ビルの省エネ指南書」カテゴリーアーカイブ

ビルの省エネ指南書(45)

熱源機械室のチューニング〔其の9〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

⑥   往還ヘッダ差圧
 1、差圧による流量調整

この図の搬送設備は往還ヘッダ差圧によって二次側への冷温水流量を調整している。
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インバーターによる回転数制御と台数制御を併用して、設定したヘッダ差圧にするのだ。

負荷が減少して差圧が上がれば、往還ヘッダ自動バイパス弁が開き、往ヘッダの圧力を還ヘッダへ逃がして差圧を調整することもある。

往還自動ヘッダバイパス弁が全閉時に差圧が不足していれば、インバーターの周波数が上がり、周波数が設定上限に達した時点で差圧が不足していれば、台数制御によりポンプの運転台数が増える。

差圧設定を下げれば流量が減るので、冷温水の往還温度差が大きくなり、搬送動力が少なくて済むのだが、往還ヘッダ自動バイパス弁が開きやすくなるということでもあるので注意したい。

台数制御と回転数制御と往還ヘッダ自動バイパスの連携が上手くできていないビルも見受けられるが、冷暖房負荷のピーク時には何台のポンプが何Hzで運転して、負荷が少なくなればポンプ1台が何Hzで運転すれば、往還ヘッダ自動バイパス弁が開くことがないという調整が必要だ。

2、循環方式

差圧を下げて流量を少なくすれば、搬送動力の省エネになるのだが、循環方式によっては流量が不足することがあるので、循環方式も考えて差圧を設定しなければならない。

ファンコイルは系統毎でのリバースリターンが一般的だが、空調機の場合はダイレクトリターンになっていることも多く、管理するビルがどちらの循環方式なのかを調べて欲しい。竣工図を見ても分かるが、空調機械室でも分かる。
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写真は空調機械室の冷温水配管である。一番右が上方向への往配管、右から二番目が上方向への還配管、三番目が下方向への還配管。還配管が上下方向へ2本あるのが分かる。これがリバースリターンだ。還配管が下方向へ1本しかなければダイレクトリターンとなる。

このビルの場合は熱源機械室が地階にあるので、往還配管がこのような上下方向になるが、熱源が屋上にあれば循環方向が上下逆になることは説明するまでもないだろう。

ビルによっては両方の循環方式を併用している場合もあるので気を付けたい。途中までがダイレクトリターンで、そこから先がリバースリターンという場合やその逆もあるのだ。

3、ダイレクトリターン

空調機毎に往還配管の長さが違っている。

下の図では熱源に最も近い一番下の空調機が最も短く、一番上の空調機が最も長い配管長となる。

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配管長が短ければ短いほど管路抵抗が減るので、その空調機への冷温水は流れやすくなる。

差圧が高くて流量が充分に多ければ管路抵抗はそれほど問題にならないが、搬送動力を減らすために差圧を低くすると、管路抵抗の多い空調機への冷温水流量が不足して、抵抗の少ない空調機の二方弁が閉まって、二次側流量に余裕が出るまでは冷暖房の効きが悪くなることがある。

このような場合は最も管路抵抗の多い空調機を基準として運転開始時間と差圧を考えていけばよい。

遠くにある空調機から運転を始めて、時間差をとって順番に運転するような工夫が必要となる。

または冷暖房負荷に応じて差圧を変えていくという方法もある。空調機運転開始時は高めの差圧にして、室温が設定値に近くなれば差圧設定を下げていくのだ。冷暖房負荷に応じて流量を変えるのは少々手間がかかるかもしれないが、熱源機械室は設備管理員が頻繁に足を運ぶ場所でもあるので、できないことはないだろう。

冷暖房負荷が少なくなっているのに、高い差圧のまま運転する無駄を無くすことが大切である。

手動のバルブを絞って流量差を調整することもできるが、バルブを絞れば抵抗を増やすことにもなるので、基本的には手動のバルブは全開にしたい。

4、リバースリターン

空調機毎の往還配管の長さが等しくなっている。

4台の空調機への管路抵抗が等しくなっているので、冷暖房負荷の多い空調機を基準として差圧を決めればよい。
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差圧は低いほうが配管抵抗と搬送動力が減少するが、低過ぎると冷暖房ピーク時には空調負荷の多い空調機への冷温水流量が不足するため、空調負荷に応じた最適な差圧に調整するのだ。

リバースリターンであっても、負荷に応じて差圧を変更して流量を調整することがベストではあるが、それだけ設備管理員の仕事量が増えることにもなる。冷暖房ピーク時も含めて、年間を通して運用ができる、出来るだけ低い差圧設定に固定できればベストではある。

5、系統毎のダイレクトリターン

下図ではリバースリターンが2系統描かれている。

しかしリバースリターンだからと云って安心はできない。各系統内の4台の空調機はリバースリターンではあるが、右側系統と左側系統の系統別で見れば、ダイレクトリターンとなっていることが分かるだろうか。明らかに右側系統の方が、往還配管が長くなっているので配管抵抗が違ってくる。
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このような場合は、右側系統の冷暖房負荷が多い空調機を基準として差圧を決めなければならない。

リバースリターンだからと云って、8台全ての流量が均等になる訳ではないのだ。

ビルは縦方向の配管長よりも、横方向の配管長の方が圧倒的に長い。特に建築面積の広いビルの場合は高さよりも幅と奥行はそれ以上なので、系統別の配管長はかなり違ってくる。

10階建のビルを例とすると縦方向の配管は30mそこそこであるが、横方向はもっと長いはずだ。

各系統の中央にヘッダを置いているビルもあるが、よく考えられたレイアウトと云える。

空調機とは逆にファンコイルはフロア毎の横方向のリバースリターンで、フロア別の縦方向はダイレクトリターンが多い。この方が空調機よりも系統別の配管抵抗の差は少ないと云える。

循環方式を考え、管路抵抗を考え、空調負荷を考え、搬送動力節減を考えながら、最も無駄のないヘッダ差圧に調整してほしい。

ビルの省エネ指南書(44)

熱源機械室のチューニング〔其の8〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(8)

⑤    往還ヘッダ自動バイパス弁

1、往還ヘッダ自動バイパス弁の位置

往還ヘッダ自動バイパス弁は、往還ヘッダ間上の高い位置にあることが多い。そして見難い位置にあったり、指針が確認し難い型式であったりと、開度を確認するのが大変な場合も多い。
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 この写真の場合はポンプ上部の前後に設置されている往還ヘッダの間隔が狭く、さらに上部の非常に確認し難い位置に、指針が確認し難いバイパス弁がある。二次ポンプ№1と二次ポンプ№2の吸込側縦配管の間にある、矢印で示す狭い隙間から体を中に入れて、2台のポンプ間に立って上を見なければ開度が確認できない。天井灯もないのでライトも必要だ。あまり褒められた位置にある往還ヘッダ自動バイパス弁とはいえない。

②  

 

その点、上の写真にある往還ヘッダ自動バイパス弁は非常に見やすい位置にある。

高い位置ではあるが機械室内の通路からも確認でき、指針も赤色なので一目で確認できる。

配管の下まで行けば次の写真のようにはっきりと目視で開度まで確認ができる。

このバイパス弁の位置は褒めてもよいだろう。

③

 

皆さんが管理しておられるビルでも、このように指針が確認できるだろうか。往還ヘッダ自動バイパス弁がどこにあり、開度がどのようになっているのかを確認してほしい。

全開の位置と全閉の位置に印を付けたり、指針の先端の色を黄色などの明るい色に塗り替えて一目で開度が分かるようにするのも良いだろう。

簡単に確認ができない位置だと省エネチューニングが完了するまでは大変であるが、自動バイパス弁が常時閉まるようになれば、その後はそれほど見る必要もなくなるので、チューニングが終わるまでの辛抱と思って頑張ってほしい。

2、開度のチューニング

往還ヘッダ自動バイパス弁が開くのは、空調負荷が減って空調機の二方弁が閉まり、往ヘッダの圧力が高くなる時である。圧力を逃がすためにバイパス弁が開くのだが、インバーターがあるのならば最低周波数を低く設定して台数制御と回転数制御によりヘッダ圧力を下げたほうが省エネになる。

何度も説明するが、バイパス弁が開くと冷水が二次ポンプ⇒往ヘッダ⇒バイパス弁⇒還ヘッダ⇒二次ポンプというように二次ポンプ廻りを無意味に循環するだけとなり、その都度、二次ポンプとの摩擦により冷水が温められてしまうということを常に頭に入れておきたい。電力を使って冷水に熱を与えるほど無駄なことはないため、チューニングをおこないながら、往還ヘッダ自動バイパス弁ができるだけ開かないようにしてほしい。

