ビルの省エネ指南書(46)

熱源機械室のチューニング〔其の10〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

1.冷水出口温度
 冷水温度が16℃でも室温が設定温度まで下がるのならば、それよりも低い温度の冷水は必要ない。
温水温度が30℃でも室温が設定温度まで上がるのならば、それよりも高い温度の温水は必要ない。
必要以上の温度の冷温水を流せば、それだけ無駄も生じるので、冷暖房に必要なぎりぎりの温度の冷温水を流すことが省エネに繋がる。そのほうが熱源設備の効率も良くなり、放熱も少なくなり、ファンコイル等での無駄な冷暖房も減るからだ。
 
特に冷房の場合は冷水温度が低いほど、除湿による冷熱使用量が増えるため、できるだけ冷水温度を高くして、湿度を下げない冷房を行った方が、冷熱使用量が減って省エネになる。このことは「不快指数冷房」の項目で詳しく説明しているので読んでいただきたい。冷房の場合は最低限必要な冷水温度を見つけ出し、冷房負荷の大きな変動には、その時々に応じて冷水温度の設定を変えてもよいが、それ以外はできるだけ流量を変えて対処するようにしたい。
これには熱源の冷温水出口温度と往ヘッダの吐出温度が同じでなければならないが、両社の温度が違う場合もあるということを考えておかなければならない。15℃の冷水を流しているつもりが、実際はもっと高い冷水温度になっていたとしたら、室内温度を維持できず、クレームの元となってしまうだろう。ここが室温調整の難しいところだ。

2.熱源出口温度と往ヘッダ出口温度
 熱源の冷温水出口温度と往ヘッダの出口温度が同じ温度にならないという経験があるだろうか。
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 何故同じにならないのかを図で説明する。ポイントは一次側往還ヘッダのバイパス管だ。
冷水の場合で説明すると、前図のように熱源から出た冷水が一次往ヘッダ⇒バイパス管⇒一次還ヘッダ⇒熱源と半時計回りに回るのならば良いのだが、このようにはならず、次の図のようにバイパス管を流れる向きが、先程とは逆に左から右に向って流れることがある。空調機を通って温度が上がっている還水が、一次還ヘッダからバイパスを通って、直接一次往ヘッダに流れるのだ。
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つまり一次往ヘッダには熱源出口からの冷水とバイパス管からの還水が混ざって、熱源出口温度よりも水温が上がってしまう。
このようなことになれば、熱源設備の冷水出口温度を冷房可能なぎりぎりの水温に設定すると、熱供給量が不足することも考えられる。それではなぜこのような事になるのだろうか。

3、一次ポンプと二次ポンプの吐出量差
ポンプ1台>二次ポンプ1台となっているであろう。一次ポンプの台数が2台で、二次ポンプの台数が4台ならば、一次ポンプ1台の定格吐出量が二次ポンプ1台の定格吐出量より多くて当然だが、定格ではなくて吐出量だけでみれば、一次ポンプ1台吐出量=二次ポンプ2台吐出量になるかといえばそうともいえない。一次ポンプの定格吐出量が1.000㎥/min、二次ポンプの定格吐出量が0.500㎥/minと仮定すると、一次ポンプ1台吐出量=二次ポンプ2台吐出量が計算上は成り立つのだが、ポンプの吐出量は吐出弁の開度によっても違い、ヘッダでの圧損もある。一次ポンプも二次ポンプも台数制御であれば、運転台数も違ってくる。インバーターによる流量制御であれば周波数の変化もあり、一次側と二次側の管路抵抗でも吐出量が変わるので、一次側吐出量=二次側吐出量になることはまずなく、その時々に応じて一次ポンプ側が多くなったり二次ポンプ側が多くなったりすることになる。
一次ポンプが1台運転時に、二次ポンプが3台運転になれば、一次側吐出量<二次側吐出量になる可能性が高いが、それでは二次ポンプが2台運転時では、一次ポンプ1台吐出量≦二次ポンプ2台吐出量になるのだろうか。

