。ならばリバースリターンのように、放熱器全体に空気を均等に流すアイデアがあれば放熱効率も上がり省エネにもなるはずだ。
エアコンの省エネ対策は電力デマンド低減にとっても非常に効果的だ。全国のビルが真似をしたくなるようなアイデアの発見を期待したい。

18、故障の原因
 このようなフィルターを室外機に直接巻き付けるということは室外機の改造となるので、保証期間中のエアコンであれば、保証が効かなくなるかもしれないので注意が必要である。
故障すれば自己責任となるが、放熱効率が良くなればエアコンの消費電力も減り、故障も少なくなるはずだ。これで故障するようならば、対策をしなければ余計に故障するだろう。保証期間の過ぎたエアコンならば、自己責任で試してみる価値はあるだろう。
エアコンの故障原因で最も多いものは過負荷だろう。コンプレッサーが常時最大能力で運転していたのでは、短期間で故障して当然だ。
しかし過負荷状態で故障しても、設備員が何もしていなければ責任を問われることはない。過負荷だから少しでも負荷を減らそうと工夫した結果、故障が減り電力消費が減ったとしても、誰も評価してくれない。たまたま故障すると、省エネをおこなった設備員の責任になるようでは、何もしない方がよいに決まっている。しかし何もしなければ、設備員の省エネ技術がアップすることもない。
仕事量が大幅に増えたとしても、故障時の責任などは考えずに、省エネを推進している設備員もいるだろう。省エネをおこなったほうが機器の負荷が減り、その結果として故障が減ることを分かっているからだ。
仕事量を増やしたくないので省エネをおこなわない設備員もいるだろう。責任が生じるようなことをしないように、設備管理契約の範囲内だけの仕事をしていれば問題はない。
どちらが正しいのかは別として、省エネの難しさはこの辺にあるのかもしれない。
ビルにとって、オーナーにとって、利用者にとって、ビル管理会社にとって、設備管理員にとっての省エネは、エネルギー使用量削減だけが目的ではなく、設備員がやる気を出せる環境づくりから始めるべきではないだろうか。
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19、室外機内部
 このアイデアは簡単なので直ぐにできる。
室外機の内部底面に配管を通す開口部がある。この白枠で示している開口部が過大で、配管を通しても、かなり余裕があることが分かる。
放熱フィンの抵抗もなく、この開口部から入って来る風量は意外と多く、ファンとの間には何もないので、室外機の放熱には役に立たないまま、ストレートに排出されている。
このような開口部をパテで塞げば、ここから入っていた外気は放熱器を通して入って来るようになるので、それだけ室外機の放熱効果もアップすることになるだろう。ぜひ室外機に不必要な開口部がないかを調べて、そのような開口部があれば塞いでみればどうだろうか。パテで塞いだ面積は放熱器全面積と比較すれば僅かな面積であっても、面積以上の効果があるはずだ。
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省エネ的には数%の効果であっても、遮光で数%、ショートサーキット防止で数%というようにトータルで省エネ効果を考えたい。
室内の空調負荷を減らすことも大切だが、ホテルやテナントビル等、難しい面もある。その点、室外機での対策ならば容易である。
このような「温度・湿度・日射・風」を効率的に活用する省エネ対策ならば、設備員だけでもおこなうことができるだろう。
自らが考えたアイデアを実行して、結果を見ながらアイデアをチューニングして、完成度を高めていけばよい。省エネ効果が無かった場合でも、簡単に実施できるアイデアならば元に戻すことも簡単なので、まずは試してみることだ。