冷暖房ピーク時は簡単かもしれないが、中間期やビルの営業時間外で空調負荷が少ない時のチューニングが難しい。空調負荷が少なくなれば流量も少なくなり、ポンプ1台運転時に運転周波数を下げてもヘッダの圧力が上がってしまう。

しかし、このような空調負荷が少ない時こそがチューニングのチャンスでもあり、このような時でないとチューニングはできない。

空調負荷の多い時に、往還ヘッダ自動バイパス弁が全閉になるようにチューニングするのは簡単であるが、空調負荷が少なくなった時に全開になるようでは、上手くチューニングできているとは云えないので、空調負荷が少ない時でも、できるだけ開度が小さくなるようにチューニングするのだ。

どこまで開度を小さくできるかは、チューニングをおこなう設備管理員の努力次第である。

3、定回転ポンプでのチューニング

最大流量的には定回転ポンプは回転数制御の場合よりもポンプ1台当たりの容量が小さく、その代わりに設置されている台数が多いはずだ。台数が多ければ回転数制御で流量を可変できない代わりに、台数制御で若干の流量制御ができる。

容量の小さい二次ポンプが1台しか運転していない時であっても、空調負荷が少なければ、往還ヘッダ自動バイパス弁が、ある程度開くことは仕方がないが、開いているのならば、冷温水出口温度を変えて、自動バイパス弁ができるだけ閉まるように調整することはできるはずだ。

ポンプが2台運転している場合などに、往還ヘッダ自動バイパス弁がかなり開いていれば、全閉になるようにチューニングできれば、ポンプは1台運転でも十分だろう。

台数制御を上手く駆使してほしい。

4、往還ヘッダ手動バイパス弁

手動バイパス弁の場合も考えてみよう。

空調機への流量を三方弁で制御する場合や、流量制御ではないファンコイルは定流量となるので、ヘッダ圧力を自動制御する必要がなく、往還ヘッダバイパス弁は手動となっているだろう。

次の写真は吸収式冷温水発生器の一次側往還ヘッダの間にある手動バイパス弁である。

非常に見やすく分かりやすいレイアウトであり、手が届く高さなので脚立に昇らなくても調整できる点など、設備管理員にとってはチューニングがおこない易いバイパス弁である。この往還ヘッダ手動バイパス弁の位置も褒めてよいだろう。

往ヘッダに直接、空調機系統やファンコイル系統への二次ポンプが繋がっているので、二次側の往ヘッダは無い。この場合は熱源チューニングとはまた別のバイパス弁チューニングとなる。

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5、手動でヘッダ圧を調整

写真を見ても分かるようにバイパス弁がかなり絞られている。バイパス弁を閉めれば、一次ポンプの吐出圧が往ヘッダから還ヘッダ側に逃げる量が少なくなるので、ファンコイル系統のポンプを停止させて、バイパス弁で往ヘッダの圧力を調整しながら、一次ポンプの吐出圧を利用してファンコイル系統に冷温水を流すことができる。

少ない流量でよい時はバイパス弁を開いて圧力を下げ、多めの流量が必要な時はバイパス弁を閉じて圧力を上げるのだ。

定流量のファンコイルは各室が自由に熱を使うことができるので、必要以上の冷暖房になることが多いが、このようにしてファンコイル系統へ送る冷温水の流量を、部屋の温度を見ながら手動で調整すれば、無駄な冷暖房を防止できるだろう。

冷温水が定流量のファンコイルに流れるのならば、バイパス弁がかなり閉まっていても、吸収式冷温水発生器が流量低下になることは無いが、変流量の場合は閉め過ぎないように注意が必要である。

自動であっても手動であっても、バイパス弁は重要なチューニングポイントなのである。

 

ビルの省エネ指南書(43)

熱源機械室のチューニング〔其の7〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(7)

④   インバーター最低周波数

二次ポンプがインバーター制御でなければ、この項目は飛ばして次の項目へ進めばよい。

1、インバーターの活用

インバーター制御であれば、インバーターが有効な設定になっているかを確認することから始めよう。50Hzや60Hzのような商用周波数で動いているインバーターでは有効な設定とはいえない。

商用周波数で定格電流のまま運転しているポンプのインバーターは意外と故障が多いので、低回転で運転できるように最低周波数の設定を変えたい。

インバーター制御ポンプが1台にしろ、全台にしろ、インバーターの周波数が下がらないような設定で運転していたのでは、インバーターの省エネ性を生かすことはできない。

インバーターの周波数が下がらなければ、負荷が少ない時は空調機の二方弁が閉まるとヘッダの圧力が上がり、往還ヘッダ自動バイパス弁が開く。これでは定回転ポンプと同じである。インバーターを十分に活用できているとはいえない。

インバーター制御ならば、負荷が少ない時は周波数を下げることでヘッダの圧力を一定に保ち、往還ヘッダ自動バイパス弁は閉まったままになる。

このようにヘッダの圧力をインバーターで調整できるように最低周波数を調整しなければ、インバーターを活用することにはならない。

往還ヘッダ自動バイパス弁が開き、圧力を逃がして調整するような設定では駄目なのだ。

2、インバーター最低周波数

複数台ポンプによる台数制御で1台だけがインバーター制御ならば定格周波数で運転することがあるかも知れないが、空調負荷が軽い時は周波数が低くなる設定になっているだろうか。

インバーター機器によっては最高周波数や最低周波数を設定できる範囲が違うが、できるだけ低い周波数で使う方が、ポンプの消費電力が周波数の3乗に比例するのだから、省エネ効率が良くなることは当然である。

最高周波数は台数制御により、運転台数が増えれば自動で周波数が下がるだろうが、最低周波数が高いままでは、空調負荷が少なくなっても二次ポンプの吐出量が減らず、往還ヘッダ自動バイパス弁が開いて、往ヘッダの圧力を下げることとなるので、最低周波数設定を見直す必要がある。

空調負荷が最も少ない時でも往還ヘッダ自動バイパス弁が開かないぐらいまで、周波数を下げることができればよいのだが、最低周波数設定下限値が30Hzのインバーターでは設定下限値まで下げても往還ヘッダ自動バイパス弁が開くことがあるだろう。その場合は冷水の出口温度を上げるか、温水ならば出口温度を下げて二次側流量を増やすようにすれば、往還ヘッダ自動バイパス弁が開かない方向で、ある程度の調整はできるはずだ。

3、二次ポンプ吐出量

二次ポンプの吐出バルブが少しでも閉まっていた場合、吐出バルブを開くと吐出量が増えるので、吐出量を同量にするためにインバーターの周波数が自動で下がる。このように吐出バルブを開くだけでも吐出量を維持したまま、ポンプ搬送動力の省エネができるのだが、やはり最低周波数設定値までしか下がることはない。

インバーター最低周波数の設定値が高かければ、負荷が少ない時はヘッダ圧力を回転数制御だけでは調整できずに、往還ヘッダバイパス弁が開いて圧力を下げることになる。これでは冷水は二次ポンプ⇒往ヘッダ⇒往還ヘッダ自動バイパス弁⇒還ヘッダ⇒二次ポンプの順でポンプと往還ヘッダ間を廻るだけとなり、ポンプ動力を無駄な循環に使っているだけになる。この無駄を無くす調整だということを常に頭の中に置いておきたい。

このような循環は摩擦熱が増える要因となるので、省エネチューニングをすることで冷熱と搬送動力の省エネ効果は想像以上に大きなものとなる。

省エネチューニングの結果、冷熱損失が減少すれば冷水出口温度を高くすることができる。冷水出口温度を高くすることができれば冷凍機等が熱源の場合は冷凍機効率も良くなり、空調機での除湿量も減るので、冷熱使用量はさらに減るはずである。一つが良くなれば次々と良くなる。正に好循環である。この好循環に導くのが熱源機械室省エネチューニングの目的である。

同じ項目のチューニングを何度も繰り返して行い、満足のいく点を探し出していただきたい。

4、3台の二次ポンプとインバーター

 ①

この写真のポンプ設備があるビルは、冷房ピーク時の冷熱使用量が3,770MJであり、30㎾ポンプが3台運転していた。この程度の熱量ならばポンプ1台を定格周波数で運転すれば丁度よい流量であるが、冷熱負荷が少ない時は、最低周波数が45Hzと高いのでポンプ1台運転でも過大な流量になる。

省エネチューニングの結果、冷熱使用量が1,400MJまで下がったが、当然に二次側流量は減少する。

これ以上は運転台数を減らすことができないので、18Hzまで最低周波数の設定を下げて、往還ヘッダ自動バイパス弁が開かないようにしたが、これだけ低い周波数でも冷水の循環に問題はなかった。

②

5、台数制御と回転数制御

二次ポンプの台数が多ければ、予算的に1台だけがインバーター制御ということがあるが、3台程度であれば全てがインバーター制御になっていることが多いだろう。3台のポンプがインバーター制御であれば運転周波数を下げて調整することが出来るが、冷熱負荷の減少量に見合っただけ周波数が下がらなければ、結局は往還ヘッダ自動バイパス弁が開いて調整することになる。

