ビルの省エネ指南書(6)

ビル内気圧のチューニングポイント〔其の2〕
全熱交換機(3)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中 村  聡

5、給排気バランス
 全熱交換機が省エネ設備となるには、ビル全体としての全熱交換機ならばビル全体の給排気バランスがとれている場合であり、空調区画毎の全熱交換機ならば、その空調区画の給排気バランスがとれている場合であり、1室としての全熱交換機ならば、その1室の給排気バランスがとれている場合である。このような場合ならば全熱交換機を運転しても給排気バランスを崩すこともなく、効果的な省エネ換気となる熱交換ができるだろう。
 例えば、局所式空調により冷暖房中の個室ならばセントラル的な給気も排気もないのであるから、この個室のみで考えれば気圧バランスのとれている室内だと言える。しかし、人がいれば換気をしなければならない。このような室内ならば、給気ファンや排気ファンのどちらかだけの運転よりも、給排気を同時におこない室内の気圧バランスを保ちながら換気ができる全熱交換型換気扇のほうが、省エネ換気ができるだろう。

6、省エネ設備の全熱交換機
 全熱交換機を有効な省エネ設備とするには、ビル内にある全ての全熱交換機を区画毎に気圧バランスをチューニングして、導入外気と排気量が等しくなるようにすることが必要なのだ。導入外気+侵入外気=機械排気+自然排気となっているビルが大半ではあるが、導入外気=全排気量となるように給排気量をチューニングすることの大切さを理解していただきたい。
 全熱交換機だから省エネになるという固定概念を捨て去ることが、全熱交換機が省エネ設備となる第一歩となるだろう。

7、外気負荷の計算
 では、どのような場合に全熱交換機が有効になるのかを数字を使って説明する。
 全熱交換機からの導入外気を100m3
 全熱交換機からの排気を100 m3
 機械排気+自然排気を100 m3
 全熱交換機の効率70%
単位時間を無視して空気量だけを上記のように仮定。全熱交換機運転中のビル全体としての外気量と排気量は、カッコ内を全熱交換機として(100 m3-100 m3)-100m3=-100 m3
ビル内は-100m3の負圧となり100m3の外気が侵入してくる。全熱交換機の効率が70%なので外気負荷が30m3、侵入外気負荷が100m3、外気負荷は合計で30m3+100m3=130m3となる。
 次に、全熱交換機の排気ファンを停止させると全熱交換機からの排気が0 m3となるため、(100 m3-0 m3)-100 m3=0m3
侵入外気が0m3で外気負荷は100m3となり、このほうが熱だけではなく電気の省エネともなる。
 機械排気+自然排気が50m3と少ない場合では、全熱交換機の排気ファンを停止させると、
(100m3-0m3)-50m3=50m3となり、50m3の空気が流出するので、これを全熱交換機から排気量を調節して排気すれば(100m3-50m3)-50m3=0m3
50m3×70%=35m3の熱回収ができるので、外気負荷は合計で65m3となる。
 この結果をみると、全熱交換器からの排気量を調節して外気侵入を無くすことが、最も省エネになることが分かる。外気負荷を軽減するにはOAを減らすのではなく、EAを調節することが大切だ。

8、CO2濃度
 ビル全体や空調区画毎の全熱交換機の場合はどこか1室のCO2濃度を考慮しなければならない。
 外気導入だけでCO2濃度が下がらないのであれば、排気量を増やしてCO2濃度を下げなければならない場合もあるだろうが、一般的なビルならば適度な外気導入と自然排気の調整だけでCO2濃度は1000PPM以下を保てるはずだ。
 外気導入量を増やしてビル内を正圧にし、気圧を利用して排気するのは勿体ないと思うかもしれないが、冷暖房期間中は僅かな正圧であり、若干の熱ならば捨てるくらいで丁度よいのだ。