4、定格吐出量
 「二次ポンプ吐出バルブ開度」の項目で説明しているように、二次ポンプは定格以上の吐出量になることがあり、2倍以上の吐出量になった例もある。余裕をもった設計による全揚程と実際の全揚程が違えば、吐出量も変わってくるからだ。
一次ポンプの定格吐出量が1.000/min、二次ポンプの定格吐出量が0.500/minであったとしても、一次ポンプ1台吐出量<二次ポンプ1台吐出量になることもあり得るのだ。このようなことになれば、二次ポンプ2台運転時の一次側往還ヘッダバイパス管には、その差分の還水が図の左から右へ向かって、一次還ヘッダから熱源を通らずに直接一次往ヘッダへ流れていくことになる。
図を例として、一次ポンプの定格吐出量が1.000/min、二次ポンプの定格吐出量が0.500/minならば、二次ポンプ2台運転で丁度よい吐出量バランスになるように思えるが現実はそうではない。
これでは定格吐出量は当てにならないと思われるかもしれないが、その通りである。定格吐出量よりも実際の吐出量で一次ポンプ側と二次ポンプ側の流量バランスを考えなければならないのだ。
仮に、二次ポンプ側が一次ポンプ側の2倍の吐出量であったとすると、熱源冷水出口温度12℃、還水温度16℃の時は半分の流量がバイパスするので、12℃と16℃が混ざって14℃になる。14℃ならばまだよいが、熱源冷水出口温度15℃で一次側往ヘッダ出口温度17℃になったとしたらどうであろうか。冷房には厳しい冷水温度だろう。
一次側往還ヘッダバイパス管に流れる冷水の方向が左から右ではこのようなこともあり得るので、吐出量が、一次ポンプ側≧二次ポンプ側となるような熱源設備運転と二次ポンプ側の流量調整が重要となる。一次側往還ヘッダバイパス管を流れる冷水が左右どの方向に流れているのかが分かり難いが、熱源出口温度と一次側往ヘッダ出口温度を見れば判別できるだろう。

5、冷水温度のコントロール
 一次側吐出量<二次側吐出量になることを逆に利用することもできる。熱源設備の冷水出口上限温度が12℃の時、もっと高い温度の冷水を流したい場合にこの方法を使えば、13℃~14℃の冷水を流すことも可能となる。熱源の冷水出口温度を何℃にすれば、二次側に何℃の冷水を流せるかを想定して冷水出口温度を決めるのだ。
このような場合でも熱源設備の運転には気を付けたい。熱源運転台数を必要以上に減らした結果、熱源の冷凍能力よりも冷房負荷のほうが多くなれば、冷凍能力不足となって冷水設定温度を維持できず冷水出口温度が上がってくる。二次ポンプ側の流量が増え、一次ポンプ側吐出量<二次ポンプ側吐出量となり、一次側往還ヘッダバイパス管を冷水が左から右へ流れることになる。その結果、さらに一次往ヘッダの冷水温度が上がってくる。
このように熱源設定温度<熱源出口温度<一次往ヘッダ温度になるようでは、実際に流れる冷水温度は冷房負荷による成り行き次第となってしまい、余裕のない冷水温度に設定することができない。
一次ポンプや冷却水ポンプの節電になるように思えるが、これでは熱源設備の効率が悪くなり、トータルでは省エネにならないはずだ。
あくまでも熱源設備の能力は冷房負荷以上になるように余裕をもった運転をしながら、冷水温度をコントロールしなければならない。熱源設備1台に100%以上の負荷をかけて冷水温度を上げるのではなく、2台を50%程度の負荷になるようにして、冷水設定温度を上げた運転をおこなうのだ。
余裕のある冷凍能力で、常に変動する冷房負荷に対して、余裕がゼロとなる熱供給をおこなう、冷水温度と流量のチューニングがポイントである。