このインバーター周波数をどこまで下げることが出来るのか。どこまで下げて使っているのか。どこまで下げれば往還ヘッダ自動バイパス弁が開かなくなるのかがチューニングのポイントだ。台数制御と回転数制御をスムーズに連携させて、最も搬送動力が少なくなる流量制御を目指してほしい。

空調負荷の少ない時期の、少ない時間帯に合わせて、インバーターの最低周波数を、往還ヘッダ自動バイパス弁開度を見ながら、数年かけるつもりで下げていけばよい。急いで下げる必要はない。

インバーターの取り扱い説明書をみれば、周波数の許容設定範囲が書かれているはずだ。例えば30Hzが最低であれば30Hzにするしかないが、30Hz以下に設定できるインバーターであれば、30Hz以下は、1Hzずつ様子を見ながら下げていきたい。モーターが共振する可能性もあるので、安全を確かめながら下げていくのだ。

このように空調負荷が最も少ない時でも、往還ヘッダ自動バイパス弁が開かなくなるように、インバーター最低周波数を少しでも低くできれば、それだけ搬送動力の省エネになり、電力と冷熱の省エネだけではなく、電力デマンド低減効果も大きなものとなるだろう。

6、モーターの冷却

モーターには冷却ファンがあり、周波数が下がれば冷却ファンの回転も下がるので、モーターの冷却に支障があると思うかもしれないが、モーターの消費電力が周波数の3乗に比例して下がるのだから、冷却効果が下がる以上に発熱が減ることになる。モーターの表面を手で触ってみればよく分かるだろう。商用周波数で運転しているポンプのモーターは熱くてとても触れたものではないが、30Hz以下になるとずっと手を置いておける温かさだ。この温度差を実感できれば、できるだけ低い周波数でポンプを運転したほうが、インバーターとモーター本体にも良いことが分かるはずだ。

モーターの冷却を心配する必要はないのだ。

ビルの省エネ指南書(42)

熱源機械室のチューニング〔其の6〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(6

③二次ポンプ台数制御増段値

11、往ヘッダでの圧損

往ヘッダでの圧損とはどのようなものなのか。

ポンプの場合は主として吐出弁を閉めて、水の出口を塞ぐと圧損が発生するが、往ヘッダの場合はヘッダ出口のバルブを閉めるだけではなく、ヘッダの形状・容量・流量等やポンプの運転状況によっても圧損が生じる原因となる。

ヘッダ内での水の流れが悪ければ圧力が高くなり、圧力が高ければ圧損も増えるだろう。

この圧損があるから、ポンプが複数台運転時のヘッダ吐出量は、ポンプ1台の吐出流量×運転台数にはならず、かなり減少した流量になってしまう。

ヘッダでの圧損を減らすにはどうすればよいのかを図で説明するが、ヘッダは千差万別である。

ヘッダが千差万別ならば、そのヘッダに合ったアイデアがビルの設備管理技術者一人ひとりに湧いて出て来るようになってほしい。

台数制御、流量制御、圧力制御等の自動制御任せにするのではなく、チューニングを行いながら、自動制御を上手くコントロールすることも設備管理技術者の仕事であり、ヘッダ内でどのように水が流れるのかを想像して、最も効率の良い台数制御をおこなうことも設備管理技術者でなければできない仕事なのだ。

12、左右対称のヘッダ

実際は系統毎の吐出側配管や往還ヘッダバイパス管もあるだろうから、このような図にはならないかもしれないが、ヘッダ内の水流を考えるには分かりやすい図である。

  ポンプが②の一台運転ならば、ヘッダに入った水がそのまま真向いのヘッダ吐出口から出ていくのでヘッダでの圧損が最も少ないと思われる。

しかしポンプ①と②、①と③のように2台運転の時はどうなるだろうか。

ポンプ①の水が、②の水とスムーズに合流して出ていくだろうなどと思う人はいないはずだ。
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写真のポンプの吐出量は0.25㎥/minである。

これは1秒間に4.167リットルになる。

これだけの水が、決して太いとは云えないヘッダに対して直角に流入するのだから、①や③から流入した水が、抵抗も無くスムーズに曲がって中央のヘッダ出口から出ていくはずはないのだ。

ポンプ①からの水は、ヘッダに入ると対面の壁にぶつかって跳ね返りながら渦となり乱流となる。そこに新たな水が次々と流入して来て、常時ぶつかり会うのだから、スムーズに流れることが出来ずに圧損が生じて当然だ。その後ヘッダ出口方向に向かう水は、1台運転でなければ、ポンプ②や③から吐出した水にぶつかってさらに圧損が生じ、ヘッダ出口側の配管径やバルブ開度次第では、またここでも圧損が生じる。

ポンプ①と③の2台運転ならば①②や②③の2台運転よりも圧損が増えることは想像できるだろう。左右から流れて来た水がヘッダ中央で正面衝突するからだ。この場合ポンプ①がインバーターでポンプ③が定回転の場合を想像すれば、ポンプ③の吐出圧が①のヘッダ入口まで影響して、ポンプ①からの水はヘッダに入る時点でも圧損を生じてしまう。水流的にはヘッダの入口と出口は最短距離が最も効率が良いので、図のようなヘッダの場合は、ポンプ2台運転時は①③同時運転を避けるのが良いが、台数制御との兼ね合いもあるだろうから、ポンプ①or③どちらかのスイッチを「切」にして、定期的に切り替えて使うなどの工夫が必要となる。3台運転が必要ないのならば、①②か②③のどちらか2台での台数制御をおこなうのだ。

13、出口側が端に寄ったヘッダ

ポンプからの吐出配管が立ち上がって直ぐにヘッダに繋がっている。ポンプとヘッダの位置が近ければ、この図のようになるだろう。比較的小規模のビルに多いヘッダである。
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図のように出口側配管がどちらか端に寄ったヘッダは一般的には多いのではないだろうか。

この場合はヘッダへの入口と出口が最短距離にあるポンプ④が、最も圧損が少なくなるのは分かるだろう。2台運転の場合は、もう1台はどのポンプを運転するのが良いのかを考えてみよう。

前項では①②や②③のように隣接したポンプ運転が良いと説明したが、このようなヘッダの場合はできるだけ遠いポンプ①を運転するほうが良い。

隣にあるポンプ③は出口には近いのだが、それよりも遠くにあるポンプ①の方が良いだろう。

ポンプ④を停止させた2台運転ならば、ポンプ③とポンプ①が良いだろう。出来るだけ出口に近いポンプを1台運転して、2台目は運転ポンプから離れたポンプを運転するのだ。その条件から考えればポンプ①と②の2台運転は最悪である。

それでは何故、離れたポンプ同士を運転したほうが良いのだろうか。

ポンプ②からヘッダに入った水は瞬間に周囲に広がり、①や③の流入口にも向かう。特に出口側の③への影響が大きいだろう。ポンプ①から入った水の圧力は左側へは逃げることができないので、②への影響はさらに大きなものとなる。これがポンプ①と②の2台運転が最悪になる理由である。

14、入口と出口が逆方向のヘッダ

ポンプとヘッダの位置が離れていれば、この図のようにヘッダ上面のみに配管があるはずだ。大規模ビルの場合はこのような形状が多いだろう。
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このようなヘッダの場合も出口側に近いポンプを優先的に運転させ、次に①か②のポンプを運転させればよい。

ポンプ①からヘッダに入った水は乱流であっても、④の近くまで来るときには層流となっており、乱流同士がぶつかることは無いだろう。

15、インバーター制御のポンプ

これまでの説明では出口側配管が1カ所としてきたが、実際は系統別にあることの方が多いだろう。

ポンプが全てインバーターによる流量制御をおこなっていれば、水がヘッダに入った瞬間の乱流の影響は緩和されるはずだ。

しかし周波数を低く運転しても、回転数に見合ったポンプ定格吐出量×運転台数は実流量にはならない。回転数が下がってポンプ1台当たりの圧損が減る代わりに、運転台数が増えたのでは、1台当たりの圧損は減っても、全体で見れば同じような圧損量になっているからだろう。

最も効率の良い増段のアイデアを見つけるために、実際のヘッダと配管の図を描いて、同じ流量時でのポンプ運転台数と運転周波数と圧損の関係とインバーター制御の有無を考慮しながら、どのようにポンプを運転すれば圧損が少なくなるかを、台数制御の面から検討していただきたい。

 

ビルの省エネ指南書(41)

熱源機械室のチューニング〔其の5〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(5)

③二次ポンプ台数制御増段値

6、複数台のポンプでインバーター制御が1台

ポンプ1台のみにインバーターが装備されて、その他のポンプは全て定回転の場合や、インバーターは1台で、任意のポンプがそのインバーターへ切り替えられるようになっている場合もあるだろう。どちらにしてもインバーターポンプが1台として考えればよい。

定回転ポンプとインバーター制御ポンプを組み合わせて流量を制御する考えであるが、これが中々思うようにはいかない。定回転のポンプ同士であっても、往ヘッダで吐出圧力を打消しあって、かなり流量が減ってしまう。吐出圧力の高い定回転ポンプと吐出圧力が低くなっているインバーター制御ポンプを並列に運転しても、インバーター側が、圧力的に負けてしまうので、周波数はあまり低くして使うことができないだろう。

インバーターの周波数が低くできなければ往還ヘッダ自動バイパス弁が開き、ヘッダの圧力を逃がして流量を調整することになってしまう。

増段値も定回転ポンプの場合と同じにしなければ、2台目の定回転ポンプが早めに運転したのでは搬送動力が増えてしまう。周波数を低くできないようではインバーターの意味がなくなり、定回転ポンプと同じことになってしまう。

このような場合もインバーター制御ポンプ1台運転での冷房ができないかを考えてみるべきだろう。

1台ならばインバーターの周波数を幅広く使って搬送動力を最低限で済ますことができる。

7、インバーター制御ポンプ×1台の実例

このビルには二次ポンプが4台あり、そのうち1台だけがインバーター制御のポンプである。
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 夏季の冷房ピーク時期はポンプを3台運転していたが、往還ヘッダ自動バイパス弁が開かないように冷水出口温度等をチューニングした結果、ポンプ1台運転でも冷房が可能になった。

吐出バルブを全開にしてポンプ1台での流量を増やし、冷水出口温度を上げて潜熱負荷を減らしたために、2台目のポンプを運転する必要がなくなったのだ。これで1台のインバーター制御ポンプだけで二次側流量の調整が可能となり、往ヘッダでの圧損も殆どなくなった。

流量が少ない時はインバーターの周波数が下がるので、二次ポンプの消費電力量も従来よりも大幅に少なくなり、電力デマンドも下がった。

8、全ポンプがインバーター制御

適切な設定ができていれば、インバーターの特徴と省エネ性を100%発揮できる方式である。

往還ヘッダバイパス弁で調整することなく、インバーターだけでヘッダ圧力と流量を制御できるのだが、周波数の設定と増段値の設定が難しく、周波数の設定が上手くできないと、往還ヘッダバイパス弁が開くこともある。インバーターの特徴が生かし切れていないからだが、全ポンプがインバーター制御ならば、インバーターで流量を制御して、往還ヘッダバイパス弁は開くことのないようにチューニングしたい。

往還ヘッダ自動バイパス弁を全閉にするには、インバーターの周波数を低く設定すればよいが、インバーター機器によって周波数の下限があるので、それ以下には下げることができない。

調整できる範囲でよいので、空調負荷の少ない時にでも往還ヘッダ自動バイパス弁ができるだけ開かないように、最低周波数を下げるようにしたい。

全てのポンプが回転数制御の場合は、ポンプの運転台数が増えても構わないので、二次ポンプ全体での消費電力が少なくなるように台数制御を設定するほうが、搬送動力の省エネになりポンプが冷水に対して与える熱も減るだろう。

ポンプの回転数が高ければ高いほど、冷水との摩擦熱が増加して冷水に熱を与えることになるため、ポンプの運転台数を増やしてでも回転数を下げて摩擦を減らしたほうがよいのだが、しかし増やし過ぎもよくない。ポンプ同士の吐出圧が往ヘッダで打消しあうことも忘れてはならないからだ。

実際の流量とポンプ運転台数と搬送動力を総合して最も効率の良いところを探し出すのだが、インバーター周波数と運転台数だけで考えてよければ、簡単に増段値を計算で求めることができる。

しかし難しいのは圧損後の流量だ。

ポンプの吐出圧が打消し合うのならば、運転台数毎の流量は計算では出て来ない。実際に運転をしながら増段値をいろいろと変えてみて、最も効率の良い増段値を探し出すしかないのだ。

9、流量の簡易計算方法

インバーターにより回転数制御するポンプは、消費電力が回転数の3乗に比例するので、単純計算では回転数が半分になれば、消費電力は1/8になる。ならば2台のポンプを半分の回転で使えば、消費電力は1/4で済むことになる。しかし現実はこのようにはいかない。吐出圧力を打消し合って流量が減るからだが、どれぐらい流量が減るのかは、実際にポンプを運転させてみて、流量を調べるのが確実である。しかしチューニング初期の段階で、そこまで調べるのも大変なので、目安として簡単に流量を計算する方法を紹介する。

ポンプ2台を同周波数で運転する場合は流量を10%少なく見積もるのだ。

ポンプの流量は回転数に比例するので、周波数を半分にすれば、流量も半分になる。この流量が10%少なくなるのだから、減った10%分の周波数を上げなければならない。60Hz×1台運転を2台運転にするときは30Hzの10%増しの33Hz×2台運転と考えればよい。これで60Hz×1台運転に近い流量となるだろう。

ポンプを3台運転する場合は20%増しの周波数、ポンプ4台運転する場合は30%増しの周波数というように増段値を仮に設定して、あとは運転しながら実際の流量に合わせて調整していくのだ。

このようにして周波数と運転台数による流量を考えれば、ポンプ同士が吐出圧力を打消し合った後の流量を簡易的に求めることができる。

運転周波数を下げるためにポンプの運転台数を増やし過ぎれば圧損が増えるだけとなり、周波数を低くすることがポンプの省エネに必ず繋がるとは限らないことがわかるだろう。

流量に見合った最適な周波数とポンプの運転台数を試行錯誤して探し出すことが大切なのだ。

10、インバーター二次ポンプでの実例

このビルには二次ポンプが3台あり、3台全てがインバーター制御のポンプである。
2013-10-10_1057

 当初はインバーター最低周波数が45Hzに設定されていたが、45Hzの吐出流量では負荷が少ない時には往還ヘッダ自動バイパス弁が開いてしまう。そこでインバーター最低周波数を、様子を見ながら少しずつ下げていき、18Hzまで下げると負荷が少ない時でも往還ヘッダ自動バイパス弁が開くことはなくなった。

二次ポンプ吐出バルブ開度が30度しか開いていなかったのを全開にしたのは言うまでもない。

増段値もいろいろと試した結果、32Hzに決定した。

増段値が31Hzならば3台運転になることがあり、その時点で運転周波数は下がるが、吐出圧力の圧損を考えると、32Hz×2台運転のほうが、効率が良いと判断した。3台運転ならば簡易計算で24Hz×3台運転となるが、32Hz×2台運転とどちらを選ぶかは、ビルに合わせて決めればよいことだ。

どちらにしても45Hz以上で3台運転していたことを思えば、搬送動力は激減である。

冷水出口温度は15~16℃にしている。冷水温度が高い方が流量は若干増えるので、負荷が少ない時でも往還ヘッダ自動バイパス弁が開き難くなる。

冷水出口温度を12℃までしか上げることができない熱源設備もある。12℃では、冷房負荷が少ない時には往還ヘッダ自動バイパス弁が開くかもしれないが、12℃が上限温度ならば仕方がないだろ

ビルの省エネ指南書(40)

熱源機械室のチューニング〔其の4〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(4)

③二次ポンプ台数制御増段値

1、台数制御の考え方

台数制御は流量制御でもある。ポンプ台数、インバーターの有無、インバーターの台数によってもチューニング方法が違ってくるが、二次ポンプが1台であっても流量制御という意味では台数制御と考え方は同じである。

冷水出口温度を低くして、冷水の往還温度差を大きくすれば搬送動力が減るように思えるが、定回転ポンプ1台では減る訳もない。ましてや冷熱使用量が増えるようでは省エネになるはずもない。

搬送動力が増えたとしても、それ以上に熱使用量が減れば省エネになるので、熱源機械室全体としてのチューニングが重要になるのだ。

2、冷熱使用量

冷熱使用量=流量×往還温度差

顕熱だけで考えればこの式が成り立つが、実際は潜熱や配管からの放熱もあり、熱源設備の運転効率も考えなければならない。

この式によれば冷房に必要な熱量を供給するためには、流量を減らして往還温度差を大きくするか、流量増やして往還温度差を小さくするのかを考えればよいことになる。

冷水往温度6℃で還温度が10℃ならば温度差は4℃。往温度12℃で還温度が16℃ならば温度差は4℃。どちらも温度差は4℃なので、先ほどの式に当てはめれば流量が同じならば冷熱使用量は同じになるのだが、実際はそのようにはならずに、往温度12℃の方が冷熱使用量は少なくなるはずだ。

往還温度差を大きくするために冷水出口温度を下げると放熱や潜熱の影響が増えるためだが、それならばできるだけ高い冷水出口温度にしながら往還温度差も大きくすることを考えればよい。

冷水往温度6℃で還温度が12℃の6℃差よりも、往温度12℃で還温度が18℃の6℃差にできないかを考えてみるのだ。

何故、冷水出口温度を高くした方が省エネになるのか、その理由の一番目は、冷水温度が低ければ低いほど配管周囲との温度差が大きくなるので、それだけ放熱も多くなる。熱は温度の高い方から低い方に伝わるので、正確にいえば温水の場合が放熱であり、冷水の場合は熱の侵入というべきかもしれない。冷水温度と配管周囲の空気温度が同じならば放熱も熱の侵入もゼロとなる。

二番目の理由は、熱源設備の場合は10℃の水を6℃に冷すよりも、16℃の水を12℃に冷やすほうが、同じ4℃下げるにしても熱源設備自体の効率が良くなるので、少ないエネルギーで冷水温度を4℃下げることができるだろう。

三番目の理由は、冷水出口温度が高くなれば、空調機やファンコイルでの除湿量が減るので、より少ない冷熱使用量で冷房が可能となる。

冷水を作るエネルギーと冷熱使用量は比例するわけではなく、冷熱使用量が同じならば同じ冷房ができるわけでもない。それならば少ないエネルギー量で冷熱を作り、少ない冷熱使用量で冷房を行えばよいはずだ。つまり少ないエネルギー使用量で、今まで通りの冷房をおこなうのだ。

冷熱使用量が減るのならば、往還温度差が小さくなってもよいので、冷水温度を上げることを考えたい。16℃の冷水が19℃になって還ってくるような冷房をおこなうのだ。そうすれば冷熱を、温度を下げるために使い、湿度を下げるために使わない冷房ができる。顕熱は奪っても潜熱は奪わない冷房をおこなうのだ。つまり潜熱まで考えた調整をしなければならない。そのためには熱源と空調設備に応じた、最も効率の良い台数制御を目指した調整をおこなうことが必要となる。

3、定回転二次ポンプ×1台

二次ポンプが系統毎に1台あり、インバーターがなければ、台数制御も回転数制御もできないので、増段値を考える必要もない。流量制御のないファンコイルや三方弁で制御する空調機であれば完全な定流量となり、ポンプが直結ならば往還ヘッダは必要がない。当然にヘッダのバイパス弁もない。これではポンプの吐出バルブを開けるとそれだけ流量が増えるので流量を減らす方向での調整が難しい。しかし流量が増えるのならば、冷温水出口温度を変えることはできる。流量が増えれば増えた分だけ冷水の往還温度差が小さくてもよいので、冷水出口温度を高くすることができるはずだ。

このように、二次ポンプが1台であっても台数制御をおこなうつもりで、流量に見合った冷温水温度と往還温度差の調整はできるだろう。

4、定回転二次ポンプ×複数台

往還ヘッダに複数台の二次ポンプが接続されている冷温水搬送設備のあるビルは多いだろう。

流量を自動制御するのならば往還ヘッダ自動バイパス弁もあるはずだ。

調整のポイントは、二次ポンプが1台運転時に自動バイパス弁が完全に閉まっている時の流量だ。

吐出バルブを開く方向に調整したのならば、この流量はポンプの定格流量を超えているはずだ。

流量が増えているのに、増段値が元のままなら、自動バイパス弁が全開になっても増段値以上に流量が増え、二次ポンプが1台運転でも十分なのに、次のポンプが増段運転してしまうこともある。

事前に調査しなければならないことは、二次ポンプが1台運転時の流量とX台運転時の流量だ。

X台運転しても流量はX倍にはならず、運転台数が増えれば増えるほどロスも多くなり、5台運転時と6台運転時の流量が同じになるということもあり得るのだ。運転台数が増えるほどロスも多くなるのならば、定回転ポンプでの台数制御は1台運転を目指すことが理想だということになる。

冷房ピーク時の流量が、二次ポンプ1台運転時の流量よりも少し多い程度ならば、試しにポンプ1台運転で冷房を行ってみることだ。

二次ポンプ1台運転で流量が不足するのならば2台目のポンプが増段運転するが、その増段値は事前に調査した二次ポンプ1台運転時の流量よりも1~3㎥/h少ない流量に設定したい。

ポンプが複数台あるのならば、全てのポンプの吐出量を調べて、最も少ない吐出量のポンプを基準にして増段値を設定するのだ。

5、定回転二次ポンプでの実例

写真―1の5.5kWの定回転二次ポンプ4台で台数制御をおこなっているビルの実例を紹介する。

夏季になると日中は殆ど二次ポンプ3~4台が運転していた。吐出バルブは流量が定格吐出量となるように開度30度まで絞られており、この時の二次ポンプの吐出量は21㎥/hである。この吐出バルブを全開にしたところ、流量が55㎥/hとなり、定格吐出量の約2.6倍の流量となった。

吐出バルブを開ける以前はポンプ3台運転時の流量が57㎥/h程度で、吐出バルブを開けた後のポンプ1台運転時の流量よりも若干多かった。

1台運転時が21㎥/hなので、3台運転ならば3倍の63㎥/hにはならないことに注意したい。

ポンプは冷水に熱を与えるので、ポンプ1台運転ならば、ポンプが与える熱は1/3に減少する。

この分の冷房負荷が減少するので、ポンプ1台運転でも冷房が可能な流量が確保できると判断した。

冷水出口温度が8℃だったので、これを14℃にしたことも冷熱使用量削減になる。

 省エネ(40)①

写真―1 定回転二次ポンプ×4台

 

二次ポンプが1台運転でもよいと分かれば2台目が増段しないようにしなければならない。しかし手動で切り替えるのではなく、4台の台数制御を生かしておけば毎日運転開始時に起動するポンプが入れ替わるので、1台運転の台数制御ができる。

どのようにして1台運転の台数制御を実現したかというと、2台目の増段値をポンプ1台の実流量よりも多い57㎥/hに設定したのだ。これならば2台目が増段する流量に達することはないので常に1台運転となる。翌日は別のポンプに切り替わるので、4台のポンプを交互に使うことができる。

最初から二次ポンプ3台運転を1台運転にできるはずがないと思うのではなく、実際に冷房を行ってみて、流量が少し不足だと思うならば、冷房負荷を少しでも減らす工夫をしてみることだ。

ビルの省エネ指南書(39)

熱源機械室のチューニング〔其の3〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(3)

②   二次ポンプ電流

1、モーターの定格電流

吐出バルブを全開にしても、モーターの運転電流が定格電流より低ければ問題はないが、高くなることもある。この場合はバルブを全開にすることができないので、電流計で測定しながら定格電流になるようにバルブ開度を調整すればよい。三相が平衡しているとは限らないので、三相の電流を相毎に測定して、一番電流の多い相に合わせてバルブ開度を調整するのだ。

ポンプの吐出バルブだけではなく、運転台数や往ヘッダの吐出側バルブ開度によっても運転電流が変わってくるので、ポンプは単独運転にして、一台ずつが定格出力に近くなるように運転電流を調整したほうがよいだろう。

 ①写真―1 二次ポンプモーターの銘板

30kW

HERTZ

50

60

60

VOLT

200

200

220

AMP

110

106

97

RPM

1460

1750

1760

写真―1の銘板にはこのように表示されている。銘板の周波数と電圧を見て電流を調整するのだ。

2、回転数制御

インバーターにより回転数制御を行っていれば、50Hzや60Hzの商用周波数で運転していることはないだろうから、ポンプの吐出バルブを全開にしても定格電流を超えることはないはずだ。もし商用周波数で運転しているインバーターならば、停止させて商用電源での運転に切り替えたほうが省エネになる。インバーターがあるのならば、商用周波数の80%以下で運転できるようにしたい。

写真―2は周波数30.8Hzで運転しているインバーターだ。モーターの電流は定格電流よりもかなり低めとなっているが、インバーターが故障する時のことも考えておかなければならない。つまり商用電源で運転する可能性も考えておくのだ。

インバーターを停止させた状態で、商用電源に切り替え、二次ポンプを一台運転にして、吐出バルブの開度を調整したい。

 ②写真―2二次ポンプのインバーター

 

3、定回転ポンプでの台数制御

二次ポンプが定回転の場合、流量で台数制御の増段値を設定している場合は注意が必要である。

同じ型式のポンプで吐出バルブ開度が同じあったとしても、ポンプ毎の吐出量と運転電流が同じになるとは限らない。調整の結果一台当たりの流量が変わるのならば、増段値設定も変える必要があるので、最も流量の少ないポンプを基準にして台数制御の増段値を設定するのだ。

運転電流に余裕を持たせようとして、吐出バルブを絞りぎみに調整したのでは、流量が減少した分だけ早めに増段させなければならず、ポンプの運転台数が増えた結果、搬送動力も増えてしまう。

トータルでの消費電力量で考えれば、吐出バルブを絞って定格出力以下で運転するよりも、定格出力で運転したほうが、ポンプの延べ運転台数は少なくなり、搬送動力面での省エネ効果がある。

 

ビルの省エネ指南書(38)

熱源機械室のチューニング〔其の2〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(2)

チューニングフローチャートをポイント毎に説明する。該当するポイントがなければそのポイントをとばして行えばよいため、熱源廻り図のような設備があるビルならばチューニングが可能だ。

冷房用ではあるが、暖房の場合も温度が逆と考えれば、基本的なチューニング方法は同じである。

①  二次ポンプ吐出バルブ開度

1、チューニングの組立

このチューニングは①から順番に行うのではなく、①から⑨までのポイント全体を徐々に進めていくことが大切である。

二次ポンプの吐出バルブ全開が、最初のチューニングポイントではあるが、開けるだけでは増エネになってしまうこともあるので注意しなければならない。もし②以降を考えずに①の二次ポンプ吐出バルブを全開にしたらどうなるだろうか。ポンプが定流量の場合は流量が必要以上に増えると往還ヘッダ自動バイパス弁が開き、冷水が二次ポンプと往還のヘッダ間を回るだけとなる。これではポンプの運動エネルギーがその都度冷水に熱を与えて冷水温度を上げることになってしまう。ポンプが変流量制御の場合も周波数の設定次第では同様である。冷房時期なのに電力を使って冷水温度を上げるほど無駄なことはない。吐出バルブを開けるだけではダメなことが分かるだろう。

冷房時のチューニングを考えれば、ポンプの運動エネルギーが冷水に対して、熱エネルギーとして伝わる量をできるだけ少なくしながら、冷水を効率よく循環させなければならない。

⑤の往還ヘッダ自動バイパス弁が極力開かないようにしながら二次ポンプの吐出バルブを開けるのだが、吐出バルブを開くとポンプから吐出された冷水流量が増えるので、その冷水流量全てが空調機やファンコイルに循環するようにチューニングすればよい。そのために写真―1のように空調機の二方弁が全開となるようにするのだ。

冷水流量全てを空調機やファンコイルに流すことができるようにできれば、往還ヘッダ自動バイパス弁を全閉にすることも可能となろう。ならば空調機の二方弁を全開にするにはどうすればよいのか。それには二次流量を減らすか冷水出口温度を上げればよい。このように順を追ってポイント全体を徐々に進めていくのである。

①写真―1 全開の空調機二方弁

 

2、二次ポンプ吐出バルブ

ビルは違うが、写真―2と写真―3はどちらも二次ポンプの吐出バルブである。

このバルブは二次ポンプからの吐出量を調整するためにあるのだが、この開度に注目したい。どちらも現在のバルブ開度は全開になっているが、以前の開度位置にはシールが貼ってあるので、バルブ開度が30度程度になっていたことが分かる。

吐出バルブを全開にすると二次側流量が増える。増段の設定値が適切でない台数制御の場合は、流量が台数制御増段値に達すれば、二次ポンプの運転台数が増え流量がさらに増える。

ポンプの定格流量を基準に増段値を設定していればこのように搬送動力が増える可能性がある。

それを防止するために吐出バルブを閉めて吐出量を調整しているのだろう。しかし吐出量を抑えるために二次ポンプの吐出バルブを絞ると、バルブ開度が小さくなればなるほど、出口を失った冷水に対して圧損が生じる。このようにバルブを閉めるだけでは、出口を塞がれた冷水をポンプで圧縮しながら掻き回していることになり、ポンプが電力を使って冷水に与えている摩擦熱は大きなものとなる。また、冷房負荷が多い時に出口を塞いだ状態だと、二次側流量を増やすためにはポンプの運転周波数を上げるかポンプの運転台数を増やさなければならず、さらにポンプが電力を使って冷水に熱を与えることになる。

吐出バルブを閉めるということはポンプからみれば抵抗になるので、全開にすることが最も搬送動力を少なくしながら流量を増やせるのだということが理解できるだろう。

実流量は設計段階では分からないので、吐出バルブを開けた後の実際の流量を確認したうえで、ポンプ台数制御の増段値を決めるのが大切である。

 ②写真―2 二次ポンプ吐出バルブ

 ③写真―3 二次ポンプ吐出バルブ

 

3、シールを貼る

開度のチューニングをする前には写真―2・3のようにシールを貼ることを忘れてはならない。

元に戻せるようにしておけば、チューニングが途中から思うようにいかなくなっても、いつでも最初の状態に戻して、再度チューニングをやり直すことができる。以前はどのような位置に調整されていたのか分からなくなったということのないように気を付けなければならない。

シールを貼ったとしても、シールだけならば剥がれることもあるので、バルブ開度を調整する度に写真を撮っておくこともよいだろう。写真ならば撮影日時が分かるので便利である。

シールを貼る以外にも周波数の設定変更をするならば設定変更前の周波数を、台数制御ならば増段値を記録しておくことも必要だ。

4、吐出バルブ開度

写真―2はインバーター制御の二次ポンプで、定格吐出量60 Hz,132㎥/hの実例である。

吐出バルブが角度で僅か30度程度しか開いていなかったが、吐出バルブを全開にするとインバーター周波数が30.5Hz時で吐出量が132㎥/hであった。ポンプの周波数は約半分なのに定格流量になっているのだ。

この例のように循環ポンプの場合は吐出バルブを全開にして運転すると定格吐出量以上の流量になり、吐出バルブを全開にした結果、定格の3倍以上もの吐出量になった例や4台運転していた二次ポンプが1台運転でも十分だったというビルもある。吐出バルブを閉めるよりも、全開にできるのならば全開にした方が、搬送動力が大幅に少なくなるのが分かるだろう。

5、循環ポンプ

循環ポンプは揚水ポンプと違って揚程はゼロである。もし、ビルの高さを揚程として、ポンプ選定時にこの数値で計算すると、過大なポンプを導入することになり、流量を調整するためには吐出バルブを閉めなければならなくなる。

しかし、インバーターによる回転数制御であれば、ポンプが過大な分だけ周波数を下げて循環させれば適正流量のポンプと同じ流量を維持できるので、むしろ適正流量のポンプを導入するよりも節電効果が高くなるので好都合になる。

重要なのはインバーターの場合は増段値を何Hzに設定するかである。当然に増段値よりも低い周波数で運転できなければならないので、現在の最低周波数の設定値よりも低くする必要がある。

熱源機械室のチューニングは1台のポンプを最大限効率よく利用することが重要なのだ。

 

ビルの省エネ指南書(37)

熱源機械室のチューニング〔其の1〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(1)

空調や給湯で使用する冷凍機、冷温水発生器、ボイラーなどの熱源があるビルでは、これらの設備は熱源機械室に設置されているだろう。この熱源機械室には熱源設備以外にもポンプなど数多くの設備があり、ビルの場合はエネルギー使用量が最も多い場所になっているはずだ。それだけに省エネチューニングの余地も多く残されており、短期間で成果を出すには最適な場所である。

1. 熱源廻り基本図

熱源廻り基本図を使って冷房時のチューニング方法を説明するが、チューニングが必要な設備毎に番号を付けているので、まずは番号順に設備の説明をしたい。チューニングの順序もこの番号順となる。

①   二次ポンプ吐出弁
②   二次ポンプ
③   二次ポンプ台数制御
④   インバーター
⑤   往還ヘッダバイパス弁
⑥ 往還ヘッダ
⑦ 熱源
⑧ 空調機
⑨ 空調機二方弁

④はインバーター設備が無い場合は省略可。
⑥往還ヘッダはヘッダ差圧のチューニングであり、差圧による流量チューニングのためである。
⑦の熱源はビルによっては熱源の種類も違い、ヘッダや一次ポンプもあるはずなので、これらを含んだものとする。冷房時のチューニングに必要なのは冷水出口温度である。
⑧は空調機そのものではなく室内温度である。

2、チューニングフローチャート

熱源廻り基本図とチューニングフローチャートの①~⑨の各番号は同一項目である。両方を見比べながら冷水温度と流量、そして搬送動力が最も効率が良くなるように省エネチューニングしていけばよい。
項目毎に詳しいチューニング方法を説明する。

省エネ①

省エネ②

ビルの省エネ指南書(36)

照明のチューニングポイント〔其の7〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

証明のチューニングポイント(7)

照明制御システム(3

7、スケジュール制御

照明制御システムで最も活用しているのはスケジュール制御だろう。

タイマーで点灯させた方がよい照明は、壁スイッチから削除して、スイッチで自由に点灯できないようにすればよい。早朝の清掃時間では点灯させる必要のない照明であっても、人任せにしたのでは点灯してしまうものだが、点灯させるスイッチがなければ無駄な点灯を防止できる。

蛍光管は点灯するたびに約1時間寿命が短くなるので、あまり頻繁にON・OFFしない方がよい。この点に関しては点灯回数が寿命に影響しない LEDランプのほうが優れている。

8、開館前

 2013-08-05_2201写真-9 開館前

 写真-9は総合図書館開館前の準備中の照明点灯状態である。一度ONにした壁スイッチはOFFにしないことが多いので、人がいなくても照明は点灯したままになってしまう。そこで写真-9のように清掃や本の整理時には必要のない照明は点灯できないように壁スイッチから削除している。

9、開館

写真-10は開館5分前の写真である。写真-9では消灯していた間接灯、吹き抜け天井灯、ブラケット等の照明が点灯している。これらは全てスケジュール制御で点灯しており、閉館5分後には同様にスケジュール制御で消灯させている。

このスケジュール制御の照明電力だけで60kWにもなるので、スケジュール制御でON・OFFしなかった場合と比較して、年間で50,000kWh以上の節電になっている。

 

 2013-08-05_2202

 

 

 

写真-10 開館中


10
、外灯

照明制御システムのないビルであっても、外灯はタイマーや自動点滅器で制御されているビルが多いだろう。外が明るいのに点灯している外灯ほど無駄なものはない。朝夕、明るいのにも関わらず点灯している外灯を見かけることも多いが、タイマーならば時間の設定が、自動点滅器ならば感度調整が適切にできていないからだろう。

点灯・消灯時間をタイマーで手動設定するには最低でも半月に1回は設定時間の変更が必要だ。

外灯の点灯状態を見ればそのビルの省エネレベルも分かるというものである。ビル内と違って外灯は通行人など誰が見ても分かるので注意したい。

11、自動点滅器

自動点滅器であれば時間に関係なく明るさで外灯をON・OFFするので便利である。タイマー制御がないのであれば検討したい。マンションの通路や階段の照明にはよく利用されているが、これも感度調整が必要である。適切に調整しないと明るいのに点灯していることになるので、明るさと点灯状況の様子をみながら無駄な点灯がないように調整していきたい。制御のない通路や階段灯などは誰かが消さなければいつまでも点灯したままだが、壁スイッチは配線を直結にして取り外し、外灯の電源がある配電盤の近くに自動点滅器を取付けて自動でON・OFFできるようにすればよい。

ビルの省エネ指南書(35)

照明のチューニングポイント〔其の6〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

照明のチューニングポイント(6

照明制御システム(2

4、廊下の照明

どのビルも全ての廊下照明を点灯させていることはないだろう。外光が入るならば消灯状態であり、暗い廊下でも半灯にするのは常識となっている。

スイッチをONにすると全灯となる廊下の場合は、1個置きに管球を間引きして半灯にしているビルも多いが、照明制御システムがあれば半灯の設定が簡単にできる。

写真-8 壁スイッチ

写真-8の壁スイッチにはエレベーターホールと2箇所の廊下があるので、半灯のスイッチが合計6個となる。この壁スイッチには3個のスイッチにシールが貼っている。シールを貼ると自然と貼ったほうのスイッチだけをONにするようになるので全灯になることがなくなるからだ。

半灯のスイッチは片方だけを点灯させればよいので、半灯のどちら側の半灯で点灯したほうがよいのかを実際の点灯状態を見てから判断してシールを貼ったほうがよい。同じ半灯であっても照明位置がずれると照度が必要な位置を照らさない場合があるからだ。

5、全灯と半灯

写真-8の壁スイッチは、以前は2箇所の廊下共に全灯スイッチがあり、その下に半灯スイッチが並んでいた。「全灯」・「半灯」・「半灯」の3つもスイッチがあったのだ。これではどのスイッチをONにすればよいのか迷ってしまい、それが無駄な点灯にも繋がってしまう。そこで「全灯」を削除して「半灯」・「半灯」にしてシールを貼ることにした。このようにしてスイッチの配置が自由にできるところが照明制御システムの特徴だ。

「全灯」を2個削除した代わりに「階段」の照明を追加して、あと一つはブランクにした。

階段照明スイッチは各階の階段位置にあるのだが、この階段位置にだけ、壁スイッチに空きスイッチスペースがなかったので「階段」を割り当てることができなかったのだろう。

階段の踊り場には非常灯が常時点灯しているので、階毎にある照明は必要な時だけ点灯させればよいのだが、他の階で点灯させてからこの階に来るとスイッチが無くて消灯させることができないのだ。このような訳でこの階段位置からは階段照明がON/OFFできなかったが、壁スイッチに「階段」を割り当ててからは無駄な点灯もなくなった。

不必要なスイッチの割り当てを削除すれば無駄な点灯がなくなり、必要なスイッチの割り当てを追加しても無駄な点灯がなくなるのだから、ビル内全てのスイッチにおいて無駄のないON/OFFができるように照明設定の見直しが大切となる。

6、設定作業

無駄のない設定にすればよいと簡単に口では言っても、実際にこれを行うのは大変な作業である。

照明制御盤のスイッチを一つだけONにしてから、どの照明器具が点灯しているのかを確認しなければならないが、他の照明が点灯していたら見分けがつかないので、全ての照明が消灯している時でなければ点灯の確認作業ができない。

私の場合は正月休み期間を利用して確認を行った。

一日中、誰もいない日は正月休み期間中しか無かったからだ。

照明制御盤のスイッチを一つだけONにして、

照明スイッチON⇒点灯照明確認⇒照明OFF。

そして次の照明スイッチONというように、照明制御盤のある部屋と点灯している照明の間を何百回も往復して点灯照明とスイッチを確認していった。そして、各所にある壁スイッチのスイッチ一つずつに、このスイッチをONにした時にはどの照明が点灯するのがよいのかを考えながら、照明制御盤のスイッチを割り当てていったのだ。

ビルの省エネ指南書(34)

照明のチューニングポイント〔其の5〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

照明のチューニングポイント(5

照明制御システム(1

照明制御システムは省エネ設備ではあるが、設定次第では増エネ設備ともなってしまう。省エネ設備とするにはどのようにすればよいのだろう。

1、照明制御盤

最近の照明制御システムはコンパクト化されてきて、パソコン感覚で使えるようになっている。

写真-6のような1台の幅が60㎝もあるような大きな制御盤は使われなくなったかもしれないが、大型のメリットとしては一目で全てのスイッチ状態が把握できるという面では便利である。

2台で560個もスイッチがあるので、建物内のどの照明スイッチがONなのかOFFなのかが一目で分かるのだ。一つのスイッチ毎に赤と緑のLEDがあり、ON状態なのかOFF状態なのかが分かるので、消し忘れの防止には非常に役に立つ。

写真-6 照明制御盤

2、スイッチを色で識別

写真-7のようにスイッチ毎に目印のシールを貼ることも容易だ。自由にON/OFFできるスイッチ、タイマーでON/OFFするスイッチ、必要時のみ点灯するスイッチ、夜間用のスイッチに分けて色の違うシールを貼り、無駄な点灯を防止するのだ。

建物内の各所にある壁スイッチのスイッチ一つひとつに照明制御盤のスイッチをいくつでも割り当てられるようになっているので、一つのスイッチで照明制御盤のスイッチをいくつでもON/OFFすることができる。このようにスイッチ毎に照明を自由に設定できるので、無駄な点灯がないように細かな設定も可能だ。

写真-7 シールで区分け

問題は建物竣工時に割り当てられたスイッチが適切かどうかである。竣工時の設定が適切であれば良いのだが、必要のない場所の照明が点灯するような設定では、照明制御システムが増エネシステムとなってしまう。小さな部屋であれば壁スイッチが1~2箇所なのでそれほど問題がないかもしれないが、広い部屋で壁スイッチが何か所もあれば気を付けなければならない。例えば東側にある壁スイッチを入れた時に西側の照明までが同時に点灯した場合を考えてほしい。部屋の東側しか使わないのに西側まで点灯するような設定ではどう考えても増エネとなってしまうだろう。

3、適切な設定

竣工時に何故適切な設定が行われていないのかと思うかもしれないが、写真-6の照明制御盤のスイッチを一つ入れたらどの場所の照明が点灯するのかを全てのスイッチで把握したうえで、壁スイッチのスイッチ一つひとつに無駄のない割り当てを竣工前にすることは不可能に近い作業である。

竣工後に実際に照明を使うようになってからでないと分からないこともあるので、竣工後に無駄な照明が点灯していないのかを確認し、どの照明はどこの壁スイッチのどのスイッチに割り当てれば無駄のない点灯ができるのかを確認して、設定を変更していかなければならない。一つのスイッチをONにした時に必要な照明だけが点灯し、不必要な照明が点灯しないようにするのだ。

ビルの省エネ指南書(33)

照明のチューニングポイント〔其の4〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

照明のチューニングポイント(4

12、屋外のレフランプ

写真-4の外灯用照明に屋外用のレフランプが使われている。屋外ではあるが雨がかかる場所でもなく、屋内といってもよいような場所である。

このレフランプは150W型120Wが使われているのだが、ランプ切れが3灯ある。1灯だけのランプ切れならば今日切れたということも考えられるが、3灯となるとかなり以前から切れていたことは想像できる。長期間ランプが切れていても問題がない場所ならば、150W型の必要はないとも考えられるので、交換を考えてみることにする。

1日平均12時間以上も点灯している場所なので省エネ効果は大きいだろう。

写真-4 150W型120Wの外灯

 

13、交換ランプの選定

できることならばLEDランプに交換したいのだが、この明るさのLEDランプはまだ製品化されていない。若干暗くなってもよいのならばあるのだが、それでも非常に高価であり、消費電力削減量では投資の回収が困難である。ランプの価格と省エネ効果の両方を考えて、40W型38Wの屋内用レフランプと交換することにした。このような場所ならば屋外用ランプにこだわる必要はない。

消費電力も120Wが38Wになるのだから節電効果もかなり期待できる。

150W型が40W型になるのだから、最初から全部同時に交換するのではなく、1個置きに取り替えて様子をみることにする。150W型の明るさが必要な場所とも思えないが、急いで全部を取り替える必要もない。40W型の屋内用レフランプならば単価も安いため、暗く感じるようならば元に戻しても、それ程無駄な投資にはならない。

14、150W型と40W

写真-5は一番手前が40W型で次が150W型というように1個置きに取り付けて、一番奥が40W型となっている写真である。

写真を見て明るさの違いが分かるだろうか。実際に目で見ても150W型と40W型の違いが分からないのだから、暗くなったことに気が付く人はいないだろう。以前は3灯のランプ切れがあったのだが、今は全てが点灯しているのだから、逆に良くなったといってもよいぐらいである。

誰も気が付くことがなく、誰も不自由を感じることがなければ、これは節約ではなく簡単で効率的な省エネ対策となるだろう。

写真-5 150W型と40W型

次は残りの150W型を全て40W型に取り替え、その次は40W型のランプ切れがあった時に、それをLEDランプに取り替えていけばよい。40W型相当のLEDランプならば価格も安く、消費電力も10W程度なので投資の回収も2~3ヶ月で可能である。実際は写真以外の部分も含めると15灯もあるのだから節電効果はかなり大きくなるはずだ。

ランプ交換は最初から無理をするのではなく、実験のつもりで徐々におこなっていけばよい。

現在のランプの在庫と寿命を考えて、無駄のないように取り替えていくのだ。

ビルの省エネ指南書(32)

照明のチューニングポイント〔其の3〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

照明のチューニングポイント(3

8、ホールのハロゲンランプ

写真-3のようなホールの天井照明にはハロゲンランプが使用されていることが多い。

水銀灯では直ぐに点灯しないので、ハロゲンランプやレフランプと併用することはあっても、水銀灯だけというホールはないだろう。

蛍光灯が部分的に使われていることもあるが、ハロゲンランプやレフランプと併用しているはずだ。

写真-3のホールでは250Wのハロゲンランプが72灯と間接照明として蛍光灯が併用されている。

ハロゲンランプの消費電力だけで250W×72灯=18㎾になる。これだけあれば冬季の暖房には利用できるかもしれないが、夏季にとっては18㎾の熱が大きな冷房負荷となってしまう。

写真-3 ホール天井のハロゲン球

9、ランプ交換と照度

この250Wのハロゲンランプを小さなW数に代えたら明るさはどうなるであろうか。8ヶ所の照度測定ポイントを決めて、照度を測定しながらランプ交換を行ってみた。

交換するランプは150W型90Wである。

測定の結果、250W時の照度が8ヶ所の平均で154㏓、150W型90Wに交換後の照度が8ヶ所の平均で103㏓、ランプ交換後は67%の照度となった。

W型数としては60%なので、照度はW型数に比例して下がるわけではないようだ。

白熱電球の照度は60W×1灯よりも、20W×3灯のほうが暗いので、今回のランプ交換後の照度が250W時の60%以下になってもよいが、逆に67%と明るくなっているのが面白いところだ。

白熱電球とは違い、ハロゲンランプは小さなW数のほうが、効率がよいのか、天井高が影響しているのかは分からないが、興味あるところである。

10、照度と消費電力

W数は250Wが90Wなので僅か36%の消費である。照度が67%で消費電力が36%ならば、かなり効率の良い省エネ対策となりそうだ。

90W×72灯=6,480W

18,000W-6,480W=11,520W=11.52kW

11kWもデマンドを下げることができる。

ホールの場合は点灯時間が比較的に短いので消費電力量的には金額節減効果は少ないが、電力デマンド低減と冷房負荷減少による省エネ効果が期待できる。地域冷暖房ならば冷熱のデマンド低減にも繋がるだろう。冷房負荷が減少するということは暖房負荷が増加することになるのだが、人が多ければ暖房はそれほど必要ではなく、電力デマンド的には夏季の電力抑止の方が大切である。

11、照度計と視覚

暗くなっては困るのでW数を下げることはできないと思うかもしれないが、照度が67%まで下がっても、視覚的には全く気が付かないだろう。

印刷物を見ても、以前と同じように字が読めるので、明るさが変わったことに誰も気が付かない。

ホールという場所はステージを明るくする必要はあっても、客席はそれほど照度を要求されるところではない。154㏓が103㏓になってもその差が分からないのかもしれないが、これが蛍光灯では2/3の明るさになると視覚的にもはっきりと分かる。蛍光灯の色の波長と電球の波長、照度計で計測する波長と人の目が認識しやすい波長、このような色の波長との関係があるのかもしれない。

照度計で測定して暗くなっていたとしても、人の目が暗くなったと気が付かなければ、それは省エネであり、暗くなったと気付くようならばそれは電気の節約であり、省エネとはいえないだろう

ビルの省エネ指南書(31)

照明のチューニングポイント〔其の2〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

照明のチューニングポイント(2

5、吹き抜けブラケット

写真-1はエントランスにある1階から2階までの吹き抜けブラケット×3灯である。

飾りの照明ではあるが1階部分にはこの照明しかないので消灯させるわけにはいかない。

点灯時間が10時間/日、300日/年程度はあるので節電効果は高いのだが、口金E17サイズのLEDランプは価格が高く、回収に3年近くもかかってしまう。現在の価格では、年間で50%の点灯時間がなければLEDランプへの交換は難しいようだ。

 

写真-1 吹き抜けブラケット

このブラケットには60W型54W/110Vのミニクリプトン電球(クリアー)が1灯、横向きに入っている。LEDランプは横向きに光を出す器具には不向きな光源でもあるので、写真-2のような電球形蛍光ランプに換えることにした。

消費電力はLEDランプも電球形蛍光ランプも大差がないので、無理をして高価なLEDランプに交換しなくても、節電効果は同じである。

6、電球形蛍光ランプ

この電球形蛍光ランプには60W型と40W型があったが、それほど照度が要求される場所でもないので、若干暗くなるのを覚悟のうえで試験的に40W型に換えてみた。

実は写真-1の上二つが40W型蛍光ランプで、一番下だけが60W型ミニクリプトン電球である。

 

写真-2 電球形蛍光ランプ

比較のために2個だけ交換したのだが、実際に見ても明るさも色合いも区別ができないほどだ。

60W型ミニクリプトン電球ではあっても110Vタイプなので100Vタイプよりも暗くなる事を考えてもこれだけ区別がつかないことは意外であった。

7、現在でベストの選択を

単純に60W型が付いているから60W型に換えるというのではなく、まず1個だけ交換して比較してみることが大切だ。W数を落としても誰も気が付かなければ問題がないということなので、それから徐々に全てを交換していけばよい。

40W型蛍光ランプは7Wなので4か月程度で回収が可能だ。寿命はLEDランプの40,000時間に対して1/4の10,000時間しかないが、価格が1/8なので回収効率も良い。球交換の手間はかかるが、ミニクリプトン電球の寿命は110Vタイプで2,000時間なので、現在の1/5の手間しかかからないと思えばよい。

LEDランプの寿命が40,000時間といっても確かめたわけではないので信用はできないが、ミニクリプトン球や電球形蛍光ランプの寿命ならばある程度は信用できるだろう。

この蛍光管が10,000時間点灯した頃には、LEDランプの価格も下がっていることだろう。消費電力も下がっているはずだ。明るさもさらに明るい製品が出ているはずだ。その時にまたLEDランプへの交換を検討すればよい。